第4話
騎士団抗争編
騎士団本部の広間は、重厚な石壁に囲まれ、薄暗い燭台の明かりが揺らめいていた。床には磨かれた大理石が敷かれ、足音が響くたびに冷たく硬質な反響を返す。中央に広がる円卓の周囲には、騎士たちの気配が漂い、緊張感が空気を張り詰めさせていた。
その中心で、翡翠が倒れていた。鮮やかな緑の髪が乱れ、額には汗が滲んでいた。
竜弥が駆け寄り、声を張り上げた。
「翡翠さん!」
その瞬間、広間の奥から嘲るような声が響いた。黒いマントを翻し、鋭い目つきの男が姿を現す。
「お前が太陽神と契約したゴミか。俺が再契約する。そのネックレスを渡せ。」
竜弥が眉をひそめ、敵意をむき出しにして返す。
「何もんだお前ら?」
男は鼻で笑い、吐き捨てるように言った。
「ゴミに名乗る名前はねぇよ、ゴミ。」
「カチン。」
竜弥のこめかみに青筋が浮かび、歯を食いしばる音が小さく響く。
すると、傍にいた竜騎が冷静に口を開いた。
「こいつ、カーナーヴォン支部のザスクだ。ザスク・ジェット。」
竜弥がニヤリと笑い、ザスクを見据える。
「ザスクね。じゃあそのゴミに負ければお前は何になるんだろうなぁ?」
その時、竜弥の胸元でネックレスが一瞬強く輝き、低い声が響いた。
『竜弥、代われ。』
『え?』
俺の身体を依代にグレンが顕現する。「ワシが太陽神グレンだ。ワシと契約したいだと? ランクは?」
ザスクの横に立つ男ががすかさず答える。
「ザスクはSランクに最も近いAランクと言われている。」
グレンが口元を歪めて笑う。
「ほう。小僧、お前と契約してやっても良いが条件がある。6対6のタイマンでお前らの支部が勝ち越したら、お前と契約してやる。」
「!!!!!」
竜弥が内心で叫ぶ。
『なんだよそれ。勝手に決めるなよ!』
グレンが淡々と続ける。
『これは騎士団をレベルアップさせるには必要なことだ。倒すのは魔王だけじゃない。第四階梯の側近もいる。そいつらを倒すには騎士団のレベルの把握とレベルアップが必要だ。』
『そこまで考えてたのかよ……。』
ザスクが顎を上げ、挑戦的な態度で応じる。
「日時は?」
「1週間後に先鋒戦。翌日次鋒戦といったように計6日間戦う計算だ。気絶させるか参ったと言わせれば勝ち。殺すのは無しだ。」
「それでいい。受けてやる。そこのゴミ、大将戦で出ろ。俺が相手してやる。」
竜弥が目を細め、静かに返す。
「そのつもりだ。」
かくして、カーナーヴォン支部との戦いが始まろうとしていた。
場面が切り替わり、広間の空気が一変する。竜弥がグレンに詰め寄る。
『グレン、6対6ってどうやって選ぶんだよ。それに6対6じゃあ引き分けもありうるだろ。普通奇数じゃないのかよ?』
『ちょっと待ってろ。』
ネックレスが輝き、グレンが具象化する。燭台の炎が彼の姿を照らす。
「!!!!」
グレンが一同を見回し、重々しく語り始めた。
「カーナーヴォンと戦うメンバーはワシと翡翠で選ぶ。竜弥には話したが、魔王を倒すためには騎士団全員の力が必要だ。その為にはお前らの力を把握することとレベルアップが必要となってくる。6対6と言ったのは向こうの人数に合わせただけだ。引き分けなら代表者を出して再試合させればいい。時間は1週間しかないが、Aランク相当の力を付けてもらうつもりだ。」
瑪瑙が首をかしげて言う。
「私、Aランクなんですけど。」
俺が見たことない騎士団員も頷く。
「俺もAだ。」
竜騎が不満げに舌打ちする。
「俺はB。」
琥珀も渋い顔で続ける。
「チッ。俺もBだ。」
翡翠がゆっくりと立ち上がり、静かに口を開く。
「琥珀君と竜騎君にはそれぞれ講師を付けるよ。入ってきて。」
