9 家族
確かにロボットもプログラム通りに動けば感情というものを表してくるが。まさか危機を察知したと同じ意味で捉えられているとは。
「失礼な事を言うな。よかろう、納得がいくようにちゃんと説明してやる」
デルはカッと目を見開いて勢い良くトモを指差した。
「ペット!」
「ひどい!」
そのまま親指を立ててクイッと道案内でもするようにアニタを指した。
「末っ子!」
「え、ああ? うん?」
「美少女は姫!」
「なんか急にポジションがおかしくない!?」
「そして私が!」
このノリは絶対に夫とかいうやつ――!
「ママだ!」
「なんでだよぉ!?」
トモとアニタの声が盛大に被った。先程まで丁寧語だった、というよりそういう喋り方がプログラムされているはずのロボットが喋り方まで変えてしまうほどの異常事態。
「絶対に嫌だよ!」
「何が不満だ」
「全部だボケェ!!」
未だかつてここまで腹から声を出したことがあっただろうか、というくらいアニタは絶叫する。
「母親は娘をスケベな目で見ませんよ!?」
「何をいうか、母とは娘の二次性徴を事細かくチェックするものだ。子供たちの成長を見守り、ペットの世話をして、すべての責任者。私が日ごろ激推ししている大昔のちっぽけな島国でもこんな格言が残っている。『カーチャンは最強だ』とな」
腕を組んで堂々とした態度。何故そんな自信満々なのか、と思っているとデルは一言。
「よし、納得したな」
「するか!!」
再びアニタ達が丸かぶりの叫びをあげた。そんな話をしているとアニタがはっとした様子で彼女の方を見る。
「今うめき声がした、見てよちょっと眉間に皺寄ってる! 絶対嫌なんだよ!」
見れば本当に少々苦しそうな表情をしている。トモが慌てて近寄り、色々とデータ収集したようだが特に大事には至らなかったようだ。
「脳波が乱れています。悪夢を見ているようです」
「ゴリマッチョのおっさんがママになるのが相当嫌なんじゃないの」
「ママのようにキレイになる、と対抗心を燃やしてくれているのだろう。お揃いコーデだしな」
確かにデルは体にぴっちりとフィットするタイプのボディースーツを着ている。運の悪いことに何の模様もなく真っ黒いという共通点から同じ格好してるように見えなくもない。
かたや女性の体形を存分にあらわした美しい曲線、かたや屈強な兵士も裸足で逃げだしそうなゴリゴリの筋肉質。腕の太さはアニタの太ももの太さほどあるくらいだ。
どうやら調べ物が終わったらしく、デルはアニタ達の方を向いた。アニタは既に作業が終了している。ひとまず宇宙船に詰めるだけの水の精製をプログラムして今採取している真っ最中だ。
「彼女がいればこの施設は使える。今はこの部屋しか生きていないが、きちんと稼働すればバイオプラントなども使えるだろう。飯に困らない、生きていくための空気の循環もされている、おそらく燃料のチャージもできるだろうな。加えて私は彼女を助けることができる」
「助けられる? 何を根拠に」
ぐぬぬ、といった様子のトモだったがデルは意外にも真剣な雰囲気だった。
「謎は多いがざっくりとか要点は把握した」
「マジで!?」
驚いたのはアニタだ。何でもこなせる器用なやつだと思っていたが、まさか研究施設のデータを見ただけでわかってしまうとは。
「何がわかったの?」
「人型戦闘兵器専用のお家といったところだ。この施設そのものが彼女のために設計されている。この設備のキーが彼女なのだ」
「さっき言ってた姫っていう例え、間違ってはいないんだね」
「ここは我々が乗っ取……マイホームと決めたので今日から私がここの主となった。だから彼女は姫で良い」
「聞き捨てならない単語を聞いた気がしたけど。でも確かになあ」
はっきり言ってメリットの方が大きいのは確かだ。怪しげな場所ではあるし関係者などが乗り込んできたら面倒だが。要は見つからずに過ごせばしばらくは安泰ということになる。実はこういう廃棄された施設を根城にしている同業者も多い。
それには彼女の絶対安静と、できればこのまま目覚めないでいてもらうことが前提条件となるが。正直食べ物も少なく逼迫している状況だ。一時的にはここに滞在するのもありだなとアニタは考える。
「彼女に関しては全て消されているのでさすがにわからん。そこはペットに任せるとしよう」
「心外です、トモはペットではありません!」
「頑張れば小姓ぐらいにはしてやろう」
「コショー? がよくわかんないけど。でもちょっと気になってたんだよね。さっきデータが何もないって言ったけどさ、彼女が危ないかもってなったときデータ収集とか状況の判断したじゃん。悪夢を見ているのもわかったし」
「あ、はい」
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