第2話

「今回の任務は脱獄犯を捕まえるって話だよな?人間が相手って聞いたけど、騎士団は魔王軍以外も相手をするのか?」

竜弥が疑問を投げかけた。

「かんこう令が出ていて詳しくは分からないが、元々は騎士団所属の人間で問題を起こし捕まってたって話だ」

瑠璃が疑問に答えた。

「騎士団にいたってことは相手も精霊使いだ。気を付けろよ」

琥珀が言った。


エディンバラ

「ここか。」

目の前にそびえる古びた建物を見上げた。森の中に佇むその三階建ての建物は、どこか不気味な気配を漂わせている。

「グレンが言うには、三階に幽閉されてるって話だ。」

「いいか、ここから先はワシは口出しせんぞ。」グレンの声が響いた。「ワシが関与するとお前の成長が遅くなる。それだけ魔王を倒すのが遠のくってことだ。」

「分かったよ。」俺は短く答えて頷いた。「行くぞ。」


建物の中へ踏み込むと、空気が一変した。緊張が張り詰める。

「ククク。来ましたね。」

不気味な笑い声が響いた。


「流星、奏、相手をしてあげなさい。」

影から現れた二人——流星と奏が無言で頷く。


「鍵がかかってるな。」

扉を押してもびくともしない。俺が呟くと、瑠璃が一歩前に出た。

「退いてろ。」

鋭い音と共に、瑠璃の刀が壁を切り裂く。スパッ——壁が崩れ、即席の通路ができた。

「行くぞ!」


だがその瞬間、スゥーという音と共に影が動いた。流星だ。

「ここは俺がやる。先に行け!」

琥珀がハルバートを構え、流星の前に立ちはだかる。俺と瑠璃は頷き合い、その隙に先へ進む。


琥珀 vs 流星


「烈風!」

流星のノコギリを思わせる剣が風を切り、下段から斬り上げてくる。キィン——琥珀がハルバートで受け止める。

「旋風!」

中段切りが続き、「疾風!」と上段への三連撃が襲う。キィン、キィン、キィン——金属音が響き合い、火花が散る。

琥珀は冷静にいなしつつ、距離を取る。流星も一歩下がり、天狗の面を被った。

「天狗?」琥珀が呟く。

瞬間、流星の動きが速くなり、蹴りが炸裂する。「稲妻!」

強烈な一撃をかわし、琥珀が槍を突き出す。「グァッ!」流星が呻き、槍を喰らう。

「紫電!」琥珀はハルバートの斧部分で斬りかかるが、流星のカウンターで蹴りが炸裂する。ドゴッ——琥珀が上に吹っ飛ぶ。

「蓮華!」連発の蹴りが琥珀を襲うも、雷でできた分身で躱わす。「グアア!」


雷を喰らう流星。

「蒼雷!」鎌の部分で天狗の面ごと流星を切り裂く。流星が倒れる。


監視室


監視カメラのモニターを見つめる碧が呟く。「流星が負けましたか。なかなか強いですね。」

檻の中の竜騎が鼻で笑う。「フッ、捕まるのも時間の問題だな。」

「うるさいですよ。」碧が冷たく返し、槍で竜騎を刺す。


グサッ——鋭い音が響き、竜騎が呻く。「グッ…。」


2階


「竜弥、先に行け!」

瑠璃が叫び、俺は頷いて3階へ向かう。だが、奏が立ち塞がる。

「二人とも通すわけないだろ。」


奏が吠えた。


「渦竜!」

水の弾丸が竜弥の前に躍り出た奏めがけ飛んでくる。「厄介だな…。」奏を階段から遠ざけると、瑠璃が前に出た。

「瑠璃、任せた!」


「渦竜!」瑠璃が水を放つが、奏は右に避けた隙に俺は左から3階へ駆ける。

「抜かれたか。まぁいい。上には碧がいる。お前の仲間もおしまいだ。」奏が嘲る。

「フン。自分の心配したらどうだ?お前は今から俺に切られるんだからな。」瑠璃が刀を構える。

「狐火!」狐の形をした炎が瑠璃を襲うが、「波竜!」と水を刀から放ち相殺する。

「流竜!」水を纏った刀で切れ味を上げ、奏に斬りかかる。


「鏡花水月!」と分身で躱す奏が「炎月!」と炎を纏った刀で斬りかかる。キィン——二人が距離を取る。

奏が狐の面を被る。動きが速くなり、「明鏡止水!」と高速で斬りかかる。「グァ!」瑠璃が斬られ、バタッと倒れる。

「強い…。狐の面を被った途端動きが速くなった。このままじゃお前の負けだ。ワシに身体を貸せ。」青龍の声が響き、瑠璃がスゥーと立ち上がる。

「天操蹂躙!」室内に雲が広がり、雨が降り出す。「室内に雨だと?身体が動かない…。」奏が呻く。

「この雨を浴びたものは動きが遅くなる鎮静の雨だ。悪いな、本当ならお前の勝ちだったよ。」

「流竜!」水を纏った刀で奏を斬り、バタッと倒す。


3階


「竜騎、助けに来たぜ!」叫ぶと、碧が笑う。

「ククク。流星も奏もだらしないですね。僕自ら手を下すことになるとは。」

「牡丹!」炎を纏った拳で殴りかかるが、「霧!」と碧が霧になって躱す。

「後ろだ!」竜騎が叫び、俺は振り返る。ガシッ——碧の槍を右手で掴み、左手で顔にパンチを入れる。ドゴッ!碧が窓から吹っ飛ぶ。

「おい待て、あいつは俺が倒す!」竜騎が叫ぶが、「怪我してるんだからそこで待ってろ!」俺は竜騎に言い放ち窓から飛び降りる。


スタッ——地面に着地すると、碧が立ち上がる。

「中々やりますね。」

