「ウロボロス〜異世界に行って魔王を倒そうとしたら魔神に魔王が殺されて焦るはめに〜」

たつみ

第1話

俺は普通の高校一年生。


コンプレックスは声変わりしてもなお高いこの声だ。


クラスメイトで幼馴染でもある女の子に片思いをしている。


俺と幼馴染の運命が1発の銃弾から変わる。


「パン」と乾いた音が教室に響いた。そしてその1秒後、隣に座る幼馴染の瑞姫が撃たれたことに気づいた。彼女の体から血が溢れ出し、俺の頭は混乱でいっぱいになる。教室は一瞬にして騒然とし、ざわめきが広がった。


「瑞姫!」

俺は思わず彼女の名前を叫んだ。だがその声は、すぐに別の怒鳴り声にかき消される。

「騒ぐんじゃねぇ!」


ガチャ。

男が銃を構え、教室を見渡しながら吠えた。冷たい金属の音が空気を切り裂く。瑞姫の体は動かず、血が床に広がっていく。

『クソ、何がどうなってんだよ。このままじゃ瑞姫が死んじまう』

焦りが全身を支配する。助けなきゃ。でもどうすればいいんだ?


「動くんじゃねぇ!」

男の声が再び響き、教室は一瞬にして静まり返った。誰もが息を殺し、恐怖に縛られている。俺も動けない。瑞姫に手を伸ばしたいのに、体が凍りついたように動かない。


そして――

パァン。

また銃声が鳴り響いた。

『なっ。嘘だろ。俺も撃たれ、、、』


視界が揺れ、熱い痛みが胸を貫く。意識が遠のいていく中、瑞姫の顔が頭に浮かんだ。

『瑞姫、ごめん…』

それが最後の思考だった。




目が覚めた瞬間、俺は知らない場所にいた。

周囲を見渡しても、どこなのか上手く言葉にできない。視界がボヤけていて、思わずメガネを外してみた。すると――


「ここは?視力が上がってる?俺、撃たれたよな。血の跡に撃たれた跡も…やっぱり俺、撃たれたんだ」


混乱しながら自分の体を見下ろす。胸に手を当てると、確かにそこには何か異様な感覚があった。撃たれた記憶が鮮明に残っている。


ポコっ。


突然、小さな音がして我に返った。

「そんなに俺の授業は入眠作用があるか?」

聞き慣れた声が耳に飛び込んできた。顔を上げると、そこには担任の教師が立っていて、俺を呆れたように見つめている。


「えっ、あっ、すみません!」

慌てて謝ると、周囲からクスクスと笑い声が漏れた。見慣れた教室、見慣れたクラスメイトたち。いつの間にか俺は元の場所に戻っていた。


『俺、撃たれたよな?夢?でも視力が上がってる。血の跡はないけど、撃たれた跡はある。夢じゃない…ってことは』


頭の中で考えがぐるぐる回る。あの銃声、瑞姫の血、男の怒鳴り声――全部がリアルすぎた。でも今、俺はここにいて、生きている。撃たれたはずの傷の感覚だけが残っていて、視力まで良くなっているなんて…。


「次、田中。読んでみろ」

教師の声で思考が中断されたけど、心の中ではまだ疑問が渦巻いていた。

『何が起きたんだ?俺、死んだんじゃないのか?それとも…』


教室の日常が再開する中、俺だけが何か大きな謎に取り残されたような気がしてならなかった。




ガラガラ。

教室の扉が勢いよく開いた。


「動くんじゃねぇ!撃つぞ!」

男の怒号が教室中に響き渡る。瞬間、同級生たちの悲鳴が一斉に上がった。

「キャー!」

パニックに陥るクラスメイトたち。逃げ惑う音と叫び声が混じり合い、教室は混乱の渦に飲み込まれた。


パァン。

銃声が鳴り響き、銃弾が発射された。でも――その弾丸が、妙に遅く見える。


『見える…!』

俺は反射的に体を動かし、飛んできた銃弾を避けた。視界が異様にクリアで、まるで時間がゆっくり流れるように感じる。


「竜弥?」

幼馴染の瑞姫が驚いた声で俺の名前を呼んだ。彼女の目には混乱と恐怖が浮かんでいる。


「伏せてろ!」

俺は即座に瑞姫に駆け寄り、彼女の上に覆い被さった。男が再び銃を構えるのが見える。教室の空気が張り詰め、恐怖が支配する中、俺の頭の中で何かが繋がった。


『全部思い出した…』


あの銃声、血、痛み――そして目覚めた後の奇妙な感覚。あれは夢なんかじゃなかった。俺は一度撃たれて、死んだはずだった。でも今、こうやって生きていて、視力が上がって、銃弾さえ見えるほど体が研ぎ澄まされている。