ガチャ。
重い扉が開き、流星と奏が姿を現す。二人の足音が広間に響き、騎士たちの視線が一斉に集まる。
竜弥が目を丸くする。
「なんでこいつらがいるんだよ!」
翡翠が穏やかに説明する。
「彼らには恩赦を出したからね。」
「恩赦?」
「そう。流星君と奏君は今はBランクだけど、第3階梯を20体狩ってAランクになってもらうってね。それを条件に騎士団本部で身柄を預かることにしたんだ。」
「マジかよ……。」
翡翠が続ける。
「琥珀君は流星君と、竜騎君は奏君と1週間マンツーマンで戦ってもらうよ。珊瑚と瑪瑙ちゃんはもうAランクだから、Aランク同士2人で1週間ね。」
竜弥がふと尋ねる。
「そいえば瑠璃は?」
「瑠璃君なら別の任務に当たっていてね、今は不在だよ。」
「で、俺は?」
グレンが竜弥を見据え、力強く言う。
「竜弥はワシと翡翠が面倒を見る。竜弥には竜玉と金木犀を身に付けてもらう。」
「竜玉と金木犀?」
「そうだ。これを身に付ければ第3階梯は余裕で倒せるようになるだろう。」
竜弥が拳を握り、決意を込めて頷く。
「分かった。やってやる。」
こうして、各自の修行が始まった。
1週間後
騎士団本部の外では、朝焼けが空を染めていた。風が冷たく吹き抜け、遠くの森から鳥の鳴き声が聞こえてくる。広場には騎士たちが集まり、武器の手入れをする音や低い話し声が響き合っていた。戦いを前に、緊張と期待が混じり合った空気が漂っている。
闘技場に集まる騎士団
闘技場の空は薄曇りに覆われ、風が砂塵を巻き上げていた。円形の観客席には騎士団の面々が集まり、ざわめきと武器の金属音が響き合う。中央の戦場は硬く踏み固められた土で覆われ、過去の戦いの傷跡が無数に刻まれている。騎士団本部とカーナーヴォン支部の旗が風に揺れ、両者の緊張感が場を支配していた。
審判である翡翠の声が闘技場に響き渡る。
「先鋒戦。瑪瑙対マリ・ルチルの試合を開始する。はじめ!」
瑪瑙が一歩踏み出し、鋭い目で相手を見据える。マリ・ルチルは扇子を手に優雅に構え、薄い笑みを浮かべていた。
『扇子か。珍しい武器だな。これで様子を見る。』
瑪瑙が矛を引き抜く。
「矛!」
鋭い突きが空気を切り裂き、マリに向かって伸びる。
「風!」
マリが扇子を軽く振ると、突風が吹き荒れ、矛の軌道が弾かれる。瑪瑙は空中で体を捻り、跳ね返った矛を手に取り、そのまま斬りかかった。
扇子が瑪瑙の矛を受け止め、金属音が響く。
「キィン!」
「旋風!」
マリが扇子を大きく振り回すと、渦巻く風が瑪瑙を襲う。
「盾。木。双矛!」
瑪瑙は地面に盾を突き立て、風を防ぐ。
地面から木が生えてきてマリを拘束すし、矛を手に構える。
「炎纏火蜂!」
マリの扇子から炎が吹き荒れ、マリの全身を模る。纏った炎が蜂を擬人化したようなフォルムを思わせ、瑪瑙に迫る。
「なっ。速い!」
瑪瑙が目を瞠る中、マリの膝蹴りが腹に炸裂する。
「ガハッ!」
瑪瑙がよろめき、息を詰まらせる。
「キラービー!」
マリの右腕に炎でできた槍が現れ、瑪瑙に放つ。
「林盾! 枝槍!根波!」
瑪瑙は木の壁を広範囲に展開し攻撃に備える。
枝を飛ばして攻撃に転じる。
「ホーネット!」
マリが叫ぶと10体に分身する。
根が地面から伸び、マリを捕らえようとし、枝が矢のように襲いかかる。
「これは避けきれないな。一気にかたをつける。火炎ぐるま!」
マリが扇子を振り炎の竜巻を形成して瑪瑙を襲う。
「キャー!」
瑪瑙が放った樹木の技を全て炎を纏った竜巻で一掃した。
マリが悲鳴を上げ、炎に巻かれ地面に倒れる。
「バタ。」
「勝者、マリ!」
