7 暴走寸前の状態
トモが描いた絵は棒にいくつもの突起物がついたようなもので、それを鍵穴に差し込んで回して鍵を閉めるタイプのものだ。トモにとって鍵と言えばこれなのだが、そんな防犯機能がまるでないアナログなものは数百年前にとっくになくなっている。今これを使っているものがいたら宇宙人だと思っていいくらいの認識だ。アニタからすれば壊れかけの何かのパーツにしかみえない。
「何はともあれ。美少女が目覚めて、システムまで立ち上がったのなら確かにキーが認証されたということだ。キーはおそらく単語だ、お前たち会話をしていたのだろう」
「えっと」
そう言われてあの時の会話を思い出す。
「彼女が目覚める瞬間にした会話って自己紹介だったっけか」
「直前の会話は、あなた誰ですかとトモが聞いたら、自分はアニタだと言ってくれました。物資が足りない、泥棒ですかと会話しています」
「なるほどわかった」
「え!?」
今の会話で答えに結びつくものがあっただろうか。アニタとトモは二人同時にデルを見つめる。
「おそらくこの美少女の名前、アニータと見た」
「へ?」
「名前を呼ばれたから起きたのだろう。アニタとアニータでは微妙に発音が違うが。そこはここの音声入力がポンコツだったに違いない」
「何を言っているんですかあなたは」
呆れた様子のトモと違ってアニタはぐっと拳を握り締める。
「くそ、ちょっとありそうだなって思っちゃった自分が悔しい」
「しっかりしてください、あなたの聡明さが今は頼みの綱なのです」
「ロボットがそれ言っちゃうの? 人工知能の方が絶対頭がいいと思うんだけど。俺ゴミ山育ちだから頭悪いんだよ」
その言葉にデルがすかさず反応する。
「それは違う、訂正しろ。勉強が不得意というだけで頭が悪いわけではない」
「また妙なところこだわり始めるし」
時折理系なのかと言いたくなるような、妙なところにツッコミを入れてくる。彼なりの定義や物事の考え方があるのかもしれないが。
ううううあああ!
それまでおとなしかった彼女が突然声を上げる。それと同時にシステムが勝手に動き始めた。
「え、え、どうしたの!?」
勝手にモニターがついて様々な数式や言葉がいくつも重なって出てくる。アニタには何が起きているのかさっぱりだ。
「脳内物質が不安定になっているそうです、正常に戻すために一度シリンダーに戻す必要があります」
「わかるんだ?」
「見ていてわかりました。トモは彼女のサポートロボのようです」
あたりを見渡すと確かにシリンダーは壊れたものを含めて合計で四つある。予備なのかそれぞれ違う役割なのかはわからないが。
「では眠り姫には再び眠りについていただこう」
そう言うと後ろ側に拘束していたロープをなんとデルは解いてしまった。一気に飛び上がろうとした彼女の首根っこを掴むと、そのまま
「な、なぜそんなに拘束が得意なのですか!? まさか日頃から誘拐を!?」
「あ、いや。俺たちゴミを売りさばく職業でさ。荷物の梱包が得意だから」
「微妙に納得できるようなできないような」
アニタの言葉にトモは少し困ったような反応をした。しかしアニタが言ったことも事実なのだ。壊れたもの、大きさがバラバラなものをきっちりと梱包する能力はこの職業には必須である。無重力から重力下になった時倒れないようにしなければならない。
壊れた宇宙船や探査機を雁字搦めにして牽引していくなど何度も経験している。小さなものでも大きなものでも、重心を考えて縛り上げるのがデルは非常にうまいのだ。
「それがまさかこんな形で役に立つとは」
「役に立っているのだからいいだろう」
「いやまあ、そうなんだけど。なんだろうな、なんか釈然としない」
「美少女を好きなように縛り上げることができて私も心が晴れやかだ」
「その一言が余計なんだと思う」
足元ではトモが相変わらずセクハラですと騒ぎながら必死にデルに攻撃をしている。といっても足にポコポコと体当たりをしているだけだが。
そんなやりとりをしている間にも勝手にシリンダーの一つの扉が開いた。データからどのシリンダーに入れるかコンピューターが判断してくるらしい。勢いよく暴れる彼女をシリンダーの中に叩き込むと、勝手に扉が閉まった。
するとすぐに中で何かが噴射され彼女はガクッと意識を失う。おそらく睡眠ガスか何かだろう。
「もうちょっと優しく入れてください!」
「あとコンマ一秒遅れていたら引き千切ぎられそうだったのでな」
「え、荷物用のワイヤーを?」
「何度もガタガタと力を加えられてはワイヤーだって劣化する。チェーンソーのように非常に細かく振動していたからな」
「こわ」
「次目覚めたら引きちぎって出てくる」
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