2016/4~2018/9

 地元に転勤となった。

 仕事は繁忙を極めた。

 サービス残業は当たり前。しないと仕事が片付かない。

 むしろ、定時を過ぎないと本来の業務に手が回らない。


 妻とは「地元に帰ったら結婚式を挙げようね」と約束していたが、計画を立てる気力も湧かない。

 妻は一生懸命支えてくれた。

 遅く帰ってきても嫌な顔をせず……。ときには、会社まで迎えに来てくれることもあった。


 結婚式は、妻が一人である程度進めてくれ、無事に終わった。

 こんな結婚式を望んでいたのだろうか。

 二人で楽しくいろいろ考える――

 そんな結婚式を望んでいたのではなかっただろうか……。


 それでも、妻は笑顔だった。


 ◇


 ようやく、妻が妊娠した。

 二人で妊娠検査薬の陽性反応を見て喜んだ。


 喜びは、一瞬だった。


 妻の体調が悪くなり、流産した。

 あのときの喜びが嘘みたいだ。


 妻は悲しみ続けた。

 お気に入りのぬいぐるみを、子供の代わりにするようになった。

 抱っこして、「かわいいね」って……。

 くまのぬいぐるみだから、「くまた」と名付けられた。


 そんな妻に、感情を合わせることができなかった。

 壊れているとも感じていた。


 ――どうしてこうなったのだろうか。


 けれど、次第に妻の気持ちに寄り添えるようになった。

 ぬいぐるみを、本来生まれてくるはずだった子として、私も接するようになった。


 「おやすみ」と言って一緒に寝て、朝「おはよう」と言う。

 妻も声色を変え、「おやすみ」「おはよう」と。


 誕生日には、ケーキを買ってお祝いを。もちろんプレートもつけて。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る