『何だこれ?俺、どうなっちまったんだ?』

瑞姫を守りながら、俺は自分の中で湧き上がる疑問と向き合っていた。男の次の動きに備えつつ、心の奥で確信が芽生えていた――これは現実だ。そして俺は、ただの人間じゃなくなってるのかもしれない。




「初めまして。紅林竜弥君。私は転生の女神よ。」

突然現れた女が、俺の名前をさらっと口にした。


「どうして俺の名前を…?」

驚きを隠せない俺の言葉に、彼女は軽く笑って答えた。

「女神だもん。そのくらい分かるわよ。君にお願いがあるの。」


「お願い?」

聞き返す俺に、彼女は真剣な顔で続けた。

「そう。魔王を倒して欲しいの。」


「魔王を倒す?冗談だろ?俺はただの高校生だぜ?つーかここどこだよ?」

周りを見回しても、白くぼんやりした空間が広がるばかりで、何も掴めない。


「転生の間よ。」

「転生の間?」

「そう。死んだ後、適性があるものはここに来るの。」


ドクン。

俺の心臓が大きく脈を打った。

「じゃあ…俺、やっぱり撃たれたんだ。」

「そうよ。今の貴方の選択肢は2つ。転生して魔王を倒すか、転生を拒否してあの世に行くか。」


「なっ…嘘だろ。」

「嘘じゃないわ。」


「仮に転生するとしたって、魔王なんか倒せるわけないだろ。」

俺が反論すると、彼女は少し微笑んで言った。

「視力上がってるでしょ?」


「それがなんだよ?」

「それだけじゃないわ。筋力、持久力、動体視力、エレメント耐性。ありとあらゆるパラメーターが上がっているわ。」


「そんなんで魔王を倒せるのかよ?」

半信半疑の俺に、彼女は突然小さな石を投げてきた。


パシッ。

反射的にそれを掴む。


「なんだよこれ?」

「心映石よ。読んで字の如く、心を映す石とも呼ばれているわ。それで精霊と契約して魔王軍と戦うの。」


「アホらしい。嫌だぜ、魔王と戦うなんて。」

俺がそう吐き捨てると、彼女は意外な言葉を口にした。

「願いを1つだけ叶えてあげるわ。」


「えっ?」

「願いを叶えてあげるって言ったのよ。」


「そんな力があるなら、あんたが魔王と戦えばいいだろ。」

「それは無理よ。」


「えっ?」

「昔、魔族と女神族は戦争をしていてね。それを見かねた創造神が、ある盟約を結んだのよ。創造神アルセウスの名の下に、魔族、女神族、精霊、巨人族、魔女、その他30の種族に争いを禁ずる。この禁を破りしもの魂が消滅するってね。」


