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何もかも知れてしまっては仕方ない。
仕方ないから僕は出かける。六畳の床の上よりか、外の方がましな煙草を吸えるだろう。
三歩歩いて、一服。六歩歩いて、一服。そのまま何服かして、ドゥマゴを騙るカフェに入る。席はいくらか埋まっていて、文学など読めそうもない、目のしょぼしょぼした老爺がカウンターに立っている。
(そういえばここも茉莉とよく来たっけな。参ったぞ。どうしたことか、いつのまにやら茉莉の軌跡を追っちまってるらしい。僕はまだ幻影のようなあの女に囚われているんだ)
「わ、先生!奇遇ね。こんなところで」
S嬢がいた。
「敬語」
「塾の外なんだから関係ないでしょ。先生も先生じゃないんだし」
「こましゃくれたガキめ!わかったから静かにしてくれないか。ここにはピザの配達員がいるからね」
僕は彼女の隣に座って火をつけた。
「教え子の前で煙草を?」
「塾の外だから関係ないんだろ(それに、肺をこの腐った煙で満たさなきゃおちおち夢だって見られない)」
それから僕が灰を落としている間というもの、彼女は口を閉じなかった。それで僕はいつもより早く煙を吸わなきゃならなかったわけだけど、五本目を咥えたところでとうとう飽きが来たらしい。
「先生も何か話してよ――ちょっと、聴いてるの?」
「僕は先生じゃない」
「意地悪!じゃあ何て呼べばいいのかしら、小説家の夏融さん?私あの話が聴きたい――先生が別れたってあの
「話すことなんか無いよ」
(そうだ、実際、話すことなんか無いんだ。だって僕は何もしなかった。三年というもの間ずっと。何もしなかったから茉莉は今、僕の腕の中にいない。
「私、これからどこへ行くと思う?」
彼女が夜中の十一時にそう言ったのを憶えている。僕は六畳の部屋の角で微動だにしなかった。彼女は出かけ、僕は残された。猫が気まぐれでたてた爪を僕は何とも思わなかった。それだけなんだ。虫食いの心――怠惰は僕の性なんだから、責められたってしょうがない。
僕は今もあの部屋に取り残されたままだ。花の一輪も無い殺風景な部屋で灰だけが積もっていく。掃除してくれる人も居ないのに)
「会計はしといてやる。今日は帰ってくれ」
「わあ太っ腹!もっと頼んでおけばよかったかしら」
「
僕は一人になってからも動く気がしなかった。それは単に疲れきっていたからに決まっていた。
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