8 居住へ
状況を見てどんな手が最善なのかを一瞬で学んでいたということだ。決して闇雲に暴れていたわけではないという事実にぞっとする。しかもそんなに細かく振動を与えていたことに全く気がつかなかった。
「何とかなりました。興奮状態にあるので神経伝達物質をコントロールされたようです、セロトニン増加のための薬液を注入されました」
「ごめん、もうちょっとわかりやすく」
「寝ました」
「あ、すごくよくわかったありがとう。できれば今後は説明じゃなくてそういうふうにわかりやすく言ってくれ、俺わからないこと多いから」
「わかりました。そういえば結局協力し合っていますね」
「かなり状況がやばかったからな。ここはいがみあうより協力するのが最善じゃない?」
考える暇などなかった。戦闘能力がないアニタは逃げたり隠れたりすることしかできない。それはおそらくトモも同じなのだ。
「そういえば、お礼を言っていませんでしたね」
「ん?」
「助けてくれたでしょう。それに助けてくれた理由が、見殺しにするわけにはいかないと言っていました。その後唯一の手がかりだとも言っていましたが。普通は逆です、唯一の手がかりだから助けるのが先のはずなんですが」
「あー、そう?」
アニタとしては当然のことをやったまでなので、不思議に思われるのが不思議だ。
「トモは人間ではありません、生きる死ぬという表現は間違っています。あなたは無機物に生命を投影するタイプですか?」
「それ、結構めんどくさい考え方だなぁって思うんだよね」
「はい?」
言われたことのない内容にトモは、おそらく人間だったら目を点にしている状態だろう。
「こういう時はこうするべき、ああいう時はああするべき。みんな細かくいろんなことを分類しすぎだよ。状況に合わせてそれを使い分けなきゃいけないなんて、種類が多すぎて覚えきれない。ロボットでも人間でも動物でも異星人でも、生きる死ぬでいいじゃん」
定義としては間違っている。生命と機械は全く違う。しかしそういったものをひっくるめて全て大枠では同じだとアニタは言っている。
「アニタ殿」
「なんか丁寧な呼び方になった」
「トモは今嬉しいんだと思います。ありがとうございます」
「え、あ、はい。どういたしまして?」
ロボットに丁寧にお礼を言われたことなどないのでどう返していいのかわからないが。とりあえず定例文で返してみる。それでもトモはどこかうれしそうだ。球体にカメラが付いているだけの簡単な作り、顔の部分はなく表情というものは全くないのだが。
トモはとにかく全身で感情を表してくる。今はウキウキしているという様子だ。ちょろちょろとアニタの周りを動き回っている。
とりあえず各々やるべきことをやることにした。デルはシステムを見つめずっと何か考え事をしている。アニタは水の装置が動いているので水の精製と使える部品はないかのチェック。トモはひたすら少女を見つめている、データチェックをしているようだ。
「だめだ、この施設そのものと一体化してるからパーツを持っていくことはできないや」
水は使ってしまえばなくなる。精製装置そのものを直さなければ意味がない。
「何を困る必要がある」
モニターから目を離さずにデルがそんなことを言った。
「次の仕事ないし、装置直せないなら水をここに取りにこなきゃいけないじゃん」
「お前のそういうところはまだまだだな。解決策はすでに出ているというのに」
「ん?」
「今日からここがマイホームだ」
「ほえ?」
「断固反対です!!!」
アニタの声を掻き消してしまうほどに叫んだのは当然トモだった。かなり憤慨しているようでデルの膝にしがみつき、暴れる猿のようにガクガクと揺さぶってくる。
「そこは凝っていない、やるなら裏ももにしろ」
「誰が全自動マッサージ機ですか!? そうじゃなくてここに住むって、絶対許しません! ここは彼女のための施設ですよ!?」
「だからだろう。我々はもう家族だ、家族が一緒に住んで何が悪い」
頭の痛い展開にアニタは本当に両腕で頭を抱え込む。
「突っ込むのが怖いんだけど、それは保護者って意味で? お婿さんって意味で?」
「やめてください、この世で一番怖い質問をしないでください!」
「どちらも不正解だ」
「あー! なんか想像以上に怖いこと言いそうな気配を察知!」
トモからビービーと警告音が鳴り響く。
「何の音それ!? すげーやばそうな音してる!」
「非常事態を周囲に知らせるためのアラートです!」
「ロボットに本気で怖がられてるじゃん、やめてよ!」
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