錦糸町の思い出

クライングフリーマン

錦糸町の思い出

 君と出逢ったのは、偶然だった。まだ大学生の頃だった。

 僕は、友人Mと上京した。

 Mがダブルブッキングしたために、僕を連れて会ったんだった。友人Mは、おんな友達が多かった。素直な君と違って、友人Mの彼女の1人、Aは、終始ツンツンしていた。僕を見下していた。

 行きがかり上、僕と君、MとAのダブルデートだった。

 最初に入った喫茶店は、君の勤め先である錦糸町の喫茶店だった。

 数年後、僕は君と再会し、引っ越しを初め、随分助けて貰ったね。

 君は、最初は「Mの友人」だったが、だんだん接近し、固有の「おんな友達」だった。

 いつだったか、君に急接近するチャンスがあったが、君は拒否した。

 僕は、タダの「男友達」に戻った。

 3年後、僕は故郷に帰った。

 そして、数年後、久々に上京出来る機会があったから、再会を電話で約束しようとしたら、「理由にならない理由」で拒絶した。

 僕は、電話を切った後、悟った。

 整形手術に失敗したのだ。

 確かに、鼻ペチャで、幼児体型で、アニメ声で、おかっぱで、目も離れているけど、笑うと綺麗なえくぼが出て可愛かったのに、やはり自分の容姿にコンプレックスを持っていた。

 整形手術医は、イケメンだった。君は何度もイケメンと付き合っていることを自慢した。

 何度も手術したことは聞いていた。

「忙しいから」では理由にならなかった。

 整形手術医に財産つぎ込んで、失敗して捨てられた。僕の仮説というより妄想だった。

 年賀状は来なくなった。僕に「寒中見舞い」を教えてくれた君だったのに。

「忙しくて」会えないだけなら、手紙くらい書ける筈なのに。季節の変わり目の挨拶も暑中見舞いも来なくなった。僕からの葉書は、一方通行になった。

「絶交する気か?」そんな余計なこと書いたせいだよね。

 もう30年は経ったかな、あれから。

 後輩に「雑談なのに『議題』を決められて困っている」と弄られていることを愚痴っていた声は、まだ耳に残っている。

 もう会えない、1人だ。

 ごめんね。真剣に整形手術を反対しなくて。

 錦糸町界隈、かなり変わったかな?


 ―完―



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錦糸町の思い出 クライングフリーマン @dansan01

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