第4話 あの日の桜

 春の風が吹き抜ける中、俺は静かに桜の木を見上げていた。


 満開の花びらが、まるで雪のように舞い落ちる。


 ——10年前。


 まだ俺たちは小学生で、この桜の下で約束を交わした。


「10年後の今日、またここで会おうな」


 幼馴染の美咲が、そう言って小指を絡めてきた。


「約束、忘れるなよ?」


「忘れるわけないだろ!」


 俺は強く頷いた。


 それからの10年間——。


 俺たちは同じ中学に進んだけれど、美咲は高校受験を機に遠くの町へ引っ越してしまった。


 最初のうちは手紙を書いていた。でも、次第にお互い忙しくなり、連絡も途絶えていった。


 けれど——


 俺はこの日を忘れたことはなかった。


 時計を見る。


 約束の時間まであと5分。


 来るのだろうか。


 10年も経てば、人は変わる。


 美咲は、今もあの頃のことを覚えているのか。


 もし、来なかったら——。


 そんな考えが頭をよぎったとき。


 ふと、風に乗って誰かの足音が聞こえた。


 ——カツ、カツ。


 ゆっくりとした足取り。


 俺はそっと顔を上げる。


 そこに立っていたのは——。


「……遅くなって、ごめん」


 春の日差しの中、美咲が、10年前と同じ笑顔で立っていた。


「約束、覚えてたんだな」


「当たり前でしょ」


 美咲の声が、あの日と同じように優しく響く。


 桜が、ひらひらと舞う。


 10年前と変わらない桜の木の下。


 俺たちは、再び出会った。


 まるで、昨日の続きみたいに——。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る