「なっ…嘘だろ。そこに人間は含まれていないのかよ?」

「含まれていないわ。純粋な人間種が生まれるよりずっと前の話だから。だから人間は魔王軍に侵攻されてるの。」


「それを見かねた精霊がね、心映石を人間に持たせて間接的に力を行使してるのよ。」

「その中でも君達の世界から来る人間は素質があってね。誰しもが精霊と契約できるわけではないんだけど、あなた達の世界の子供はとりわけ精霊と契約できる確率が高いわ。」


「本当に願いを叶えてくれるのか?」

「ええ、叶えてあげるわ。」


「どうやったら精霊と契約できるんだ?」

「心の中で呼んでみて。」


俺は少し迷った後、頭に浮かんだ名前を口にした。

「来い、グレン。」


「えっ?」

女神が驚いた声を上げるのと同時に、低い笑い声が響いた。

「ククク。良くワシを呼び出せたな、小僧。」


「グレンって…太陽神グレン?創造神アルセウス、赤王ペテルギウスに次ぐ序列三位の太陽神グレン?」

「彼がいたら魔王なんて余裕で倒せるじゃない。どうしてグレンを呼び出せたの?」


「頭の中に浮かんできたんだ。そんなにすごいのかよ?」

女神がグレンに目を向けて尋ねた。

「あなたが呼び出したのは精霊じゃないわ。上位の神よ。どうしてあなたほどの神が、素質があるとはいえ彼の呼び声に応じたの?」


「暇つぶしだ。あとはジジイの遺言だ。」

グレンが淡々と答える。


「ジジイってアルセウスのこと?」

「そうだ。ジジイはこうなることを読んでいた。何かあったら魔王を倒してくれとワシに言い遺して死んだよ。」


「そうなんだ…」

俺が呟くと、いつの間にか俺の手にはグローブがはめられていた。

『グローブ…ボンゴレ10代目と同じ。これが俺の武器ってことか。』


ギュッ。

グローブを深く手にはめ込む。


「俺の願いは瑞姫を助けたい。俺を一回でいい、生き返らせてくれ。」

俺の言葉に、女神は優しく微笑んだ。

「謙虚な願いね。分かったわ。」


その瞬間、俺の意識が再び揺らぎ始めた。瑞姫を助けるため、そして魔王を倒すため――俺の新しい戦いが始まろうとしていた。






「なんだ、銃を避けたのか?」

男の一人が驚きの声を上げた。


「撃て!」

もう一人が叫び、再び銃口が俺に向けられる。


パァン。

銃声が響き、弾丸が飛んでくる。でも――俺にはその軌跡がはっきりと見えた。


パシッ。

右手で弾丸を掴む。


「なっ…銃弾を掴みやがった!」

男たちの顔に動揺が広がる。だが、すぐに気を取り直したのか、さらに連射してきた。


パァンパァンパァン。

次々と放たれる銃弾。


パシッパシッパシッ。

俺は冷静にそれらを片手で掴み、床に落とした。視力も反応速度も、まるで別次元にいるような感覚だ。


「打ち終わったか?」

俺が静かに尋ねると、男たちは慌てて引き金を引くが――


カチカチ。

弾切れだ。


「クソッ!」

男が悪態をついた瞬間、俺は動いた。


『まるで隙だらけだな。』

一歩踏み込み、男二人に腹へ拳を叩き込む。


ドゴッ!ゴッ!