カーナーヴォン支部の観客席から歓声が沸き上がる。
「ウォオオオ!」
審判の翡翠が次の試合を告げる。
「明日、次鋒戦を開始する。」
メディカルルーム
メディカルルームは白い石壁に囲まれ、薬草の匂いが漂っていた。簡素なベッドに瑪瑙が横たわり、腹を押さえて苦悶の表情を浮かべている。そばに立つグレンが手を翳すと、青い炎が瑪瑙の傷を包み込む。
「蒼炎。」
傷口がみるみる癒えていく。
「傷が治っていく……。」
グレンが低く落ち着いた声で言う。
「安心しろ。傷はワシが治してやる。安心して戦え。」
1日後
闘技場の空は晴れ上がり、陽光が砂地を照らしていた。観客席のざわめきが再び高まり、次鋒戦の開始を待つ。
「次鋒戦。琥珀対レイ・トルマリンの試合を開始する。はじめ!」
琥珀がハルバートを構え、鋭く叫ぶ。
「稲妻!」
雷が迸り、レイに向かって走る。
「電光石火!」
レイが一瞬で距離を詰め、琥珀の腹に拳を叩き込む。
「グハッ! 雷!」
琥珀が雷を放つが、レイは平然と笑う。
「私に雷属性の攻撃は効かない。」
「紫電!」
琥珀が斧に紫電を纏い斬りかかる。
「疾風迅雷!」
レイが素早く動き、ハルバートを蹴りで弾き飛ばす。続けてもう一方の脚で蹴りを放ち琥珀の脇腹に炸裂する。
「クソ! 蒼雷!」
琥珀が雷を纏った鎌を振り下ろすが、レイが鎌の部分を掴んで止める。
「ピタッ。」
「なっ!」
「電光石火!」
レイの拳が再び琥珀を襲う。
「グハッ!」
『強い……。もう一段強さを上げないとな。』
二階の観覧席から流星が見下ろす。
「雷光!」
琥珀が雷を全身に纏い、バチバチと火花を散らす。
「電光石火!」
「電光石火!」
琥珀とレイは同じ技を放つ。
拳と拳のぶつかり合い。
両者が同時に突進し、衝撃波が闘技場に響く。
「疾風迅雷!」
「疾風迅雷!」
互いに蹴りを放ち、再び同じ技で激突し、砂塵が舞い上がる。
「ハァハァ……。」
両者、息を切らし、互いを睨み合う。
二階の観覧席で誰かが呟く。
「次の攻撃で決まるな。」
「ああ。」
琥珀が叫ぶ。
「紫電蒼雷!」
鎌と斧の二連撃を放つ琥珀。
レイが応じる。
「雷轟!」
右拳に雷属性の琥珀にもダメージが通る程の高密度の雷を纏い突進してくる。
雷鳴と共に二人が激突し、琥珀が膝をつく。
「バタッ。」
「勝者、レイ!」
「ウォオオオ!」
カーナーヴォン支部の観客席から声が上がる。
「カーナーヴォン支部の連中は中々強いじゃないか。」
「関心してる場合か。二連敗だぞ。」楽観しているグレンに強い口調で言う竜弥。
「そんなことより竜玉を完成させろ。金木犀は使えるようになったが、竜玉の完成度は4割と言った所か。」
「てかいい加減ネックレスに戻れよ。お前が具象化してると俺の体力めっちゃ使うんだぞ。」
「これも修行のうちと思え。」
グレンが翡翠を呼ぶ。
「翡翠、行くぞ。竜玉の修行だ。」
「こんなんで明日の試合大丈夫なのかよ?」
翡翠が穏やかに答える。
「大丈夫だよ。明日は元Sランクの珊瑚の試合だからね。」
「なっ。元Sランク!?」
「そう。騎士団は各王国の支援の元運営が成り立っているんだけど、騎士団加盟国と非加盟国との戦争に駆り出されてた時期があってね。その時魔物じゃなくて人を撃つ選択を迫られた珊瑚は降格を申し出て、その時の戦争は辞退したんだ。」
「そうなんですね。尚更明日の試合は大丈夫なんですか?相手は人ですよ?」
「人と言っても精霊使いだからね。珊瑚なら大丈夫だよ。」
翌日
闘技場の空に朝日が昇り、観客席は熱気に包まれていた。
「中堅戦。珊瑚対ホーク・ベリルの試合を開始する。はじめ!」
