3 眠っていた女性
センサーに反応は無いので、ガスなど人体に有害な物質は何もないようだ。重量制御も壊れているので無重量状態だと確認できた。
「じゃ、行ってくる」
防護服を着てアニタが施設に乗り込む。事前調査は小型ロボットの仕事なのだが、あいにく貧乏なこの船にそんなものはない。超アナログだが自分達で直接現場確認をする。
小柄で通風孔などにも入れるのでアニタの役目だ。アニタは宇宙船の操縦ができないので留守番しているわけにもいかない。それに仕事に生きがいを見出しているので、今は進んでやりたがる。
「美少女がすっぽんぽんだったら困る。私の肌着を持っていけ、今脱ぐ」
「ぜえええったい、嫌だ」
本当に女の子がいるって信じてるのか? と思いつつもアニタは施設の内部へと進んでいった。荷物はほとんど残ったままだが、きれいなので事故や事件が起きたという様子はない。予算が尽きて放置せざるを得なかった、という印象だ。
地図のコードをスキャンするとすぐに立体地図が端末に登録される。
「花が咲いてるところは食料培養庫か」
宇宙にできた施設は物資を運んでもらうことはできない。運送費だけで一ヵ月分の給料分になってしまうため自給自足が基本中の基本だ。
「バンブーがあったら大当たりだ」
デルの通信とともにバンブーについての資料が送られてきたので、とりあえず無視した。
漂う荷物を乗り越えながら施設の奥へと進んでいく。あちこちドアが開けっ放し、楽に進める。
(普通システムダウンしたら扉は自動で閉まるもんだけどな)
なんだか不思議な施設だ。入ってくださいと言わんばかりの状況に首を傾げながらも食糧庫へと到着した。まばゆい光に目を開けていることさえままならない。
「まずはこの光をどうにかしないと調査どころじゃないな」
どうやらエネルギー収集だけが独立して動いているようだ。計器を確認しつつ、細心の注意を払いながら光の中心部へと歩いて行く。
「は?」
思わず間抜けな声を出してしまった。信じられない光景が広がっていたからだ。
「正確に報告しろ、光源が強すぎて映像では何もわからん」
「えっとあの、棺がある」
「ほう」
なんだそれはという返事がないあたりはとてもありがたい。心臓に剛毛が生えてるような男で良かったと心底思う。
「光の中心部に棺があって。花が敷き詰められてる、全部咲いてるよ。多分エネルギーで咲いてるんだと思うんだけど。あの、その中に。ご、ご遺体っぽい――」
「美少女か!?」
「おばあさんが一人」
「よし、まずは光をどうにかするか」
「あからさまにがっかりすんな、失礼だろうが」
デルがどんな経歴の持ち主なのかは知らない。普段の生活では絶対に役に立たない、よくわからないことをたくさん知っているのは確かだ。デルの細かい指示で光度の調整までできてしまった。
「本来であればエネルギーに変換しなければいけないのが、光源に行ってしまっているな。システム異常があったのは間違いないようだ。そのせいでエネルギーが十分供給されずパラボラが最大サイズとなり、巨大な花が光輝いているような姿になったわけだ」
システム調整をした途端、牡丹のようだったパラボラはみるみる縮小していった。
「棺の中の花が光ったままだよ」
棺から離れた場所から映像を届けると、デルは一瞬沈黙した。女性についての感想を言うかと思っていたが。
「棺と花、と言われたから花を想像したがなるほど。アニタには花に見えたか。そういえばお前は生花を見たことがないな、画像でしか」
「え?」
「それは花ではない」
アニタが言う「花」は、幾何学模様といっていい。円の周囲に違う形の円が規則正しく並んでいる。花、といわれれば花だろう。
「アニタ、爆速で帰ってこい。秒で」
「え、あ、わかっ――」
「ご苦労」
突然割り込みの通信が入った。その声には聞き覚えがある。依頼をしてきた本人だ、直接通話をしているアニタはわかる。
「えーっと?」
アニタが自分の端末を操作してみれば、unknownと表示された謎の宇宙船が自分たちの宇宙船の後方を陣取っている。いつでも攻撃できる距離だ。
「いつ死んでもいいパシリにされたわけだな」
「あ、なるほど」
危機的状況だというのにのほほんとした会話をする二人。
「つまりここは声を大にして言えないようなやましい所で、初期調査のために適当なのを見繕って映像ジャックをしていたが。最深部まで入り込んでしまったから慌てて追いかけてきたわけだ。ご苦労」
「黙れ」
こんな事は二人からすれば慣れっこだ。ゴミを片付けるという名目で使い捨てとして別の用途にされ、責任を押し付けられる。この業界あるあるなのだ。似たようなことは何十回も経験してきた。
「言い忘れたがバンブーから発生する美少女はカグヤと言う。別の星は死の世界の比喩で、カグヤは死者とも言われているな」
「?」
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