12 生きたいはずだ

「宇宙船に忍び込んだやつらはどうにかした」

「え、そんなことできるなんて知らないんだけど。そんなセキュリティあったの?」

「ない。筋トレグッズの充電終わったところだった」

「いや何を先に充電してんだよ!」

「だから筋トレマシンに挟まれて死んでもらった」

「こえーよ!?」


 確かにやたらギチギチなバネでできた筋トレマシンはある。そもそもこのご時世、筋肉委縮を防止するためのパルス刺激グッズはごまんとある。

 筋トレ自体する必要はないのだがデルは暇さえあれば筋トレをしている。ばね仕掛けなどいつの時代だ、と思ったがこういうアナログなものをデルは好むのだ。


「遠隔操作ができ……いや違う殺傷能力がある筋トレマシンにつっこむべきか!?」

「帰ったら掃除だ」

「自分でやれよ!? 絶対俺部屋に入らないからな!」

「ちなみに手分けをしていたらしくもう一匹はもうすぐここにくる」

「はよ言え!」


 慌てて武器になりそうなものを探すがそんなものはない。そもそもアニタは戦闘経験がないのだが。


「こ、ここを戦場にしないでください! 彼女の命に関わります!」

「だよね!? くっそお!」


 この部屋にあるものはすべて貴重なものだ。何かが壊れればどんな影響があるかわからない。


「デル! どうすればいい!?」

「こういうとき何とかしてくれ、と言わないのがお前らしいな」

「は!?」


 こんな時に何を言ってるのか。意味が分からず聞き返すとデルは静かに立ち上がる。


「他人任せにせず諦めずに自分で何かをしようとする意思。それでこそ掃除屋だ」


 その言葉と同時にドガア! と爆音とともに扉が爆破された。どうやらすでに扉の前にいたらしく派手に壊してきたのだ。爆薬を使ったりはしないだろうから派手なのは煙幕による演出だ。

 煙と共に何かが部屋に入って来るのがわかった。デルが座っていた椅子を投げつけるが、相手はそれを一刀両断する。


「ほう? キャビレードとはまた古臭いものを使う」


 侵入者が持っていたのは薄緑色に光る長い武器だった。見た目は大きなナイフなのだが、真っ二つにされた椅子の断面はレーザーで切ったものよりも滑らかだ。


「気を付けろよ、かすったらそこは切断しないといかん。細胞が再生できんからな」

「怖いしやばい!」


 アニタにできるのは隠れる、逃げることだけ。運動神経は良い方だが、どうしてもまだ筋肉がつきやすい年頃ではないので戦闘には不向きなのだ。

 すると侵入者はデルを無視して彼女のシリンダーに一気に走る。


「止まってください!」


 トモが、大の字になって飛び出した。トモは彼女の為に存在する、守ろうとするのは当然の行動だ。勝てる可能性がまったくなくても、真っ二つにされようとも。役に立つ機能がなくとも、記録が……記憶がなくとも。


――トモ。


 アニタの目に映る。振り下ろされるブレード、動かないトモ。



「お前、名前は」


 あの日あの時、初めてデルと会った。ゴミ山で過ごしてきたアニタは何も知らなかった。常識も、生き方も、世界も、感情も、何もかも。


「……エニ」

「ふむ、まったくもってつまらん名前だな。今日からお前はアニタだ」

「アニタ?」

「丁度頭数が必要だった。行くぞ」

「どこ、に?」

「どこかだ」


 そう言って差し出された手、握り返したらとても温かくて。初めて芽生えたのは、「嬉しさ」だった。


 生きていいよと言われた、居場所があるからこいと言ってくれた。


 気が付いたら涙がこぼれていた。感情がないわけではなく、知らなかっただけだ。この時初めて知った。嬉しくても涙が出るのだと。


(俺に、生きる意味をくれた)


 自分の生きる意味は結局よくわからない。でも、記憶がなく一人で過ごすことの孤独や絶望を知っている。誰かが来てくれたのがあんなにも嬉しかった。

 トモだってきっと同じだ。いろいろ文句は多いが、敵意なく協力してくれるのは嬉しいから。助けてもらって感謝までしていたのだ。


きっと、トモだってまだ「生きたい」はずだ!


「やめろテメエエエ!」


 手近にあったものを掴む。それが何なのかわからないが、硬いので鈍器にはなるはずだ。それを無我夢中で投げつけ、ようとしたが。

 勢い余ってよろけ、侵入者とトモの間に飛び出してしまった。


「へあ!?」

「ああ!?」


 トモが慌てる。振り下ろされたブレードは止まらない。


 死ぬ? せっかく生き延びたのに? ゴミ山から出て、やっと人らしい生き方ができると思っていたのに? たった半年なのか、俺の「命」は。


いやだ。死にたくない!


「た、す」


 そんな言葉が漏れた。


「アニタ殿!」




頼んだよ。必ず殺してくれ。一人も残さずに、全て

頼んだよ。


”    ”


――わかったよ、博士。約束だ、私が全て殺す。

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