鈍い音と共に、二人はうめき声を上げてその場に崩れ落ちた。


「創造ロープ。これでよし。」

頭に浮かんだイメージを口にすると、手の中に太いロープが現れた。今の俺には、頭に浮かぶものを具現化する力があるらしい。

ロープで二人をきつく縛り上げながら呟く。

「これだけ縛れば大丈夫だろ。」


スゥー。

その時、俺の体に異変が起きた。手が透け始め、徐々に全身が薄れていく。


「竜弥?」

瑞姫の声が背後から聞こえた。彼女は目を丸くして俺を見つめている。


「…瑞姫…またな。」

俺は小さく微笑んでそう言った。


「えっ?」

彼女が何か言いかける前に、俺の体は完全に透けて消えた。


意識が遠のきながら、俺は思う。

『時間か…。でも、瑞姫を助けられた。これでいい。』

転生の女神との約束通り、一度だけ生き返って彼女を守れた。それだけで十分だった。

『またな、瑞姫。』




転生の間

「お帰り。」

女神の声が静かに響いた。


「ただいま。」

俺は軽く息を吐きながら答えた。


「初めての実戦にしては良く動けてたな。」

グレンが低い声で笑いながら言う。


「お前のおかげだよ。ありがとう、グレン。」

俺が礼を言うと、彼は軽く頷いた。


「行くか。」

「どこに?」

「ワシ達精霊や神が住む世界、アルテミスにだ。」


グレンが女神の方を向いて続ける。

「女神族の小娘よ。竜弥に実戦経験を積ませたい。ドゥーンエンガスに出口を作れるか?」


「作れるけど、騎士団本部じゃなくていいの?」

女神が少し首をかしげて尋ねた。


「ドゥーンエンガスに魔王軍がいる。」

「騎士団?」

「魔王軍と戦ってる人間の軍団だ。」


「分かったわ。」

女神が呪文を詠唱し始めると、空気が微かに震えた。


「じゃあ行ってくる。」

俺が言うと、女神は自信たっぷりに微笑んだ。

「あなた達なら魔王を倒せるわ。」


俺とグレンは軽く手を振って別れを告げた。


次の瞬間グレンはネックレスになり、俺の首にはまった。

「えっ?」


次の瞬間、視界がぐるりと回り――上空1000mから落下し始めた。

「うわああああああああー!クソ、あの女神どこに出口作ってんだよ!このままじゃ意識がぶっ飛ぶ!」


『ククク、常識は捨てろ。今のお前ならこの程度の高度、気圧差で意識は飛ばん。』

グレンの声が頭の中に響く。


「けど、どうやって着地すんだよ!?」

『今のお前じゃ使えぬが、“竜鱗 花鳥風月”という空を飛ぶ技もある。今のお前なら炎を逆噴射して滑空するのがせいぜいだな。』


「それだ!」

ブォォォォォ!

俺はグローブから炎を噴射し、勢いを制御しながら地面へと滑空した。


「ハァハァ…なんとか死なずに済んだ。あの女神、覚えてろよ。」

『ククク、今の炎、見られてたな。第1階梯だが囲まれてる。ざっと20ってところか。』


「マジかよ。ネックレスなのにそんなことも分かるのかよ?」

『ベジット飴理論だ。強ければ何になろうとも強さは変わらぬ。』


「てか、序列三位の神のくせによく漫画のこと知ってるな。」

『逆だ。序列の高い神だからこそ千里眼で異世界の娯楽にも眼を通すことができる。』


『そんなことより、実戦経験を積むためにドゥーンエンガスに出口を作らせたんだ。サッサと倒して騎士団本部に行くぞ。』

「分かったよ。」


『震えているのか?』

「うるせぇな。いざとなったら怖いんだよ。」


『ククク、今お前が使える技は5つ。

形象拳 竜拳 一ノ型 竜頭

炎舞 一の舞 竜胆

九の舞 牡丹

Xバーナー

創造-クリエイト-

初歩の初歩とはいえ、ワシの力を引き出して戦うんだ。死ぬことはない。』


「Xバーナーって漫画の技じゃん。俺、使えるのかよ!?」

『素質があるからな。実戦で試してみろ。』


ガサッ。

茂みから音がした。


「ゴブリン?」

『ゴブリンの群れのようだな。』


「形象拳 竜拳 一ノ型 竜頭!」

手から竜の形をしたエネルギーが飛び出し、ゴブリンを食いちぎった。

バタッ。


「炎舞 一の舞 竜胆!」

竜の形をした炎がゴブリンを焼き尽くす。

「ギャアアアアア!」


「九の舞 牡丹!」

炎を纏った拳でゴブリンを殴り飛ばす。

ドゴッ!


