2005/4
駅の待合室で彼女を待つ。
どう話をしようか、まだ決めかねている。
もうすぐ彼女は来てくれるはずだ。
どんな顔で会えばいいのだろうか。
「あの……山口さんですか」
出会った頃とは違い、幼い顔をしていた。
しかしながら、可愛らしい声。
あぁ、こんなに可愛かったんだ。
「ごめん、気が付かなかった。ブラボー高校の山口です。初めまして。そして、来てくれてありがとうございます」
「あの……友達から連絡先を聞いて、会いに来たのですが、初めてですよね?」
「そうです。初めてです。ただ、私が一方的に知っていただけです」
「そう……ですよね。それで、呼び出したのは、なんの用なのですか?」
「どうしてもプレゼントしたいものがありまして……これ、受け取ってください。ちょっと重いので申し訳ないのですが」
「確かに重たいですね。なんですか、これ」
「開けてみてください」
「うん? プロテイン? わたし、運動部でもなんでもないですけど?」
「夢を見たんです。その夢では、家庭の食生活が悪く、満足にお肉を食べられなかったそうなんです。でも、プロテインを摂るようになってから、徐々に元気になっていった。そんな夢です」
「……それ、夢ですよね? なんの関係が?」
「最初は少しずつ、朝と寝る前に水で溶かして飲んでください。お腹の調子が良ければ、徐々に量を増やして、体重1kgあたり1gのたんぱく質を摂ることを目指してください。例えば体重が40kgなら、1日40gを目安に、プロテインからたんぱく質を摂取してください」
「あの、話聞いてますか?」
「私があなたに恩返しできることは、これぐらいしかありません。ごめんなさい。だけど、あなたがこれで元気になることを、心から……願って……います」
「えっ、どうして泣いているんですか?」
「ごめんなさい……でも、私のプレゼント。ちゃんと受け取ってほしくて。桃佳……さん」
「よくわからないですけど、飲めばいいんですね。あなたが、悪ふざけとかそういうのではないことは、わかりました。用はこれだけですか?」
「ありがとう……ございます。あなたに……いつか……幸せが来ることを……祈っています。来てくれて、ありがとうございました」
未来の妻だった彼女は、足早に去っていった。
うまく伝わっただろうか。
彼女から聞いた話。
若い頃はたんぱく質が不足していて、1日の元気が持たなかった。けれど、うつ病になっていろいろ調べて、プロテインを飲むようになってから、元気になったと言っていた。
「若い頃に知っていれば良かったな」と語っていた彼女。
そんな彼女のために、中学の同級生を頼って、無理やり出会いを作ってもらった。
本来は出逢わないタイミング。
私にできることは、こんなことしかない。
私の知らない時代の彼女。
でも、面影は少し感じられた彼女。
「だいじょうぶかい? お茶でも飲むかい?」
気づくと、隣の席のおばあさんが声をかけてくれていた。
「いえ……大丈夫です」
「彼女と、わかれ話でもしたんかい?」
「……。わかれ話ではないです。ただ、お別れしただけです」
「まぁ、よくわからないけど……生きてりゃきっといいことがあるさ」
「そうですね……いいことになることを願ってます」
私は席を立った。
まだ彼女との気持ちに整理はついていないが、どうしようもできない。
せめて、彼女が元気になることを願う。
ありがとう。そして、さようなら。
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