第3話 英雄と救世主

今日、この日はアクアリアの王女

セレネ アクアリウムの7歳の誕生日。

…そして、セレネが襲撃される日である。

誕生パーティーに紛れた者達が、

セレネを誘拐しようとする襲撃事件。

本来のシナリオなら、主人公が解決する

…が、解決するまでに問題がある。

それは、主人公が全力で魔術を使えなくなる

というあまりに大きすぎる問題だ。

主人公、と言ってもまだまだ子供

命の危機に瀕し、魔術の才を覚醒させるが

身に余る程の魔術を発動したことにより、

魔術回路が崩壊し、完全に魔力を貯めることが

出来なくなってしまう。

ってのが、本来のシナリオ

だけど、そんな展開になるのなんて許さない

セレネも、主人公も救ってみせる

皆が笑える結末ハッピーエンドにしてみせる。

状況は最悪過ぎるが、セレネや主人公に

会えることに俺は少しワクワクするのだった。


―――――――――――――――――――――――


屋敷から爆発音が炸裂した時が、襲撃の合図だ。

分かってるなら、襲撃される前に

事前に解決しておけばいいんじゃないの?

皆様そう思ってらっしゃるでしょう

…うん、俺もそうしようと思ったよ?

でもね?襲撃犯の名前もちゃんとした姿も知らんし

その上何時からとかも知らんのよ。

あの時適当に書いてたせいで、

こんなことになってしまうとは…!

(あーあ、細かい部分ちゃんとしとけば良かった…)

そんな、この世界に転生してから毎日のように

思う自分への文句を言っていると、

ドゴォ!と屋敷から爆発音が轟いた。

「全員救う」

身体強化エンハンス』+『風導エアロブースト

誓うように呟きながら、屋敷へと全力で走り出す。

爆発音から数十秒で屋敷へと辿り着けたが、

セレネの姿はもう屋敷にはなかった。

(クッソ…遅かったか…)

でも、誘拐犯達の所に先回りする訳には

いかなかった。それは…

「アル レヴィナールだな」

主人公を向かわせる訳にはいかないから

「…誰だ、君は」

そう言って俺に警戒の目を向けてくるこの少年は、

この世界の主人公英雄である。

「通りすがりの救世主…かな」

「何言って…!」

「悪いが、話をしてる暇はない」

アル、お前ならもう分かっているだろう?

英雄であるから分かるだろう?

「この場はお前に任せる」

「俺もセレネを追う!」

(…眩しいな)

全てを救う、英雄の瞳。

思わず委ねたくなる。この男に賭けたくなる。

でも、駄目なんだよ

「この国の王が易々とやられると?」

魔術が存在する世界において、

国の王とは、その国の最強を表している。

そんな王がそこらの盗賊に遅れをとる筈がない

「任せて…いいんだな」

半信半疑、だがそれでも俺を信じるように呟いた。

(任せろよ英雄)

「俺はお前を信じてる、だからお前を俺を信じろ」

「「頼んだぞ」」

再び全力で地面を踏みしめ、屋敷を飛び出す

アルの問題は解決出来た。後は…

「止まれ」

「ッ!?」

俺は、誘拐犯達の前に立ち塞がる。

後は…誘拐犯コイツらを倒して終わりだ

服従人形パペットマインドっ!』

誘拐犯の一人が焦ったように魔術を発動する。

…洗脳魔術。最強の初見殺しである高等魔術

そして、王が遅れをとった原因。

王妃を事前に洗脳しておき、

警戒が緩む娘の誕生日に睡眠薬を盛る…か

「…っ!どうして効かないんだ!」

光弾ルクスオーブ

その瞬間、光が炸裂する。

「それを、お前が知る必要はない」

洗脳魔術というものは、事前に分かっていれば

対処は容易い。精神阻害魔術を常に発動し、

攻撃魔術も二重詠唱で発動させる。

火球ファイヤーボール

水球ウォーターボール

放たれる火球を水球で相殺する。

そして、放たれる様々な魔術の全てに対し、

有利属性魔術で反撃した。

「お前…何種類属性を!」

「終わりだよ」

もう、洗脳魔術を使える奴は倒した

そして、この方向なら何も巻き込まない

(思いっきりやれる)

火球ファイヤーボール』+『水球ウォーターボール

火と水の魔術が炸裂し、

誘拐犯達は全員気絶していた。

(終わっ…た)

洗脳魔術の対処法を知っていたとしても、

数の差ってのは脅威だ。

今回は誘拐犯達が全く意思疎通が出来ていなくて、

連携されなかったから良かったけど…

やっぱり洗脳魔術など知らずに、

ゴリ押しでぶっ倒したアルは化け物だな。

「…後ろっ!」

「えっ…?」

セレネが俺に向かって叫ぶ。

俺はしっかり5人気絶させた筈で

誘拐犯は全員で5人だ。俺が間違える筈がない。

気配も感じなかった…

隠密行動ステルスか!?』

しくじった…!俺というイレギュラーが

介入したことでシナリオが狂った…!

6人目が居ただなんて予想外だ…

(避けれない…!)

「なーにが任せろ、だよ」

少し笑ったような声が俺の背後から聞こえた

思わず、俺も笑ってしまう

さっき死にかけていたというのに

(…やっぱり、お前は英雄なんだな)

「な、なんなんだよお前ら!」

アルの攻撃を受け、最後の一人が

絞り出すように呟いた言葉に俺たちは

「ただの英雄だよ」

「ただの救世主だよ」

そう告げるのだった。

その瞬間、俺は思わず倒れ込む

(今度こそ…終わりだ)

セレネは無事だし、アルも魔術を使える

今この瞬間は、間違いなくハッピーエンドだ。

「子供の分際で大人をも倒す力を

もっているだなんて"強欲"なんじゃないか?」

(…は?)

待て、待て待て待て、どういうことだよ…

思考が纏まらない…脳が理解を拒んでくる…

どうしてここにお前が…!

「"七つの大罪"…強欲」

そこに立つ者が、この世界の歯車が

狂い出したことを告げていた。










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自分が作った物語の世界に転生!?おい、過去の俺!バッドエンドにしたこと恨むからな!? 空澄 @MiKage04250735

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