「魔王を倒すために戦ってんだ。ただの人間に手こずってる場合じゃねぇんだよ。」

「魔王を倒す?本気なら中々痛いですね。倒せるわけがない。」

「やってみねぇと分からねぇだろ。」

「ならまず僕を倒してみて下さい。」

「竜頭!」竜の形のオーラを飛ばすが、「霧!雷!」と碧が霧になり攻撃を躱し雷で反撃する。

「12の舞 焔!」炎の分身で雷を躱し、「第2の型 竜牙!」牙を手に纏う。

「水牙!」槍に水を纏い斬りかかり、


組み合う。


「水爪!」水の斬撃を飛ばす碧。


「第3の型 竜爪!」爪を手に纏い水の斬撃を防ぐ。


「竜胆!」炎の竜を放つ。

「水壁!」碧が水の盾で防ぎ、「水穿槍!」水の槍で突進してくる。「グァッ!」




3階


「下がってろ。」


瑠璃の刀が一閃し、竜騎を閉じ込めていた檻がスパッと切り裂かれる。

「悪いな、瑠璃、琥珀。」竜騎が檻から這い出し、息を整える。

「竜弥は?」瑠璃が尋ねると、竜騎はクイと外を指差した。


「こんなものですか? 太陽神の力も。」

「どうしてそれを…」俺が呟くと、碧の目が鋭く光った。

「僕も精霊ではなく神を呼び出した一人ですからね。僕は青龍を呼び出した一人です。」

「なっ、お前も青龍だと…!?」瑠璃が驚愕の声を上げる。

「僕も騎士団にいましたからね。君らのことも知ってますよ。瑠璃君、琥珀君、竜騎君。瑠璃君も竜騎君も青龍を呼び出した。君たちは青龍の牙から刀を、僕は爪から槍を授かった。」

「!!!」

「ククク。まぁ、話はここまででいいでしょう。誰から相手になりますか? 4対1でもいいですよ?」碧が不敵に笑う。

「俺が行く。」俺は一歩踏み出し、続ける。「その前に聞いておきたい。なんで捕まってたんだ?」

「クハハ。そんなことも知らずに戦ってたんですか? 僕たちはね、人体実験されてたんですよ。」

「!!!!」

「おや、その様子だと全員知らなかったみたいですね。」碧の声に冷たい嘲りが混じる。

「騎士団も一枚岩じゃない。とある支部では、強い精霊や神を呼び出すために人体実験をしてたんですよ。人間にありとあらゆる痛みや苦痛、感情を与えて、それが精霊召喚にどう影響するかをね。」

「うそ…だろ…。」俺の声が震える。

「だから青龍を呼び出せた後、その支部の人間を皆殺しにしたんです。」

「だから捕まってたのか。」

「ええ。我々を捕まえたのは騎士団団長の翡翠。あの時の翡翠の顔は忘れられませんよ。」

「騎士団に復讐する気か?」

「あなた達ならどうしますか? 人体実験の被験者の中には僕の妹もいました。妹は実験に耐えられず死にましたよ。僕は止まりませんよ。騎士団を壊滅させるまではね。」

「だったらお前は俺が止める。鬼灯!」

肉体強化の力が全身を駆け巡る。


『早い。肉体強化か。』碧が内心で呟く。

俺は後ろに回り込み、パンチを放つ。ドゴッ——だが、碧は槍で防ぐ。

「水穿槍!」水の槍が突進してくるが、パシッと受け止める。

「なっ!?」碧が驚く隙に、「牡丹!」と拳に炎を纏い殴りつける。

「クッ、まだだ。雷穿槍!」雷の槍が襲うが、「11の舞 無花果!」で胴回し回転蹴りを叩き込み、ドゴッ——碧がバタッと倒れる。


「ここは…?」目を覚ました碧が呟く。

「気がついたか。」俺が背負ったまま答える。

「この歳でおんぶされるのは気持ち悪いんで降ろしてもらえますか?」

「てめぇ!」俺が怒鳴ると、碧は小さく言った。

「僕はこれからどうなるんですかね?」

「さぁな。翡翠さんが決めんだろ。」


だがその時、行く手を塞ぐ影が現れる。

「誰だ?」

「百鬼夜行。」低い声が響き、「砂穴!」と地面が流砂に変わる。

「なっ!?」身体が沈み始める。

「碧は返してもらうよ。」謎の男が言う。

「クソ、身体が沈む…!」

「僕はいい。奏と流星を…」碧が呟くが、「百鬼夜行に必要なのは碧だけだよ。碧は連れて行く。」と男が冷たく返す。

「二の舞 鳳仙花!」炎の鳥を飛ばすが、「砂盾」で防がれる。

「クソ、逃すかよ! 氷牙!」氷の足場を作り、「鬼灯!」で肉体強化し追いかける。

「しつこいな。砂嵐!」砂が視界を奪い、「グァッ!」と俺が呻く間に男と碧は消えた。

「クソ…!」


脱獄犯・碧との戦いは終わりを告げた。だが、「百鬼夜行」とは何か、その謎を残して。



2ヶ月後 カーフィリー


「ククク。王様よぉ。さっさと宝のありかを吐きな。じゃないと大事な娘はゴブリンの慰み者にするぜぇ?」

薄暗い玉座の間で、男が下卑た笑いを響かせる。

「それだけは勘弁してくれぇ…!」王が震える声で懇願する。

「ならさっさと宝のありかを吐くんだな。」

「それもできん。あれは宝などではなく、地爆神の封印の鍵じゃからな。」

「ジジイ。それを渡せってんだよぉ!」

『騎士団はまだか。このままじゃカーフィリーはおしまいじゃ…』王が心の中で叫ぶ。


王国編 開始

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