第3話 変身に必要な条件

 黒島は、異形の男と対峙している。

 河合は黒島を見守るしかない。

 男は両手を広げて構えている。

 防御を捨てた構えであることは、空手をやっている黒島にわかることだ。

 一方こちらは防御を考えなければならない。

 男は黒島に向かって、口から液体を吐いた。

 黒島はそれを躱す。

 躱した先にある大きめの石にそれがかかった。

 すると、その石は、徐々に溶け出した。

 これが皮膚にかかったらと思うと、黒島は恐ろしくなった。

 黒島は中段蹴りを放った。

 男の身長と黒島の身長は2㎝ほどしか変わらなかった。

 どちらも160cm前後である。

 間合いも変わらない。

 変わるのは男は異形の存在であるということだ。

 こんなものと戦ったことがあるわけがない。

 男は黒島につかみかかろうとした、体に触れたくない黒島はそれを躱し、顎に蹴りを放った。

 やぶさかであるが、男の服を掴み、そのまま下にたたきつけ、顔面を踏みつけた。

 しかし、男は血を流しながら喜んでいるだけだ。

 獣のようなうめき声をあげ、起き上がった。

 その辺に武器になりそうなものは転がっているが、武器を使うことは格闘家の名に恥じる。

 なので、それはできなかった。

 ましてや、相手は不審者とはいえ、格闘技の素人なのだ。

 軽くいなすことなど造作もないはずであった。

 男は黒島に大ぶりのパンチを放った。

 不規則な動きの殴りであった。

 しかし、それを黒島は喰らってしまった。

 相手が素人だと思って油断していたのだ。

 黒島の体は数メートル飛んだ。そして、その場にへたり込んだ。

 男は、黒島を追いかけ、蹴りを放った。

 しかも、今度はでたらめな動きではなく、勢いがあり、早い中段蹴りであった。

 起き上がった黒島に更に蹴りを放った。

 重い一撃だった。

 組み手で何度も男子の蹴りを喰らっているはずだった。

 並の男の蹴りなら耐えれると思っていたが、実際に自分は、倒れこもうとしていたのだ。

 男は黒島の背中に向かって、両手を組み、その手を叩きこんだ。

 黒島はうつぶせに倒れた。

 男は黒島を、サンドバックのように、何度も蹴った。

 黒島は体を丸くして身を守るしかない。

 しばらくすると、黒島は動かなくなった。

 河合は男から逃げなかった。

 他の者は、異形の男を見るや一目散に逃げた。

「純奈....にげて...」

 か細い声で、黒島は叫ぶも、河合には届かなかった。

「イヤリング返して...」

 男は河合の元に走った。

「助けて!!」

 河合は叫んだ。

 すると、河合の背後から円盤が投げられた。

 金属製の円盤だ。

 それが男の顔にめり込んだ。

「だ....だれ....」

 そこに現れたのは、スーツを着こなし、髪はぼさぼさ、丸いメガネをかけた、長身の男だった。

「円盤投げ。中学生以来ですねえ。」

 中元碧清である。

 男から中元までの距離は50mを優に超えていた。

「また、会いましたねえ、河合さん。」

 中元は呑気に河合に話しかけていた。

「いやあ、僕非常勤講師なんでね。たまたま帰り道が被っただけっていうか..」

 何やら言い訳をしていたが、河合は黙って、イヤリングを中元に渡した。

 中元は頭をかいた。

 そして、渡された、イヤリングを耳にセットする。

 すると、中元の体が黄金に輝いた。

 そして、その光が収まると、姿が変わり、メカリックな姿になっていた。

「お前は....適合...」

 そういう前に、中元は男の顔面を殴った。

 男は顔から血を流していた。

 中元は右手を前に出し呪文を唱えた。

 すると、口径10mmほどの太さの短筒が出てきた。

 中元は、 それを、男に向けて撃った。

 男の肩に命中する。

 それを撃つとその短筒は消えた。

 今度は手を天に向けて呪文を唱えると、刀が出てきた。

 中元は鞘から、刀身をあらわにした。

 中元は男を斬った。

 横腹に一筋。

 そこから血が出たのだ。

 男は出血しているところを手で押さえた。

 その抑えているところを、肘で、打ち付けた。

 男は、地面を転がった。

 そして、仰向けに倒れているところを、中元は顔面で踏んだのだ。

 すると、男は砂になって消えた。

 男を倒した中元は、河合にイヤリングを返した。

 ボロボロの黒島は、中元に尋ねた。

「あなた、何者?」

「僕は、社会科教師の中元ですが?」

「それは、知ってるよ!!さっき変身してたでしょ!あの男もあなたも。もしかして、仲間なの?あいつの?」

「さあ?僕には分かりません。僕が興味あるのは、歴史だけです。このゴールデンイヤリングの。」

「何で、それを、持ってると変身できるの?というか、純奈もこのこと知ってたの?今までずっと隠してきたの?」

「知らなかった。今日までそんなことなかったし。」

 中元は、掃除の時間に河合に会ったことを、黒島に告げた。

「そうだったの....でも、純奈のイヤリングが何で狙われているのか、それを先生は探ってるの?」

「まあ、この学校に着任したのが、今年でした。理由は、ゴールデンイヤリングがあることが去年分かったからです。場所は特定できましたが、誰が持っているかまでは分からなかった。そんな中、異形の存在を感じ取ったのです。階段に来てみれば、異形の存在がいるではないですか....なので、彼女を退治したというわけです。」

「じゃあ、あなたも...」

「まあ、ゴールデンイヤリングの存在は、分かったので結構です。私が知りたいのは、ゴールデンイヤリングの歴史と、なぜ、私がそれを使って変身できるかということです。」

「なるほど....でも、純奈はそれはおばあちゃんの形見だから手放したくないんだよね。」

「うん...」

 黒島は言った。

「じゃあ、今まで通り、イヤリングを狙う変や奴を私が倒せばいいってことか...」

「そうなりますね。」

 中元も頷く。

「いやいや、あんな怪物どうしろってのよ!!どうやったら、あんたみたいに変身できるの?」

「それを今調べているところです。」

 何で今になって、怪物が現れたのか...

 謎が深まるばかりであった。

 

 

 

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