空は今日も、何かを降らせている

白河 隼

【第1話完結】空は今日も、何かを降らせている

 少年は、遥か遠くにそびえる白い山の頂を目指していた。


 あそこには自分が本当に目指すものがある。

 そうして、一歩ずつ、歩みを進めていた。


 だが空は、静かにしていなかった。


 ある日は石が降った。

 赤、青や紫、地面に散らばる光に目を奪われ、少年はかがみこみ、何粒も拾い集めた。


 そうして、少しのあいだ、足を止めた。


 またある日は、見たことのない果実が舞い降りた。

 金色の皮に、銀の葉。甘い香りに誘われて、一口かじると、珍しい味がした。


 もっと食べたくなった。おばあちゃんにも食べさせてあげたい。たくさん拾わなきゃ。

 少年は道を外れ、果実がある森の奥へ、奥へと入り込んだ。


 ときには、絵が降ってきた。

 ぐるぐる回る渦、泣いている鳥、逆さまの家。

 少年は足を止め、座り込んで絵に見入った。


 なぜ鳥は泣いていて、家が逆さまなのか。眠らずに考えた。


 石を拾いすぎた日には、荷物が重くて歩けなくなった。

 果実を追いかけすぎた日には、森の中で眠ってしまった。

 絵を集めすぎた日には、目を閉じても頭の中が騒がしくて、

 夢の中でさえ、山のことを忘れてしまった。


 それでも、ふとした瞬間に思い出す。白い山に登りきるんだと。


 少年は立ち止まり、深呼吸をする。

 手に持つ石を、そっと地に返した。

 珍しい果実に別れを告げ、難しい絵には火をつけた。


 空は今日も、何かを降らせている。

 だけど、少年は知っている。

 すべては拾わない。山に登るんだ。


 (了)

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空は今日も、何かを降らせている 白河 隼 @shirakawa_shun_2016

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