家族
第13話 母さんの味
夕暮れの台所には、懐かしい香りが広がっていた。
俺はエプロンの紐をぎゅっと結び、目の前のレシピノートを開く。
母さんが遺した、最後のレシピ。
それを、今日こそ再現する。
母さんが作るハンバーグは、俺にとって世界一の味だった。
ふわっとしていて、肉汁があふれて、ソースはほんのり甘い。
何度も挑戦したけれど、あの味にはまだ届かない。
レシピには、「愛情を込めて混ぜる」と書かれていた。
「愛情……か」
呟きながら、ボウルの中のひき肉をこねる。
母さんはいつも、笑顔で作っていた。
俺は、そんな母さんの背中を見て育った。
なのに、気づいたときにはもういなかった。
「……まだ、覚えてるよ」
オーブンに火を入れ、フライパンで焼き目をつける。
ジュウッという音が、心の奥をくすぐる。
ソースを作りながら、記憶の中の母さんを思い出す。
『おいしいものを作るコツはね、大好きな人の顔を思い浮かべること』
母さんはそう言って、俺の頭をなでた。
俺は今、誰の顔を思い浮かべているんだろう。
……気づけば、母さんの笑顔だった。
皿に盛り付け、ナイフを入れる。
肉汁があふれ、ソースが絡む。
一口食べた。
「……これだ」
懐かしい味が、口の中に広がる。
涙がこぼれそうになった。
「母さん、できたよ」
窓の外を見ると、優しい風が吹いていた。
どこかで母さんが微笑んでくれている気がした。
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