【完結】ゴールデンイヤリング

パンチ☆太郎

第1話 偏屈な社会科教師、中元碧清

 学校の屋上で一人、昼寝をしている男がいた。

 中元碧清なかもとりゅうせい

 26歳

 身長180㎝

 スーツをきちんと着こなしていた。

 髪はぼさぼさで、丸いメガネ、ひげは剃られておらず、身なりに無頓着なのかどうか判断に迷うところであった。

 チャイムと共に目が覚めた。

 掃除の時間である。

 中元は、屋上から飛び降りた。

 階段の踊り場を掃除している、体操着を着た女がいた。

 河合純奈かわいじゅんな

 14歳

 身長170㎝

 丸顔、ポニーテール、私服を着れば大人と間違われるほどの体格であったが、所作や言動がまだ子供じみており、蒙古斑もまだ、消えていなかった。

 均等の取れた顔立ちをしており、スポーツをしているせいか、服の袖を境に、肌の浅黒い部分とそうでない部分がくっきりと分かれていた。

 彼女は学校での素行は特段悪いというものではないが、よく忘れ物をしたり、スマホを間違って持ってきたりとうっかりした性格である。

 プライベートでは、イヤリングを付けている。

 おばあちゃんの形見のイヤリングだった。

 なぜか、学校まで持ってきていたのだ。

 今日はスマホを持ってきてしまった罰として、ほとんど使われない階段を1階から3階まで掃除をしていた。

 しかし、河合は不満を抱いていた。

 何で誰も通らない階段をわざわざ掃除しなければならないのかと。

 でも、どうせ“自分が悪い”って言われるだけだ――それがわかってるから、余計にムカついた。

 しかも、持ってきただけでなく、お母さんと連絡を取るために触った。それも、大した用事ではない。

 そんなことを考えていると、下の階から足音が聞えた。

 足取りは重くない。

 大人ではないだろうと直感で河合は思った。

 すると、そこに現れたのは、同じクラスの制服を着ている、三浦と言う女だった。

 河合は三浦に話しかけた。

「次の時間体育だけど着替えないの?」

「うん。それより、掃除大丈夫?」

「まあ、慣れたもんだし...」

 河合は恥ずかしそうに言った。

 河合と三浦は、ほとんど話したことがなかった。

 もうすぐ、体育大会だというのに...

 三浦はクラスのほとんどの者と話したことがない。病弱で学校に来ても、休み時間は基本的に読書をしていた。

 一方の河合は男女問わず誰とでも話すタイプである。

 それ故、三浦のように自分のことをあまり話さないタイプは苦手であった。

「そういえば、いつもイヤリング持ってるよね。」

「うん。」

 河合はポケットからイヤリングを出した。

「それ、返して...」

 三浦は河合に言った。

「え?」

「それを....かえして....」

 三浦の体は徐々に変色していった。

 形も変わっていき、まるで、獣のような姿になった。

 「それを返してえぇぇ!!」

 声が裏返り、次の瞬間、三浦の肌は爛れ、目が黄色く光った。制服の下から伸びた腕は、人のものではなかった。

 異形の手で、三浦は河合の腕を掴もうとした。

「きゃあああああ!!!」

 河合が叫ぶが、階段には誰も来なかった。

 誰も通らない

 なぜなら、今日は、美術も、家庭科も、理科の実験もないからだ。

 少なくとも、この時間は誰も通らない。

 したがって誰も助けには来なかった。

 三浦は鋭い牙で、河合の腕を食おうとした。

 怖い...

 なに、なに、

 人がいきなり...

 殺される....

 助けて...

 死んじゃうの?

 死にたくない...!

 誰か助けて!

 階段から見える窓から人影が現れた。

 上から人が降ってきたのだ。

 そして、窓からの人影はこっちに向かってやってきた。

「あれ?河合さん。今日もお掃除ですか?」

 窓から入ってきたのは、歴史の授業を教えている、中元先生だった。

 窓から入ってきたと同時に、階段の方向に向かって真っすぐ飛び、三浦を蹴ったのだ。

 河合は何が何かわからず動転していた。

「河合さん。ここから離れてください。それと、イヤリングを渡してくださいますか?あとで返します。投げていただいて構いません。」

 言われた河合は、中元に向かってイヤリングを投げた。

 投げられたイヤリングは、窓から入った光に反射して金色に輝いていた。

「イヤリング!!」

 三浦は叫んだ。

 それをジャンプしてキャッチしようとするが、中元は三浦の異形の顔に蹴りを入れ、そのまま、階段の踊り場まで、突き飛ばした。

 中元は、イヤリングを耳にセットした。

 河合は、その様子を上の階の踊り場からのぞいていた。

 すると、中元の体は金色の光を帯びた。

 金色の光が一閃した。まるで鎧を纏うように、スーツの上から異形の装甲が浮かび上がる。光が収まったとき、そこに立っていたのは――人ではなかった。

 しかし、そこに不気味さはなく、むしろ、均等の取れた美しい形をしており、さらに、その姿は悠然としていた。

 三浦は獣のようなうなり声をあげて、中元に襲い掛かった。

 しかし、中元は意に介さないように、三浦を殴った。

 そして、中元は、右足を前に出した。

 三浦は身構えていた。

 体の前で腕をクロスさせた。

 中元は、三浦に向かって、前蹴りを放った。

 そのまま、体から足を離さず、壁に押し込んだ。

 三浦の背中は壁に打ち付けられる。

 すると、三浦は砂になって消えたのであった。

 三浦を倒した、中元は、河合にイヤリングを返した。

「はい。あなたはこれを持っている限りこれからもいろいろな人に狙われるでしょうが、頑張ってください。イヤリングを持ってきたことについては見なかったことにしましょう。他の先生にばれないように。」

 河合は戸惑った

「ちょっと待って!何あれは!!」

 何が起こったの?

 何で変身したの?

 聞きたいことがあったが、言葉が出なかった。

 中元は、ちらっと河合を見てから

「そのイヤリングは、簡単に言うと呪物ですよ。」

「呪物?」

「まあ、授業がない時は屋上で寝てますのでその時声を掛けてください。」

 中元はそう言って去っていった。

 河合は何が何やらわからなかった。

 現実味がない。

 夢を見ているのだろうか。

 悪夢だ。

 夢なら次の景色は自室のベットだ。

 しかし、そうはならなかった。

 今までにも、イヤリングを狙われることはあった。

 その時は適当にやり過ごしていた。

 あと、屈強な男たちは、黒島が守ってくれていた。

 小学校からの幼馴染。

 空手をやっており、男より強い。が口癖の女だ。

 しかし、毎回、毎回守ってもらうのも、申し訳ない。

 本人は気にするなと言うが、その言葉に甘えて、遊ぶたびに着けていたら、さすがに厚かましいと思う。

 学校では、イヤリングは付けていない。

 他人と手に渡るわけにはいかないからだ。

 学校で持ってきたことがバレると一日手放さなければならない。

 それだけは絶対にできなかった。

 

 

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