第16話 ばあちゃんの赤い傘

雨が降るたびに思い出す。


 ばあちゃんがくれた、あの赤い傘のことを。


 「雨の日はな、嫌なことが流されて、新しい一日が始まるんだよ」


 そう言って、いつも笑っていたばあちゃん。


 小学生の頃、急な雨に降られて泣いていた俺に、ばあちゃんは自分の赤い傘を差し出した。


 「ほら、これ持って行きな」


 ばあちゃんの傘は、他のどんな傘よりも目立っていた。


 その頃は恥ずかしくて、できれば使いたくなかった。


 でも、仕方なく広げて歩くと、不思議と雨の冷たさが和らいだ気がした。


 それから何年も経って——


 ばあちゃんが亡くなった日も、雨だった。


 形見として手元に残ったのは、あの赤い傘。


 すっかり色褪せていたけれど、開けばあの日のばあちゃんの笑顔が蘇る。


 「雨の日は、新しい一日が始まるんだよ」


 そう言われているような気がして、俺はそっと赤い傘を広げた。


 雨粒が傘を叩く音が、心地よく響く。


 ——ばあちゃん、ありがとう。


 雨は静かに降り続けていた。

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