13 本当の、目覚め
ドガァン! と凄まじい轟音がした。見れば侵入者は遠くに吹き飛んでいる。それもそのはず、またしてもシリンダーの蓋が吹き飛ばされていたのだ。今度は原形を保ったまま、侵入者に直接当たったので扉ごと吹き飛ばされたらしい。
「あ」
また目覚めた、と思って尻餅をついたが先ほどとは雰囲気が違う。殺気がなく、静かにたたずんでいる。
「……」
ちらり、と一瞬アニタを見たがすぐに目の前の侵入者に目を向ける。
「殺す」
透き通った聞きほれてしまうような声。鈴を転がすような声が静かな空間に響く。凛とした、という表現がピッタリだ。単語はとても物騒だが。
彼女は一気に駆け出した。その勢いは凄まじく、一瞬で数メートルの距離を詰めたほどだった。
一気に距離を詰めたことにも驚いたが、その反応速度に相手はついてきた。突っ込んでくる彼女にブレードを瞬時に振りかざし、横薙ぎにしようとしてくる。しかしそれを地面に這いつくばるようにして一瞬で避けた。
まるでブレイクダンスをするように、腰を軸にして大きく体を半回転させると相手の足を思いっきり自分の足でなぎ払った。ガギン! と鈍い音がしたのでどうやら相手はアーマーをつけているようだ。しかし彼女はダメージを受けた様子はない。相手は勢いをそぎきれなかったらしくバランスを崩す。
後は一瞬の出来事だった。相手の腕からブレードを奪うとあっさりと首を切り落としてしまった。
人間の首の骨は太い、簡単に切り落とせるものでは無いのに。ボールが転がるかのようにゴロゴロと頭部が転がっていく。
「あ」
アニタの小さな声に、トモはハッとした様子でアニタの顔にしがみついた。
「見てはいけません!」
「いててててて! 耳をつかんでぶら下がらないでよ、もうそれにもう見ちゃったし!」
「大丈夫ですか、頭痛や吐き気は!? 記憶を失わせるために頭を殴ればいいですか!?」
「俺のこと殺そうとしてない!? 大丈夫だよ慣れてるから!」
「はい!?」
「掃除屋やってると死体なんていつも見つけるよ!」
ようやくトモはぴょんと飛び降りた。
「致し方ないとはいえ、あなたの教育上よろしくありません」
「生体兵器の近くにいたらこうなるの当然だと思うんだけど」
「あ、そうでした」
改めて二人は彼女を見る。普通の人間の動きではなかったので、遺伝子や肉体を作り替えられた人造人間であることは間違いない。
それにブレードをあっさりと使って見せた、もしかしたら使い慣れているのだろうか。そんなことを考えていると一気に彼女はアニタに距離を詰める。
「ひえ!?」
じっと彼女はアニタを見つめる。その目はまるで獣だ、瞳孔が開いておりはっきり言ってむちゃくちゃ怖い。
「何故」
「は?」
「違うのか?」
「えっと。何のこと?」
「匂いがしたと思ったのに今はしない」
「?」
そういうと見つめたままだが一歩距離を取る。
「観測を間違えた? 私が? いやしかしそんなことが。確かに万全ではないか、体が硬い……」
「えっと。もしかして俺今殺す対象かどうか品定めされた?」
「おそらく」
トモがそういうと、彼女はトモをじっと見つめる。
「おまえは」
「記録はありませんがあなたのサポートです」
「……。そう、なのか」
「覚えていませんか?」
トモの言葉に静かにうなずいた。
(トモと同じだ。記憶が消されているのか)
人造人間であれば記憶の消去はできると言われている。記憶を司るのは神経細胞などだ。人造人間は遺伝子操作をされている強化人間、よく言えば人間の欠点をなくしたもの。悪く言えば簡単に管理、コントロールができるもの。
脳に一定の刺激を与えて記憶を消すことはできるらしい。一応彼女はトモに対して敵意はなさそうだ。
(殺す対象は人間だけか。落ち着いてれば凶暴な性格ではなさそうだし、トモに攻撃はしなさそうかな)
記憶がない彼女と記録がないサポートロボ。ここを作って廃棄した者は一体何がしたくて、どうしてそんなことをしたのか全くわからない。そしてもっとややこしくなりそうな要素がもう一つ。
「!?」
突然彼女が後ろに数メートル飛びのいた。
「なんだ、尻を揉もうとしただけなのに。首を取られるかのような反応だ、失敬な」
「お前はなんだ!?」
それまでクールだった彼女の態度が一変する。無表情にアニタを見つめていた時とは違い、どこか焦ったような、警戒心マックスといった様子でデルを睨みつけている。
「母だ」
「母?」
「それについては順を追って説明するからとりあえず今の言葉を忘れて……あと尻を揉む必要はないだろうが」
「筋肉が緊張状態でいきなり大暴れしたら筋肉痛になる。大臀筋をほぐすだけだ」
「全く気配がしなかった、ありえない。私に生体反応を悟らせないなど」
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