11 侵入者

「長い真っ黒な髪、黒い瞳、しなやか、かつふくよかな乳と尻。間違いない」


 確かに彼女の髪は黒い。しかし黒髪の女性には今までも何度か会っている、その時大和撫子だと騒いだことはない。


「私の目測、大和撫子二百パーセントだ」

「なんでだよ」


 要するに日ごろから気に入っている大昔の島の理想の女性像に彼女がそっくりなのだ。下手をすれば権力者を敵に回すかもしれないのに、あっさりと言ってのける。


「デルのやりたい事はやればいいと思うけど。やばくなったら俺彼女を見捨てるからね」

「自分を殺しに襲いかかってきた相手を助ける気でいたのか」

「あ」


 忘れてた、とでも言いそうな雰囲気にデルは大げさにため息をついてやれやれと首を振った。


「ツツモタセに引っかからないようにしっかり教育せねばな」

「意味は全然わかんないけど、今すげえ馬鹿にされてるんだなっていうのはよくわかった」

「美人に鼻の下を伸ばした結果八つ裂きにされるという恐ろしい私刑だ」

「え、こわ」

「微妙に違いますが、怖いということに関しては合っているので気をつけてください。あなたは純粋すぎます」


 ずっと二人の会話を聞いていたトモがそんなことをいう。


「ほう? 美人局を知っているか」

「知っていたようです」

「公用語にはない単語なのだがな」

「え?」

「私激推しの貧乏島国独自の言葉だ。どうやらこの件の責任者らしい馬鹿と天才の紙一重の人物は、そこの島国出身の子孫らしいな」


 は、とデルは小さく笑う。モニターを見ながらなのでその表情はわからないが。


「実に――だな」


 つぶやいただけのため、最後は聞き取れなかったのだが。その声は淡々としていて何の感情も感じさせなかった。




 構内図を手に入れたことでドッキング部分やハッチなどがわかったので、ひとまず宇宙船をつけることには成功した。宇宙船には戻らずデルの端末からの遠隔操作だ。


「まずは塵芥と化した元依頼人の仲間がいると見て間違いない。当面はこいつらにバレんよう逃げ回ってまくのがミッションだ。姫がしめやかにならんことには、まともにここを管理運営できないだろうからな」

「下手すると俺たち殺人容疑かけられちゃいそうだもんなぁ」


 殺してはいないが見殺しにしたのは確かだ。そんな説明をしたところで納得してもらえるとは思えない。こういう仕事をしていると犯罪を押し付けられるのはいつものことである。


「彼女どれぐらいで……えーっと、まともになりそう?」


 いつ起きるのか、と聞こうと思ったが起きてまた襲われたのではたまらない。興奮状態をおさめる処置をしているようなのでこんな聞き方になってしまったが。


「まだ脳波が大幅に乱れているのでしばらくかかります、としか言えません」


 画面に表示されているバイタルサインは確かにあまり良い傾向とは言えないようだ。アニタに専門的な事はわからないが、脳波と思われるグラフは一定ではないし心拍数は少し高いようだ。眠っているのなら心拍数はゆっくりのはず、だいぶ具合が悪いようだ。


「せめて名前は知りたいね」

「はい」


 眠り続ける少女。襲い掛かってこないのなら早く目覚めて欲しいが、もしもこのまま安定しなければずっと眠り続けることになる。

 施設にどの程度物資が残っているかわからないが、何か治療すれば当然その物質はどんどんなくなっていく。必要なものがなくなってしまえば彼女の治療は不可能だ。


「先ほどから何かが不足していると表示されているのですが。トモのデータにはそれが何なのか記録されていません」

「え、なに?」

「kana、という単語がずっと出ています」


 画面にトモのカメラから出ているレーザーポイタが当てられた。確かにエンプティのようなものが表示されている中にその単語が書かれている。


「詳しい事はあえて消されてるってことか」

「はい。このkanaというものがあれば、彼女はもう大丈夫なはずなんですが」

「そんなものはここに存在せんな」


 デルが口を挟んできた。見ればデルは複数の画面を同時に眺めており、しかもすべて超高速でデータが流れ続けている。


「あなたの動体視力と脳内処理はどうなっているのですか」

「これくらい掃除屋はできる」

「え、俺もできるようにならなきゃだめなのそれ」


 げんなりした様子でアニタが言う。その言葉にデルは無言だったが、やがてすべてのウィンドウを閉じた。


「検索にもかからずざっとデータを見てもみつからん。当面はkana探し。それにはこの施設について詳細を調べる必要がある」

「っていってもなあ」


 具体的にどうするのか。廃棄された謎の施設だ、調べても隠ぺいされている可能性は高い。大騒ぎしたりヘタにつつけば「殺してくれ」といっているようなものだ。唯一の手掛かりはトモだが、望みは薄い。


「カモがいるだろう」

「あ、そっか。牡丹を襲撃してきたあいつら」

「はい?」


 そのあたりの事情を知らないトモは不思議そうだ。説明しようかと思ったが。


「丁度今侵入してきたからな」

「ふぁ!?」

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