第3話 最後の試合

 夏の終わりを告げるように、蝉の声が遠ざかっていく。雲ひとつない青空の下、スタジアムには独特の緊張感が満ちていた。


 俺は手に持ったラケットを握り直し、目の前に立つ相手を見据えた。


「……来たな、翔真」


「当たり前だろ。お前との最後の試合なんだから」


 翔真はニッと笑って、汗を拭った。


 俺たちは幼い頃から一緒にテニスをしてきた。いつも隣にいて、同じ夢を追いかけた。けれど、高校最後の全国大会、トーナメントの組み合わせが決まり、俺たちは準決勝で対戦することになった。


 どちらかが勝てば、どちらかが負ける。


 最後の試合——それは、どちらかが高校テニスの幕を下ろす試合でもあった。


「全力で来いよ。手加減なんかしたら、ぶっ飛ばすからな」


「ああ、お前こそな」


 試合開始の合図とともに、翔真が鋭いサーブを放つ。


 速い。だが、読めていた。


 全身のバネを使い、コートの端まで駆け抜け、なんとかラケットを振り抜く。ボールはネットすれすれを通り、翔真の逆サイドへ落ちた。


「おお、やるじゃん!」


 翔真は悔しそうに笑いながら、またサーブの構えに入る。


 何度も打ち合い、何度もラリーが続く。


 お互いに息が上がり、足が悲鳴を上げる。だが、気持ちだけは折れなかった。


 ——負けたくない。


 それと同時に、俺はもう一つの感情を抱えていた。


 ——この時間が終わってほしくない。


 翔真との試合は、楽しくて、苦しくて、最高だった。


 最終セット、40-40。


 どちらがあと1ポイント取るかで、勝敗が決まる。


 俺は深呼吸をし、最後のサーブを打った。


 翔真の動きが、一瞬だけ遅れた。


 ボールがコートに突き刺さる。


 審判の声が響く。


「ゲームセット!」


 勝った。


 でも、すぐには喜べなかった。


 ネットを挟んで立つ翔真が、悔しそうに、それでも晴れやかに笑っていたから。


「……お前、強くなったな」


「お前のおかげだよ」


 俺たちは、ネット越しにガッチリと握手を交わした。


 この試合が最後でも、俺たちの友情は終わらない。


 蝉の声が静かになった夏の終わり。


 俺たちは、お互いの全てをぶつけ合い、最高の試合を終えた。

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