「Xバーナー!」

強烈な炎が放たれ、残りのゴブリンを一掃した。

「ギャアアアアア!」


「ハァハァ…20体倒したぞ。」

『第1階梯とはいえ良くやったな。』


「なんだよ、その第1階梯って?」

『強さの序列のことだ。さっきのゴブリンは第1階梯。あの女神は第4階梯。ワシや魔王は第5階梯だ。』

『まぁ便宜上、第5階梯しかないからそこに収まっているが、ワシの強さは100億階梯だがな。』


「張り合い方が小学生かよ…。」




「ハァハァ。騎士団本部まであと何キロ?」

『あと40キロってところだな。』


「マジかよ。まだフルマラソン分も距離あんのかよ。」

『常識は捨てろと言っただろ。ワシと契約しているんだ。この程度で息は上がらんし、今のお前でもフルマラソンなら1時間あれば走れるだろう。』


「マジかよ。そんなに身体能力上がってる気しねぇな。」

『銃弾も避けれただろ?そういうことだ。ワシの力を100%引き出せるようになれば惑星も切れるようになる。』


「マジかよ…。」

俺は息を整えながら、次の戦いに向けて覚悟を決めた。騎士団本部を目指し、魔王を倒すための長い道のりが始まったばかりだ。



騎士団本部

「見えてきたな、騎士団本部。人?」

遠くに建物が見えた瞬間、突然何かが斬りかかってきた。俺は反射的に白刃取りでそれを防ぐ。


「いきなり何しやがる!」

「人か。ゴブリンの臭いがしたんでな。」

目の前に立つ男が冷たく答えた。


「君たち何してるの?」

別の声が割り込む。見ると、穏やかそうな青年が立っていた。


「翡翠か。ゴブリン臭のする奴を切ろうとしただけだ。」

『ククク。こいつ強いな。』

グレンの声が頭に響く。

『えっ?』


「俺は見張りに戻る。そいつはおそらく入団希望者だ。面倒見てやれ。」

斬りかかってきた男が踵を返す。


「僕の方が歳上なんだからいい加減敬語使ってよ。」

「翡翠が俺から一本取れるようになったらな。」


「僕は翡翠。君の名前は?」

「竜弥です。転生の女神に転生させられて来ました。」

「そっか。竜騎君と一緒だね。」

「竜騎ってさっきのスカした奴ですか?」

「スカしたって、まぁそうだね。彼も転生者だよ。仲良くしてほしいな。」

「ゴブリン臭いって理由でいきなり切りかかって来たんですよ?仲良くできないですよ。」

「彼、鼻良いからね。」

「なんでゴブリン臭かったの?」

「ここに来る前にグレンに実戦経験を積めってドゥーンエンガスでゴブリンと戦ってきたんで。」

「グレンって太陽神グレンかい?」

「そうです。」

「すごいな。序列三位の太陽神と契約したなんて。君には期待しちゃうな。」

「まだゴブリン倒しただけなんで。」


「本部を案内するね。ここが食堂。ここが道場。ここがメディカルルーム。ここが宿舎。」

「質問いいですか。騎士団本部って結構目立つと思うんですけど、魔王軍に襲撃とかされないんですか?」

「ここは人間と一部の精霊や神にしか見えない結界が張ってあるからね。その点は安心していいよ。竜騎君も見張りしてるしね。」

「そうすか。」

「ここが任務を受ける所。今回は竜弥君、竜騎君、僕の三人で任務に行こう。」

「えっ?」

「不貞腐れてる顔してるのが二名いるね。じゃあウィンザーまで行こうか。」


「ウィンザー城では氷の中に女の子が閉じ込められてるって報告があってね。それで竜弥君の炎の出番ってわけだよ。」

「あれ?翡翠さんに俺が炎使えるって教えましたっけ?」

「太陽神と契約してるからね。そりゃ炎だって分かるよ。ちなみに僕の属性は風、竜騎君は氷でBランクだよ。」

「Bランク?」

「騎士団内では第1階梯を倒せる物をCランク、第2階梯を倒せる物をBランク、第3階梯はAランク、第3階梯を複数相手して倒せるのがSランクってクラス分けしててね。竜弥君はC、竜騎君はBランクだね。」

「ムカつくが翡翠は騎士団唯一のSランクだ。」


回想

『ククク。こいつ強いな。』

グレンの言葉が頭をよぎる。

「あーなるほど。」


「着いたよ。ここがウィンザー城だ。」

「城ごと凍りついているな。」

「竜弥君、出番だよ。」

「竜胆!」

ゴオオオオオ!

炎が氷を溶かし始める。


「行こう。」

「なっ、瑞姫ー!」

そこには氷漬けにされた幼馴染がいた。


「瑞姫?」

「幼馴染です。なんでここに?」

「死んで転生してきたってところだろ。」

竜騎が冷たく言う。


「竜弥君、出してあげて。」

ゴォォォォォ!

