10 牡丹があった場所
「本当はいろいろやらなきゃいけないこと残ってるんじゃないかな。トモにわからないように」
彼女の体とデータリンクしているのは間違いない。脳内の神経伝達物質の状況などを把握していたのでおそらくモニタリングをしているのだ。
「自分のことなのに全く自覚がないことを言われると奇妙な感じですね」
「あー。そういうこと言うとね」
「では私が解体して中身を見てみるとしよう」
「デルがこう言うし実際やるから、やめたほうがいいよ」
「勉強になりました、断固としてお断りします!」
ビャッと高速で離れて彼女の眠るシリンダーの前にちょこんと座った。襲われたが彼女のことを怖がっている様子は無いし、心配しているのも間違いない。トモは彼女のために存在するのだ。
彼女に何かあればトモが必ず知らせてくれるだろう。ひとまず彼女はトモに任せて、アニタはデルのほうに近寄った。
「エネルギーのチャージってほんとにできそうなの?」
「チャージできる施設があった」
宇宙船のチャージは様々なタイプがある。古いタイプの宇宙船の燃料は実は水である。電気分解によって水素を生成し可燃の燃料として使うものと、水そのものを全体内で循環することによって得られる電力。それらをチャージしながら使っているのだ。いわば宇宙船はそれ一つが一つの水力発電のような役割になっている。
水があれば宇宙船は動くのだが、それよりも爆発的なエネルギーのチャージに使えるのはもちろん電気だ。太陽光、太陽風などが一般的である。
「見ろ」
デルに言われて表示された画面を見た。それはこの施設の構内図だった。アニタがダウンロードしたマップとは違い、外装から全て揃っている。
専門的なものはわからないがデルが指さしたのはある一カ所。何の変哲もない場所なので首をかしげていると、デルがキーを操作してグラフィックを見せてくれた。
「緊急のエネルギーチャージ装置だ。すべての電源がダウンし、復旧不可能となったときに使えるようになっている」
「え、これって」
展開されたグラフィックの形はまさに、かぐや姫が眠っていたあの施設。巨大な光る花のように見えたパラボラだった。
「同じ設計のもの?」
「違うな、そのものだ。強制パージされた記録が残っている」
「じゃあもともと一つの施設だったってことか」
自分たちが先に見つけたあの施設こそ、本来示されている場所についていたものなのだ。パラボラではなく原子炉を格納した建物そのものが切り離された。
「少々お年を召したかぐや姫は、よほど彼女に目覚めて欲しくなかったようだ」
「原子力発電を使ってしまったら、確実に彼女が目覚めてしまうから切り離した? って事は彼女をその場で殺すことはできなかったし、原子炉そのものを自爆させるわけにはいかない理由もあったんだね」
「そうだ。そんなものをわけのわからん連中に渡すわけにはいかんだろう」
「あ、それで」
ここをマイホームにすると言ったのだ。それは間違いなく争い、ゆくゆくは殺し合いの火種になりかねない原子力のデータと兵器を渡さないためだ。
世界戦争という概念などとっくに廃れた。ほんの小さな小競り合いがいつまでも終わらない消耗戦となって、いくつもの小さな紛争が生まれる。惑星内の規模でやってくれている分にはいつか終わるが、宇宙規模となると一体いつからが始まりでいつが終わりなのかさえわからない戦いが延々と続くのだ。
今回かぐや姫と共に散ってしまった彼らが一体何者なのかわからない。私設組織というにはあまりにも巨大なような気がしてならない。
こういう時は警察や政治家、ヒエラルキーが遥か上にいる奴らが関わっていることが多いのだが。
「この施設を知っている組織は絶対にある。そして小規模で乗り込んできたのなら、間違いなく目的は彼女の回収だ。始末ならミサイルをぶち込んだ方が早いからな。反撃してしまったあたり、今回の奴は雇われのようだが」
核融合施設のデータ、生体兵器、それらを欲している者がいる。なんのため、など考えるだけそれこそ馬鹿馬鹿しい。
「戦争に、させないため?」
「誰が世の中のためにやると言った」
「え」
「貴重な大和撫子をスケベどもに渡すわけにはいかん」
「詳しい説明求む……」
先ほどまでとてもシリアスな雰囲気だったのに、大和撫子という単語を聞いた途端にどっと疲れが出てくる。そういえば光るパラボラに行く時も同じようなことを言っていたが。
「私が心から激推しのチンケな島国」
「前々から思ってたんだけど本当に推してるの? 島のこと貶しすぎじゃない?」
「他に言い表しようがないのだから仕方ないだろう。とにかくその島国には古来より美しいとされる女性は大和撫子と呼ばれた。姫は間違いなく大和撫子だ」
「え、なんで」
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