6 現状調査へ

 そもそも守る対象のデータそのものがないことが不可解だ。ただ「守れ」とは。しかも守る必要がなさそうなくらい強い。何から? どう守れという意味なのか不明である。


「ここでああだこうだ考えても真実などわからん。今は現実が最優先だ」

「わかった」


 アニタの体感としてデルは非常に頭が良い。こういう状況だから、こうなんじゃないか、そういった推測や説明をしなくてもなんとなく察してしまう。あれこれ喋り出すよりも彼が必要としている情報は聞いてくるので、それだけに答えれば最も早く答えにたどり着く。

 あれやこれやとトモに聞いてこないのだから必要な情報がないと判断したのだろう。トモ自身がデータを消去されてると言っている以上、それがデータを守るための嘘だったとしても今自分たちにできることはないのだから。


「……。いや必要なことを聞かなきゃいけない段階で、美少女と鬼ごっこするのは許さんて叫ぶのはどういうことだよ」

「私が長年夢見ているものを目の前で実施されたら、叫ばずにはいられないだろう」

「夢見てる相手を地面に叩きつけた気が。あ、そういえば助かった。ありがと」


 いろいろなことがありすぎたので忘れていたが、助けてもらったのだった。お礼は絶対に言うようにしている。感謝と謝罪は時間が経つと効力がない、というのがデルからの教えだ。


「かまわん、思う存分美少女を撫で繰り回すチャンスだからな」

「あー、またセクハラです! あなたもう彼女に触らないでください!」

「運ばなければいけないだろう、お前は彼女を亀甲縛りで吊るしておけというのか? アニタにはまだ早いプレイだ」

「彼には不要な知識です!」

「亀甲縛りも吊るす必要もないから」

「そうでした」


 腕の中で暴れるトモをなだめながらアニタは笑う。改めて冷静に考えると確かに。戦闘用人造人間は昔作られたと聞くが、ここまで制度の高いものは初めて見る。

 実はそこまで凄まじい性能の戦闘用兵器は開発できなかったと言う噂もある。普通の人よりちょっと優秀な程度止まりらしいのだが、はっきり言って噂の真相はわからない。小競り合いに遭遇した事は何度もあるが、さすがに戦争に参加した事は無いからだ。


 デルは後ろから近づいたとはいえそれを地面に叩き付けて、あっという間に縛り上げて……要するに兵器に勝ってしまったわけだ。


「え、凄くない?」

「お前もやはりそう思うか、ボディラインが完璧だ。私激推しの島国の言い方では我儘ボディというやつだ」

「いや何の話してんの」


 手足を縛られて担がれるという何とも言えない姿だが。確かに彼女は子供のアニタから見てもかなりスタイルが良い方だと思う。胸が大きくて腰が細くてお尻も丸くて、しかもめちゃくちゃ怖い顔を向けられたもののおそらく美人だ。


「人工的に作られた女の人って、男の欲望丸出しだね」

「女性が作っても自分がうらやましいと思う外見を作るから人造人間は皆美系でスタイル抜群だ」

「そういうもん?」


 女の人と過ごした事は無いので、女性の心理はアニタにはわからない。


「うらやましい姿を作らないで、自分がそのうらやましいと思う姿に近づくように努力すればいいのに」

「人間はやらない言い訳を探す方が好きだからな」

「変なの」


 そんな会話をしているうちにようやく先程の部屋に戻ってくることができた。彼女が相当すごい追いかけ方をしたらしく、あちこち破損しているが。

 部屋の中はさらにひどく、確かに彼女が保管されていた容器はほぼ木端微塵と言っていい。幸い水の装置は壊れていないようだ。


「この人が目覚めたらシステムが全部動き出したんだ」


 部屋の中は明るく破壊された部位はずっと警告音が鳴り響いている。消火剤が散布されたようで床には白い粉がうっすらと積もっていた。他の部屋のシステムは落ちているので、この部屋だけが独立して立ち上がったようだ。


「そういえば、彼女が目覚めたときキーがどうのって言ってたけど」

「眠っている彼女を起こすには鍵が必要、とデータが残っています」

「そんなの使ってないよ。どんな鍵なの?」

「不明です。鍵というからにはこういうものでは」


 そういうと地面に降りたトモは床に手で何かを描く。消化剤を砂がわりに描いたのは奇妙な棒の絵、アニタは見覚えがなく首をかしげる。


「何この棒」

「鍵ですよ、知らないんですか」

「これ? え、これが鍵なの?」

「あなた普段鍵を使わないんですか?」

「この場はアニタが正しい、今は鍵と言ったら生体認証が一般的だ。化石のような棒突っ込んで回すタイプはこの世に存在しない」

「ええ!?」


 デルの指摘に驚きの声を上げたのはトモだった。

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