氷が完全に溶け、瑞姫が解放された。


「瑞姫?」

「竜弥?」

「どうして…あの後何があったんだよ?」

「轢かれちゃった。子供を助けて。竜弥消えちゃったから、竜弥のお母さんと竜弥のこと探してたんだ。そうしたら車に轢かれそうな子供がいて、それで轢かれちゃったの。」

「そっか。なんで氷漬けに?」

「転生の女神って人に素質があるって言われて精霊と契約したんだけど、力が暴走しちゃったみたいで。」


『話は後だ。魔王が来る。竜弥、体を貸せ。』

『えっ?』


「ククク。騎士団団長もこの程度か。脆いな。人間というのは。」


「!!!!」

「なっ、翡翠さん、腕がっ!」

「うっ、ぐっ!」

魔王の攻撃で翡翠の腕がもがれる。


ゴゴゴゴゴ!

「ククク。余を前にして人としての原型を保てるとは、中々強い精霊と契約していると見える。」

「ハァハァ…」


魔王の威圧により呼吸が浅くなる瑞姫。

「化け物が…!」


竜騎が魔王に威圧されながら言った。


『グレン、どうしたらいい?』

『ワシの呼びかけに応えるだけだ。』

『来い、グレン!』


「紅天・流桜。蒼炎!」

グレンが放った青い炎が翡翠の腕を再生させる。

「翡翠の腕が生えただと?」


竜騎が目の前で起こったことに驚く。

「蒼炎。不死鳥の炎だ。ワシが使えばもげた腕も再生する。」


「ククク。グレンか。」

「フン。大人しく魔王城に引きこもっていればワシに殺されずに済んだのにな。」

「それは余のセリフだよ、グレン。この少年が経験値を積み、グレンの力を引き出せるようになれば余に届きうる刃となる。その前に芽を摘みに来た。摘ませてもらうとしよう、序列三位の太陽神グレンよ。」


「開闢の剣!」

魔王が空中にビルほどの巨大な剣を顕現させる。

「竜尾 乱麻!」

グレンも大剣を具現化して対抗する。


「天操蹂躙、終焉の雷!」

魔王が天候を操作し、黒い雷が天から降り注ぐ。

「天候操作か。竜牙 旅人!」

地面から竜の頭が現れ、グレンを飲み込んで雷から守る。


「黄昏の瞬き!」

爆発の奔流が襲いかかる。

「竜玉 炎帝!」

太陽と見紛うほどの炎の塊で迎え撃つ。


「クッ!」

魔王が歯軋りする。


「白雷!」

白い雷が魔王の指から放たれる。

「竜爪 威風堂々!」

巨大な竜の手が盾となり防ぐ。


「竜鱗 花鳥風月!」

背中から翼が生え、グレンが飛び上がる。

「竜爪 唯我独尊!」

巨大な手が魔王を攻撃する。


「灰浪!」

魔王が円形の盾を展開。

「黒夜!」

重力で周囲が押し潰される。

「煉獄。天焦炎舞!」

グレンが刀を抜き、炎の波で対抗する。


『ハァハァ。今の竜弥の体じゃ限界がある。ワシの力を1兆分の1も引き出せんし、体力の消耗も激しすぎる。』

「ククク。随分苦しそうな顔をしているな、グレンよ。」

「どうやってここが分かった?竜弥がワシの力を使ったのはドゥーンエンガスでのゴブリン戦だけ。部下の眼を通して見てたのか?」

「そうだ。余の千里眼は部下の眼を通して下界を見ること。ゴブリン戦、見させてもらったよ。」


「嵐獅子!」

気絶から目覚めた翡翠が風の獅子を放つ。

「余にこの程度の攻撃が効くと思うのか、騎士団団長よ。目眩しか。まぁ良い。ここら一帯を吹き飛ばせば済む話よ。黄昏の――貴様まで余の邪魔をするのか、序列四位月姫クレセリア!」

「フッ、アルセウスの盟約に吸血鬼は含まれていないんでね。」



「ハァハァ、なんとか逃げ切ったな。」

息を切らす竜騎。

「ワシの師匠が来てたからな。それがなきゃ危なかった。」

「今は竜弥君じゃなくてグレンだね。助けてくれてありがとう。」

翡翠がグレンに礼を言う。

「フン。今、竜弥を死なせる訳にはいかないんでな。」



魔王とクレセリアの戦い

「白雷!」

魔王の雷が放たれる。

「暴食。白雷!」

クレセリアが雷を飲み込み、逆に放つ。

「灰浪!」

魔王が盾で防ぐ。

「黒夜!」

重力の奔流が襲う。

「影鬼!」

クレセリアが影に潜り回避する。


キィン!