ホークが鉞を手に構える。
「鉞!」
珊瑚が手を掲げ、闘技場に異変が起きる。
「楼炎群閣!」
地面から炎を纏ったビルが突如として現れ、観客席がどよめく。
「なっ、ビルが現れた!?」
「鷹の目。ショット!」
何キロ先の景色もクッキリと見える視野を持つ珊瑚。
ビルの屋上にライフルを構え珊瑚が遠距離から炎の弾を放つ。
「トーテムポール!」
ホークが地面に鉞を突き立て、木の柱で防御する。
**キィン!** 金属音が戦場に響き渡った。
「ラピッドファイア!」
ホークが連続射撃を繰り出し、トーテムポールに次々と弾丸が叩き込まれる。
**キィンキィン!**
珊瑚は冷静に距離を測りながら応戦する。
「小鳥遊、ショット3!」
ホークの頭上を囲む様に宙を舞う鳥の口から三連射が正確に放たれ、再びトーテムポールがそれを防ぐ。
**キィンキィン!**
「遠距離じゃラチが明かないな。換装、ハンドガン!」
珊瑚が武器を切り替え、ホークに迫る。
だが、ホークも引かない。
「トーテムポール、トーテムストーム!」
地面から無数のトーテムポールが突き上がり、珊瑚を包囲する。
「焔!」
珊瑚が炎の分身で躱し、叫ぶ。
「近づけないな。このままじゃ……弾を変えるか。バースト!」
**ボォン!**
爆発的な一撃がトーテムポールを吹き飛ばし、熱風が戦場を包んだ。
「クッ!」
ホークがわずかに後退する。
「バースト3!」
珊瑚が畳み掛けるように三連爆撃を放つ。
「グァッ!」
ホークが息を荒げながらも反撃に出る。
「炎纏ガルーダ!」
炎を纏った巨大な鳥を思わせるホーク。
驚異的な速さで珊瑚に襲いかかった。
その瞬間、珊瑚の顔を掴んだホークがビルに突っ込む。壁が砕け、瓦礫が飛び散る。
「焔、バースト!」
珊瑚が炎の分身で躱し、弾を爆発させ、ホークを振り払う。
「陽炎!」
ホークが投げつけた鉞が炎を纏い唸りを上げて飛んでくる。
**ボォン!**
珊瑚は銃で応戦し、身を翻して鉞を避ける。だが、ホークはそれを予測していたかのように鉞を掴み直し、切りかかってきた。
「不知火!」
炎を纏った鉞で斬りかかってくるホーク。
空中から鎖が伸び、ホークを絡め取ろうとする。
「何!?」
空中に突如としと現れた鎖に絡め取られるホーク。
「強かった。ここまで追い詰められたのは翡翠と戦った時以来だよ。舞え、朱雀!」
鮮烈な炎が舞い上がり、朱雀が現れる。
「グァッ!」
ホークが炎に包まれ、悲鳴を上げる。
「朱雀の炎は炎属性すら焼き尽くす。俺の勝ちだ。」
「勝者、珊瑚!」
観衆がざわめく中、声が上がる。
「さすがは元Sランクと言ったところか。引き上げるぞ。」
そう言うと仲間を引き連れ闘技場を後にするザスク。
「珊瑚、まさか朱雀を使うとはね。」
翡翠に珊瑚が静かに答える。
「相手が強かったからな。試合で使うのもどうかと思ったが、グレンを竜弥の持ち神のままにさせるには朱雀を使わざるを得なかった。お前ら負けるなよ。残りの試合を全部勝てば俺たちの勝ちだ」
「ハァハァ……」
竜弥が息を荒げ、汗にまみれて膝をつく。
「どうやら珊瑚は勝ったようだな。立て。このままだと竜玉は完成しないぞ。」
グレンが鋭い声で叱咤する。
「クソッ……ハァァァァァ!」
**バチバチ!**
竜弥の全身からほとばしるオーラが空気を震わせる。
「竜玉!」
**ドガァン!**
地面が砕け、衝撃波が周囲を揺らす。
グレンが近づき、竜弥を見下ろす。
「竜弥、随分ボロボロだな。」
「グレンがスパルタすぎるんだよ……。竜玉はだいぶ形になってきた。けど、人間相手に使うのは気がひけるな。本気で使ったら、ザスクを殺しちまうかもしれない。」
