廃棄コロニー

1 物資捜索へ

 宇宙船の燃料が空になった。といっても実は消費型燃料が尽きただけだった。


「半年乗ってるけど、エネルギー備蓄できるとか初耳だぞ」

「そういう事態になったことがなかったからな」


 なんとか太陽風による微量なエネルギー採取を始め、最低限のシステム稼働にはこぎつけている。ただし長距離運航はできないし、何よりも。


「膜が張れないのきつい」


 電磁気力によるバリア機能。これがないとあらゆる宇宙ゴミや隕石が激突する。膜を使えるようになるにはまだエネルギーが足りない。


「エンプティが消えるまで寝るか」

「やること山ほどあるだろ」

「命の危機と天秤にかけて重いのか、それは。カロリーを使わないことに徹するに値するか」

「……」


 デルはたまに真正面から正論を言う。ふざけたおっさんで変人で変態でどうしようもない、と思いつつ。それだけではない、確かなものが何かある。それをまだアニタには言語化できないが。強いて言えば信念、だろうか。


(何を貫きたい信念なのかわかんねえけど)


 彼がどこで何をしてきたのか知らない。聞いてみたい、と思ったこともない。興味がないわけではないが、それを知らなくても今こうして生きているので別にいいかと思っている。


(いや、今まさに生きるか死ぬかになってるけどな)


「とりあえず飯はねえぞ」

「食べなきゃいい」

「水もない」

「速攻探すぞ」

「はいはい」


 栄養素は口径摂取でなくてもできるが、水分はまずい。今は重力制御もダウンしているので無重力だ、強制点滴ができない。排水ろ過装置もあるが、つい先日壊れたばかりだ。ちなみにデルが筋トレ中に壊した。


 今目の前には廃棄されたらしい中型のプラントがあった。ここから必要なものを探すしかない。

 宇宙船がエンプティでなければ、こういう時は二人で物資捜索をするのだが。さすがに今回は宇宙船を放置できない、こういう隙を狙って宇宙船を盗みに来る同業者が多いのだ。知らないうちにつけられていたり、泥棒に入られるなどこの業界では常識である。

 物資か水精製装置を見つけたら戻るということにしてアニタは施設へと移った。


 アニタが一人で乗り込むことが多いので、まず教わったのは施設内のハッキング技術だ。スペースコロニー関連は内部が複雑な作りというわけではない、動線を考えて極力シンプルに作らなければ移動の手間が大変多いのである。構内図が手に入ればほぼ攻略したといっていいからだ。

 ちなみにこのハッキングに一度失敗して警備システムが暴走し、セキュリティ用ロボット五十台と鬼ごっこをしたことがあるのだが。

 この日から寝る間も惜しんでハッキングの勉強をしてきた甲斐があり、地図をダウンロードするだけだったら難なくこなせる。


「見た感じは研究施設っぽいけど」


 一般人が住んでいるような居住施設というわけではなさそうだ。ざっと見渡しても「物」が少ない。色調も統一されており華やかさはなかった。

 代わりに部屋の中にはよくわからない機械やコンピューターが設置されている。このご時世小型が普通なのに物々しい大きさの装置がそこら中に入り組んでいた。施設の端末を見つけ、自分の端末へと接続する。


「よし、非常電源が生きてる」


 完全に電力がダウンしているように見えても、最低限の電力で施設や宇宙船が動き続けているのはよくある。この施設も見た目は完全にダウンしている。しかし絶対に切ってはいけない装置を活かすため、予備電源と充電で細々とシステム維持をしていたらしい。

 端末をそのまま充電させながらあっという間に地図へと繋いで施設の全体像を把握する。


 何の研究施設なのかはわからないが、とりあえずライフラインに関わる設備がある場所へと直行した。こういうものは大抵一カ所がダメになっても問題ないよう作られている。離れた場所に予備の設備が備わっているはずだ。その二つから必要なものが全て取れればかなり運が良い。


「  」


「へ?」

「どうした」


 突然アニタが間抜けな声を上げたので、デルが通信でそう返してくる。


「いや、なんか今声が聞こえた」

「AIや自動音声の可能性は……ないか。お前はそれぐらい区別がつくしな」

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