二人が鍔迫り合う。


「逃げ切った頃かな。」

「貴様まで余の邪魔をするのか?」

「グレンは私の弟子なんでね。そいつが見込んだんだ。私の弟子も一緒だよ。」

「誓え。もう騎士団には手を出さないと。」

「ククク。逆らったらどうなるのかね?」

「グレンがやるより先に私がお前を殺す。」

「分かった。余の負けだ。騎士団からは手を引こう。これで満足かね、月姫クレセリアよ?」

「あいつらのバックには私がいる。以後気をつけるんだな。」


シュッ。

クレセリアが消える。

ギリッ。

魔王が歯軋りする。



「どうやら魔王は城に帰ったようだな。」

「グレンはそんなことも分かるんだね。」

「まぁな。ウォリック近辺に一瞬で移動し、そこから動かなくなった。恐らくウォリックが魔王の根城だろう。」

「今まで後手後手だったけど、これで奇襲をかける事ができる。」

「バカモンが。折角ワシが逃してやったのに死にに行くのか。」

クレセリアが翡翠に怒鳴る。

「師匠か。助かったよ。」

「魔王には騎士団に手を出さないと約束させた。ワシがバックにおることを念押ししたから、当分は騎士団に被害は出ないじゃろ。」

「こいつ何者だ?」

竜騎がクレセリアを警戒する。

「図が高いぞ小僧。ワシが逃してやったのに。」

「序列四位の吸血鬼の姫君だよ。」

「吸血鬼だと?」

「そうじゃ。敬え小僧。」

「…。」


『グレン、そろそろ変わってくれ。』

『おお、すまんすまん。』

スゥー。


「翡翠さん、これからどうすんだよ?」

「竜弥君に戻ったんだね。」

「これからは任務をこなして経験値を積んでもらうよ。竜弥君がグレンの力を100パーセント引き出せたら魔王を倒せるからね。」

「瑞姫ちゃんは精霊をコントロールできるように僕が修行に付き合うよ。」

「とりあえずは今日は休もうか。」



1ヶ月後

「Xバーナー!」

「ギャアアアアア!」

「ハァハァ。第二階梯のオーク10体倒したぞ。」

『ククク。これで晴れてBランクと言ったところか。』



エディンバラ

「逃げるのはおしまいか?」

竜騎が挑発する。

「逃げていたわけではありませんよ。あなたをここにおびき寄せたんです。」


ガチャ。

床が抜ける。


「氷牙!」

竜騎が氷で足場を作る。

「雷!」

謎の男が雷を槍から放つ。

「クッ!氷爪!」

三日月型の氷が男を切りつける。


グサ!

スゥー。

『体が霧になっただと!』

「雷!」

「グァッ!」

竜騎が雷を喰らう。

「騎士団内でも有名なホープもこの程度ですか?」


パリン!

「なっ、氷の分身?」

「黒縄!」

竜騎が刀を突きつける。

「クッ!」

「この程度か、脱獄犯さん。」

「クソ!」


「そこまでだよ。」

「そこまでだ。」

謎の男に加勢する2人が現れる。

「これで三対一。形成逆転ですね。」

「…。」



「翡翠さん、任務から戻りました。」

「竜弥君、戻ってきたところ悪いけどすぐ任務に行ってほしい。」

「えっ?」

「先に竜騎君が任務に当たってるんだけど帰ってこなくてね。」

「アイツが?」

『捕まってるな。三人に囲まれている。』

「グレンがアイツが捕まってるって言ってます。」

『そんなこと分かるなら、なんでもっと早く言わないんだよ!』

『ワシは今ネックレスだぞ?無理を言うな。』

「どこに行けばいいんですか?」

「エディンバラ。今回は瑠璃君と琥珀君の三人で任務に行ってもらうよ。」


脱獄囚編開幕




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