「安心しろ。出力はワシが調整してやる。」グレンが静かに笑う。
「それより、明日の中堅戦だけど、誰が出るんだよ?」
「瑞姫か?」
「それならとっておきを用意してるよ。」翡翠さんが意味深に答えた。
---
翌日。
観衆がざわめく中、声が響く。
「誰だ、あの子?」
「中堅戦、碧対ブック・スピネルの試合を開始する。はじめ!」
**!!!**
「碧!?」
戦場に霧が立ち込める。
碧が静かに前に進み出る。
「ククク……翡翠には借りができましたね。カーナーヴォン支部の格闘教官ですか。まずは彼を倒すとしましょう。茜、下がってなさい。」
「コク。」茜が小さく頷き、後退する。
観客席で翡翠が説明を始める。
「翡翠、どういうことだ? なんであいつが?」
「碧君がいた支部の実験指揮を取っていた人間が魔王軍に亡命していてね。それを教えてあげたんだよ。それを条件に、碧君には中堅戦に出てもらうことになったんだ。」
「そうなのか。あいつ、支部の人間は皆殺しにしたって言ってたのに。」
「指揮を取っていた人間は別にいたのさ。で、あの茜って子は碧君のもう一人の妹だよ。先日転生してきたのを保護したんだ。」
「!!!?」
「今は試合に集中しよう。」
ブック・スピネルが竹を蹴り飛ばし、碧に襲いかかる。
碧は槍を手にそれを弾き返す。
竹槍と槍がぶつかり合い、**キィン!**と火花が散る。
突然、地面から竹が次々と生え、碧を囲む。
碧は軽やかに跳び上がり、それを躱す。
「水穿槍!」
碧が放った水の槍がブックを襲うが、ブックに捌かれ、碧は空中に浮かされる。
ブックが竹を空中に投げつけると、空から竹の雨が降り注ぐ。
碧は霧と化してそれを回避する。
「雷!」
**バチッ!**
雷撃がブックを直撃し、「グァッ!」と呻き声が上がる。
だが、ブックは竹の身代わりと入れ替わり、攻撃を凌ぐ。
碧が冷たく微笑む。
「さすがですね、カーナーヴォン支部の格闘教官ブック・スピネル。支部の人間を全員Aランクまで鍛えただけのことはある。ただ、僕には勝てません。雷光!」
**バチバチ!**
碧の全身が雷を纏い、戦場が光に包まれる。
観衆がざわつく。
「あれは琥珀が使っていた技……!」
「雷穿槍!」
碧が雷を纏った槍を放つ。
ブックは地面から数十本の竹を生やし、盾として構える。
「無駄ですよ。なっ、糸!?」
ブックの足元から糸が伸び、動きを封じる。
「クッ、動けない!」
「終わりだ。」
空中を漂う竹の群れが一斉に動き出す。
「雷光!」
**バチバチ!**
雷が糸を焼き切り、碧が自由を取り戻す。
「雷槍!」
空から雷が降り注ぎ、ブックが竹を投げて避雷針代わりにする。雷の軌道が逸れ、竹に落ちる。
「水雷穿槍!」
碧が水と雷を融合させた一撃を放つ。
「群竹槍!」
ブックが応戦し、無数の竹槍が交錯する。
**ドサッ!**
ブックが膝をつく。
「勝者、碧!」
「ウオオオオオオオ!」
観衆が沸き立つ。
「これで2勝2敗だ。」
「ブックが負けた……。」
「これがコーンウィー支部を壊滅させた男の力か。」
碧が竜弥に視線を向ける。
「竜弥。僕に勝ったんだ。ザスクに負けないでくださいよ。」
「任せろ。」竜弥が力強く頷く。
翌日
「竜玉!」
俺は翡翠に向けて技を放つ。
吹き飛ぶ翡翠。
「ククク。完成したな。」
満足そうなグレン。
「ザスクなんかに負ける気がしねぇよ。」
「翡翠から聞いた話じゃ、ザスクは一回の任務で第一階梯24体、第二階梯18体、第三階梯13体をぶっ倒したって話だ。」
「そんな記録、俺がすぐ抜かしてやるよ。」
「頼もしいな。」
ドゴツ!
