第14話 父の背中

 夕暮れの道を歩くたびに、俺は幼い頃の記憶を思い出す。


 小さな手を引かれながら見上げた、広い背中。


 それは、子どもだった俺にとって、まるで壁のように大きかった。


 父さんは厳しい人だった。


 「男なら泣くな」「努力しろ」「言い訳するな」——


 叱られることが多かったし、正直、怖かった。


 俺がサッカーをやっていた頃も、試合で負けると「何が足りないか考えろ」とだけ言った。


 褒められた記憶なんて、一度もない。


 ——そう思っていた。


 父さんが亡くなったのは、俺が大学に入る前だった。


 ずっと反発していたから、ろくに話すこともなかった。


 その後、実家を整理していた時、古い引き出しから一冊のノートを見つけた。


 中を開くと、そこには俺の名前と日付が並んでいた。


 『今日、初めてリフティングを十回成功させた』

 『公式戦初ゴール。あいつ、嬉しそうだった』

 『サッカーを辞めたいと言った夜、本当は抱きしめたかった』


 読み進めるたびに、涙が止まらなかった。


 ——父さんは、ずっと俺を見てくれていたんだ。


 思い返せば、試合の後、黙って俺の靴を磨いてくれたことがあった。


 進路で悩んでいた時、何も言わずに大学の資料を机に置いていたことも。


 あれは全部、不器用な父さんなりの応援だったんだ。


 俺は、最後のページをそっとなぞった。


 『お前なら大丈夫。自分を信じろ』


 まるで、今の俺に向けられた言葉のようだった。


 窓の外を見ると、あの頃と変わらない夕焼けが広がっていた。


 俺は、拳をぎゅっと握る。


 ——父さん、ありがとう。


 呟いた声は、小さな風にのって消えていった。


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