4 宇宙に散る供花

 命を握られているのに、媚びることも命乞いもしてこない。しかも意味不明のことを言い始める。


「そこのかぐや姫は生きていない。アニタ、外野は気にしなくていいから入り口まで戻れ」

「え、うん?」


 攻撃されかねないのにこの言い草。半年一緒にいてわかったのは、常識が一光年先に旅に出たおっさんだということと、できない事は絶対に言わないしやらないということ。つまり彼の言葉は信用できる、ということだ。信頼は、できないが。


「普通はこちらが逃げる、貴様はそこを撃つ。が、私は逃げずにアレだけを撃つ、と宣言しておこう」

「貴様!?」

というのがどれだけ甚大な被害になるか。理解しているはずだな、依頼主なら」

「どういうこと?」


 アニタには何のことだかさっぱりわからない。どうやら先程の映像を見ただけでデルは全てを理解したようだが。


「花に溢れた棺で眠る女性、と言ってしまえば聞こえは良いがそれは花でも棺でもない」

「なに?」

「原子炉だ」


 ロストテクノロジーの中でもトップクラスの知名度だ。旧世代の人類、地球という惑星で最大のエネルギー算出と破壊力を誇ったもの。


「旧世代の残した産物を参考に新世代がいじくり回した結果。花のような形をしているのが最も速く核分裂を起こし、管理も容易とわかった。要するに」


 はは、とデルが笑う。しかし、それはとても渇いた笑いに聞こえた。


「超小型原子力施設というわけだ」

「ここが?」

「棺が、だ」


 大きく広がっていたアンテナ状のものは最初に推測した通り。太陽風などを使ってエネルギーをかき集めるもの。この原子炉を維持し続けるためにシステムが起動したままなのだろう。


「これの利用価値はニ世紀経った今でも有用というわけか。つまり人は二世紀、DNAは変化しても脳みそは進歩していない」

「ええっと、依頼主を救いようがない馬鹿だって言ってる?」

exactlyそれな

「黙れと言ってる!」


 その通信を最後に外から戦闘行為の音が聞こえてくる。さすがに撃沈させるような攻撃はしてこなかったようだが、相手は何とかデルを追い払おうとしているようだ。何せこの施設を破壊などしたくない、丸のまま取っておきたいはずだ。デルは撃つといったがアニタの救出が最優先だ。


「一瞬通り過ぎるからしがみつけ」

「ああああ! またかよ!」


 入り口までたどり着くと目立つよう派手に光りながら、本当に宇宙船が突っ込んできている。


「これやらせるの何回目だよオヤジイイイ!」

「慣れてきた頃だろう」

「大変遺憾だけどな!?」


 接近した瞬間に艦体へとしがみついた。本来余計な抵抗をなくすため、宇宙船は突起物がほとんどなくつるりとした外観なのだが。アニタがしがみつきやすいようにという理由だけで、妙な突起物が増やされて非常に不細工である。


「ぎゃあああ!」


 叫びながらも自力で扉を開けて格納庫へと転がり込む。扉が自動で閉まり、急いでコックピットに向かった。


「早く逃げないと!」

「いや、その必要は無いな。今後もこの仕事で生きていくのならしっかり見ておけ」


 だいぶ離れたがぎりぎりモニターで研究施設が見える位置ではある。


「大丈夫なのかな」

「それ相応の防護服や道具を持って入っているだろう」

「いや、そういう意味じゃなくて。あんな無防備にさらされてるものに近づいて」

「それが思いつく位には成長してくれたか。その通りだ、よく踏み込まなかった」


 その言葉と同時に、研究施設はまるで花火のようにポンと弾けた。あっけなく、美しく。


「宝に近寄るものに呪いがかかるのは当然だな。バンブー姫を手に入れた家族も、当の本人がさっさと星に帰ってしまった。その後幸せな人生だったのか不明だ。権力者の怒りを買って処刑されたかもな」


 核融合の暴走なのか、自爆するようにプログラムされていたのかわからないが。本当に大輪の花が咲くかのように。光り輝く大きな花となって、その場にあったものは全て消えてしまった。


「さっきよく近づかなかったって褒めてくれたけど。ごめん違うんだ、近づけなかった」

「ほう?」

「おばあさんだったけどね、すごくきれいな人だったんだ。本当に眠っているかのようで。俺には花に囲まれてるようにしか見えなかったから、愛された最後だったんだなって思ったら。俺が入っちゃいけない気がして」


 そう言うと本当に珍しいことにデルはアニタの頭をぐりぐりと撫でる。


「それが正解だ」


 普通はそこに眠っていたのは生身の人間ではなく、システム制御ロボットだったと思ってしまうものだ。あの瞬間にも「彼女」は意識があって、システムを守る為と手に入れようとする愚者を淘汰するため自爆した。

 限りなく正解に近いのはこの考えだが、人として最もあるべき正解はアニタの考えのはずだ。いつから人はこう考えられなくなってしまったのか。


「昔の人ってほんと、よくわからないもの作るよね」

「考えることを人工知能に任せた結果、究極に暇になったからな人間は。無価値なことを考えて無価値なことをやるくらいしか、やることがない」


 まるで人が無価値だ、と言っているようでアニタは黙る。なにを思ってそう言ったのか? 深読みはまだ苦手だ。


「それはさておき当面の問題は」

「あいつらの仲間がいると思うから、しばらくは身を隠さないとね」

「先程の移動で燃料が空になったわけだ。他の宇宙船を見つけて燃料を拝借しないとやばい」


 ふんぞり返って言うデルに、しばらくポカンとした後。少し後ろに下がって勢いをつけて走ってからジャンプをして。


「先に言えええええ!」


 デルの脳天めがけて、渾身の力でかかと落としをする。ただし。


「いってえ!? 何でだよ!」


 超絶石頭のデルはノープロブレムで、ダメージがあったのは靴を履いているはずのアニタだったが。


「馬鹿め、私は頭も筋トレをしている。効かんな」

「生物学的におかしいわ!」


 完全に慣性飛行となった宇宙船内にアニタの悲鳴が響くのだった。

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