壁をぶち抜く竜騎。
「お前ら、試合当日だってのに何やってんだよ!」
「ハァハァ…黙ってろ。」
「師事した俺から見ても、贔屓目抜きで今の竜騎は強いよ。」
「誰が師匠だよ!」
言い合う竜騎と奏。
「時間だ。行くぞ。」
皆を闘技場へ急かすグレン。
「副将戦。竜騎対アーロ・ジルコンの試合を開始する。はじめ!」
キィン!
鍔迫り合う竜騎とアーロ。
「渦竜!」
氷でできた弾を飛ばす。
アーロが素早く避ける。
「鮫牙!」
「氷竜頭!」
水でできた鮫と氷でてきた竜がぶつかる。
「鮫ヒレ!」
「流竜!」
さっきより大きな鮫が襲ってくるが、剣に氷を纏い水できた鮫を両断する竜騎。
「流鮫!」
アーロも剣に水を纏い斬りかかってくる。
再び鍔迫り合う二人。
「お前、騎士団のホープとか呼ばれてんだろ? あの翡翠から剣で一本取ったとかいう噂だぜ。」
「そう言うお前はカーナーヴォン支部の切り込み隊長じゃねぇか。」
「「どっちが強いか、ここでハッキリさせようぜ!」」
二人が距離を取る。
「氷竜頭!」
「鮫牙ヒレ!」
氷でできた竜と水でできた鮫が再びぶつかる。
「渦鮫!」
竜騎を中心に渦を巻いて鮫が何匹も迫ってくる。
「凍れ!」
ピキィーン!
鮫たちが一瞬にして凍る。
「波鮫!」
「氷壁!」
ザブーン!
アーロが波を呼び竜騎に迫る。
氷の盾を出すが、氷が弾ける轟音とともに波に呑まれる竜騎。
「黒縄!」
氷の分身でアーロの攻撃を躱し、黒縄という剣をアーロに突き立てる。
「灰河!」
アーロも水でできた分身で躱し、灰河という剣を竜騎の後ろを取り、突き立てる。
キィン!
金属がぶつかるような響き。
二階から戦いを見下ろす奏。
回想
竜騎と戦う奏
「炎狐-牙!」
炎でできた大きな狐の頭が竜騎を襲う。
「ハァハァ…『こいつ、強い…』」
「君には才能がある。技も多彩だ。騎士団での経験が翡翠と同じなら、いずれ翡翠を超える器だよ。ただ、まだ早い。」
「そいつはどうも。この技だけは使いたくなかったんだがな…」
「黒縄〜」
回想終了
「行け、竜騎!」
叫ぶ奏。
「黒縄天弦氷月牙!」
空を埋め尽くす無数の氷柱が降り注ぐ。
「波鮫!」
波で氷柱を防ぎつつ竜騎との距離を詰める。
「くたばれ」
叫ぶアーロ。
お互いの身体を剣が貫く。
バタッ!
