ゴールのない迷路に大荷物を背負って

いつになれば先へと進めるのだろうか。


歩けば分かれ道。歩けば袋小路の壁。


巨大な迷路に迷い込んだ様だ。


自分よりも大きなカゴを背負い、彷徨う。


同タイミングで入ってきた人、後からここへ来た人は軽快に自分を抜いていく。


カゴの大きさは人それぞれだが、自分程大きなカゴを持っている人は見た事がない。


小さく軽そうな周りとは対象に、一歩足を進むだけで腰を下ろす程重い。


何で自分だけ・・・。


誰もが中身を見ないのは、見る必要が無い故か。


カゴを下ろして休憩中。自分は不意にカゴの中を覗き込んだ。


黒いワサワサした何かが蠢いている・・・。


それは黒い球体に白い目がついた『何か』の集合体だった。


目が訴えている。


申し訳ない・・・と。


球体から細い糸の様な手を生やし、シュンと落胆している子もいた。


(なんだこの生物は・・・)


自分にはその形は愛くるしく見え、哀しそうにしている姿は心が痛い。


どうにか笑顔にと奮起するが、笑顔になる子はほんの少し、しかも一瞬の事。


(うーん)


周囲の人々も同じ状況なのだろうか、と周りを見渡す。


自分の事ばかりで全く見えていなかった。


軽そうな装備ではあるが、頭を悩ませている人が多く居た。


誰かは悲しみ、誰かは怒り、誰かは呆然と立ち竦む。


一歩、小さな一歩だが歩みを止めない自分は凄いのかと錯覚してしまう。


ただ彼らは気付いていないのか?いや、自身も今気付いたが。


彼らが軽快でカゴが小さいのは、彼らが振り撒いた否定的で品性の無い悪感情を嫌がり、カゴの中の子達が別の誰かの所へと助けを求めに行くからだ。


彼らのカゴの中には何も入っていない事が多かった。


辛いな・・・。


そんな自身の気持ち、誰かの気持ち一つで彼らが真っ黒に変わってしまう。


(気をつけよう・・・)


まあ、自分の気持ちはそれとして、周囲の気持ちや空気を変えられはしないが。


自身はこの子達をずっと背負って、また迷路を進む。


自身が一歩一歩と進み、目標の距離を達成した小さな喜びに反応してこの子達は喜んだ。


その際、少しだけ足取りが軽くなったような気がした。


(・・・どうにかこの子達を全部変えられはしないだろうか)


うーんと悩み、また、足が止まった。


進んだその先は壁。


もう一度来た道を戻らなければ道は無かった。

ここには何人もの人が立ち往生していた。


壁に向かって悪態を吐く人や、絶望に打ちひしがれる人、回り道を考える人。


けれど誰一人として、足は動いていなかった。

(ふう・・・)


一息を入れて考える時間も必要だろう。


これは、荷物が重い御陰でもあるが。


今までも行く手を阻まれていた様なもの。


また考えて進むだけ、だ。


(自分のペースでまた歩きだそう)


これが今の自分の現状で力量だ。


それで、どう進むか・・・。


(あ)


自身は思い出した。


カゴの中、あの子達の他に道具が一つ入っていたんだ。


カゴを下ろしガサゴソと中身を漁る。


周囲はそれをジッと眺めていた。


(お。あったあった)


そして自身が取り出したのは、柄の部分が長く両手で持たないと持ち上がらない程大きな斧だった。


自身はふらふらしながら斧を取り出し、壁の前に立った。


そして、回転し遠心力を加えて、壁にぶち当てた。


インパクトの瞬間、壁には亀裂が入った。


壁に刺さった斧を抜き、もう一度同じ姿勢で壁に充てると、壁は粉々に割れた。


「おぉ・・・」


停滞していた人々が我先にと空いた進路に駆けるが、見えない壁に阻まれていた。


自身の真似をしてカゴの中を見るも殻。


自身はどうだろうか、いけるだろうか。


よいしょと、立ち上がりカゴを背負う、そして牛歩で進む。


壁までの距離は数メートル、時間にすれば数十分だ。


(お・・・)


周囲が見守る中、自身は壁を通った。


苦労の末の達成感、高揚感。


これは気の所為では無い。


足取りが頗る軽くなった。


自身が壊した壁を通った後、振り返ると壁は修復され元に戻っていた。


そしてもう一度歩みを進めようとした時・・・。


また、重い。


何十倍の重力に感じる。


(なんでだ・・・こんな直ぐに・・・また軽くはならないのか・・・!!)


そんな時、頭に過るのは、誰かがばら撒いた悪感情やら負やら何やらだった。


それが自身をずっと襲っていた。


それはつまり、人間が悪いモノを吐き出すからこんなに自身が辛い思いをしてしまうと言う事。


(この感情は何だ)


憤り・・・。


(人間のせ・・・いや・・・)


自身は立ち止まる。


カゴを下ろして、カゴの中をもう一度見る。


怯えている。


駄目だ・・・!


(・・・人の所為じゃない。誰かがどれだけマイナスだろうと、自分がそれと同じになってしまったら・・・)


違う。そうだ、違う。


大変で、重くて、一歩しか進めない。


それが普通、当たり前だった筈だ。


何故、少し楽になったからと、それが当たり前のように・・・。


それは凄く特別な事。


また、目指せば良いだろう。


この現状、状況は変わらない。


だからといって、楽しくない訳でも、幸せでない訳でも無い。


いや、寧ろこの状況だからこそ、楽しめる筈だ、幸せな筈だ。


良し、また一歩進もう。


幸せで楽しい状況から、更に一瞬の喜びを得る為に。


なんだか少し身体が軽い気がする。


おっ。カゴの中の子が楽しそうだ。


嬉しいなぁ。


ゴールは一体どこだろうか。


いや、見つからないでくれ。


全てが終わってしまうから。

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