第2話 最強の空手家、黒島藍那

 掃除を終えた、河合は、そのまま体育の授業に向かった。

 今日は、体育大会で披露するダンスの練習である。

 創作ダンスだった。

 男女混合でダンスをする。

 まだ、1か月先なので、やる気のない者もちらほらいたが、河合は一生懸命踊った。

 河合は、素行こそ、よくないものの、不真面目という訳ではなかった。

 そして、授業を終えると、制服に着替える。

 更衣室では、ガールズトークが繰り広げられていた。

 あの男子がかっこよかった、あの男子はきもかった、だの、生産性のない会話が室内を駆け巡っていた。

 河合もその輪の中に入る。

 しかし、三浦のことは話題にすら上がらなかった。

 河合はどこか放心したような感じであることを、黒島藍那くろしまあいなに言われた。

 黒島藍那は、一年の時から同じクラス、同じソフトテニス部の仲間であった。

 よく変なモノたちに絡まれる河合をその者たちから守っていた。

 なぜ、その役割を買っているのかと言うと、彼女は空手をやっており、去年黒帯を取得したのだ。

 フルコンタクト空手、阿部道場に通っている。

 阿部道場は、実践こそが、空手。を標榜しており、関節技や組技、など総合格闘技に近い形を稽古の形式にしており、師範の阿部は、本当の強さを求めるため、あらゆる格闘技に他流試合を申し込み、勝ってきた経験を持つ。

 組み手では、きっちりと当てる。

 男女関係なく、相手に拳を、足を当てていた。

 そのおかげか、体には痣が無数にあった。

 細かいのも数えればきりがないほどだった。

 4月の段階だと驚かれるが、今は、9月なので、もう見慣れたものであった。

 しかし、4月より、9月の方が、痣の数は多かった。

「何か今日元気ないよ。」

「いつもどおりやで、」

 黒島は、河合の目をじっと見た。

「絶対なんかあったやろ。」

 心の中を覗かれているようだ。

 実際に、黒島は河合の心の中をのぞいているのであろう。

 しかし、河合はあったことをそのまま話すわけにはいかなかった。

 信じてもらえないだろうからだ。

「それより、今日公園でドッヂビーしない?」

 河合は話をそらした。

「いいよ。今日部活ないからね。」

 今日はノークラブデーなので、部活は休みだった。

 部活がない日は近くの公園で、ドッヂビーをしていた。

 他の者は親からもらって小遣いで、スタバに行くが、河合と黒島そして、そのほか数人と、公園にいるその場の何人かで、ドッヂビーで遊ぶことになった。

 ドッヂビーとは、柔らかい素材で作られた、円盤で、フリスビーのように投げて遊ぶのである。

 河合たちは、6限目を終え、家に一度帰宅してから、外に向かった。

 河合は体操服に着替えていた。

 黒島ともう一人、高田信子たかだのぶこは、近くの公園に自転車で向かった。

 電動自転車で急勾配の道を進んでいった。

 公園の広さは、中学生が6人で集まっても、周りの子供の邪魔にならない程度にはあった。

 河合は、イヤリングを付けていた。

 いつもの事ではあるので、一々突っ込まなかった。

 9月とはいえ、残暑がある。

 周りのみんなも、半袖あった。

 河合は体操着の半袖半パンで走り回っていた。

 いつの間にか人が集まってきた。

 河合たちは、男子もまぜてドッヂビーをした。

 ボールであれば、道路に出てしまった際、車に衝突する可能性があったが、ドッヂビーであれば、そもそも、道路に出ることはめったになかった。

 小学生の頃は、公民館でドッヂビーをしていたが、それができるほどの体の大きさではなくなってしまった。

 ドッヂビーにはボールと違う投げ方のコツがあった。

 砲丸投げと円盤投げの投げ方が違うように、投げ方を間違えれば、勢いは死ぬ。

 その点、河合は、ドッヂビーに天賦の才があった。

 河合は男に至近距離で、ドッヂビーを当てた。

 男はそれを当てられて、何故か喜んでいた。

 今度は、ドッヂビー鬼ごっこに変更したようだ。

 あてられた男、小野智也おのともやは、黒島を追いかけた。

 黒島は叫んでいた。

 仲睦まじく遊んでいたころ一人の男が河合に近づいた。

 それを察知した黒島は河合の元に向かった。

「そのイヤリング可愛いね。俺に返して...」

 黒島はその男に言った。

「誰よ、あんた、そのイヤリングはあんたの物じゃないでしょ。」

 その男の格好は、夏だというのに、厚いパーカーにジーパンと言った格好で、髪は油でギトギトだった。

 ロン毛で、おまけに体臭もきつかった。

 しゃべるだけでその匂いが鼻をつんざく。

 歯も黄色く、開くたびにねちょねちょと音を立てていた。

「あんた、何かきもいよ。不審者!あっちに行け!消えろ!」

 黒島は男に罵声を浴びせた。

 しかし、男は意に介す様子はなく

「イヤリング返して...」

 そう河合にささやいた。

 黒島は男の睾丸を容赦なく蹴り上げた。

「おごおおおおおおおお」

 男は股間を抑えながらうめいた。

 しかし、普通の男ならその場に倒れ、悶絶するが、その男は笑みを浮かべていた。

 不気味な笑みである。

 男はマゾヒストだった。

「何こいつ...気持ち悪い。」

 逃げたところでこの男は追いかけてくるだけである。

 ならば、ここで戦うしかない。

 黒島は、腹に貫手を行った。

「おぐううううう」

 顔面は殴りたくなかった。

 よだれが垂れているからだ。

 黒島は次々と男に蹴りを行った。

 男は右足を蹴られる。

 徐々に崩れ落ちていくが、喜びもひとしおだ。

「生きててよかった...お母さん...ありがとう...」

「何言ってんだこの変態!!さっさと崩れろ!!」

 黒島は叫んだすると、男の顔は徐々に変色していった。

 顔を紅潮させた、というような生易しいものではない。

 グロテスクな色に変色し、さらに、油でギトギトの髪の毛も、徐々に抜けていった。

 黒島は完全に変形するまで、攻撃をやめなかった。

 しかし、目の前にいるバケモノが突如黒島を襲った。

 男は異形の毛むくじゃらの右手を黒島に向かって振り下ろした。

 黒島は後ろに下がってそれを避けた。

 

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