二人が同時に倒れる。
「副将戦、両者ノックダウンによりドロー! 2勝2敗1引き分けにつき、明日の大将戦にて太陽神グレンの所有権を決定する」
翌日
「いよいよだな。」
「ああ。」
俺の背中を叩き鼓舞するグレン。
「行くぜ。」
「大将戦。竜弥対ザスク・ジェットの試合を開始する。はじめ!」
「牡丹!」
竜弥が素早く後ろに回り込み、顔面に強烈なパンチを放つ。
パシッ!
ザスクがその拳を受け止め、即座に銃で竜弥の顔に撃つ。
銃弾を歯でガリッと噛み止め、その勢いのまま頭突きをぶち込む。
距離を取る二人。
ザスクが銃を捨て、武器を鎌に換装する。
「煉獄!」
キィン!
鎌と剣が鍔迫り合う。
「狩円!」
「炎月!」
ザスクの持つ鎌が大きな三日月型に形を変え竜弥を襲うも、剣に炎を纏って防ぐ。
バチバチ!
火花が飛び散り、空気が熱を帯びる。
再び距離を取る二人。
ザスクが銃を構え、連射する。
竜弥は弾丸を軽やかに避けながら、一気に距離を詰める。
両手の銃を向けてくるザスク。
両脚でザスクの両腕を押さえ込み、銃口を逸らすと同時に姿勢を変え後ろ回し蹴りを繰り出す。
「竜尾!」
ドゴッ!
重い一撃がザスクの腹に炸裂。
「ザスクってSランクに最も近いAランクだろ? それにしては竜弥の攻撃をモロに食らってねぇか?」
「それだけ今の竜弥が強いってことさ。」
琥珀が珊瑚と戦いを見守っている。
「鎖だと? クッ…!」
ザスクの鎌から鎖が飛び出し、竜弥を絡め取る。
「狩円!」
三日月型に形を変えた鎌で斬りかかるザスク。
「焔。竜拳第五の型 竜玉!」
炎の分身で躱し、新技をザスクの腹に叩きこむ。
ドゴツ! ドドドド!
竜弥の右手には玉状に圧縮されたオーラが迸っている。
「ハァハァ…クハハハハ! ゴミにここまでやられるとはな。群狼、消し飛ばせ!」
笑い声を上げ、本気になるザスク。
「ウォーン!」
ザスクは炎でできた狼の群れを召喚し狼の咆哮とともに炎が渦を巻く。
「炎舞4の舞 金木犀!」
狼の形をした炎と、犀の形をした炎が正面からぶつかり合い、爆炎が広がる。
その炎の中からザスクが飛び出してくる。
「狩円!」
「竜玉!」
鎌と右手の竜玉が激しく火花を散らす。
「終わりだぁー!」
竜弥が左手の竜玉を全力で叩き込む。
ドドドドドゴーン!
衝撃波が会場を揺らし、ザスクが吹っ飛ぶ。
「大将戦、勝者、竜弥!」
「ウォオオオオオオオオオオオオ!」
バタッ!
ザスクが地面に倒れ、静寂が訪れる。
こうしてカーナーヴォン支部との戦いは終結した。
二日後、メディカルルーム
「目、覚めたかよ。」
「ゴミか。」
「お前、負けたんだから『ゴミ』って呼ぶのやめろよ。」
「負けてねぇ。お前が勝ち越しただけだ。」
「ったく…。怪我はグレンの不死鳥の炎で治してある。二日後、騎士団本部とカーナーヴォン支部合同の任務だ。先に任務に出てる瑠璃と合流する。今回は長期の任務になるらしいから、それまでゆっくり休んどけ。」
ザスクは無言で天井を見つめる。
「じゃあな。」
二日後
「今回はこのメンバーで任務に行ってもらう。」
竜弥、竜騎、琥珀、ザスク、アーロ、碧。
「茜、行ってくるよ。」
「いってらっしゃい、お兄ちゃん!」
「碧ってシスコンだったのか。」
「消しますよ、紅林竜弥。」
「そこ喋らない…。先に任務に当たってる瑠璃君と合流し、現地にいる魔王軍を殲滅。海流神の封印の鍵を人魚姫から回収する。それが今回の任務だよ。」
人魚姫編開幕
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