マイちゃんは今日も冒険している(2)
「アケビ、葉っぱを消して雲だけ見れるようにはできない?」
「それは無理だなぁ。僕にそこまでの力はないよ。……でも、EnScapeを停止すれば、樹の外側で雲のレイヤーだけを拾ってくることはできるかな」
「よくわからないけど、どういうこと?」
「えーと……、マイちゃんがEnScapeを切ったら、僕の力で目だけを木の外側に飛ばすことができるから、葉っぱに邪魔されないで雲を見ることができるようになるってこと」
「じゃあそれでお願い」
「EnScapeを切ったら怒られるんじゃないの?」
「そうだった。じゃあ、いっぱいじゃなくてちょっとだけやってみて」
「もう、仕方ないなぁマイちゃんは」
アケビがそう言うと、マイのEnScapeゴーグルがシャットダウンして周囲の景色が変わった。
足元の建物は白くてのっぺりしていて、いつもより空が赤く見える。
周囲に葉っぱの映像が無いだけでも、さっきまでより風が強くなったような気がして少し怖い感じがする。
マイの少し先に仮想ディスプレが現れて、そこに雲が表示された。その仮想ディスプレの端っこにアケビの顔が表示されて、喋っている。
本当のアケビは肩に乗ってるのに変なの。
「マイちゃん、どうかな?」
「雲が見えてるよ。でも、それだけ。他のところの雲も変わりない?」
「雲はひとつひとつ全部違うさ。あとは自分で確かめてごらん」
ディスプレに映る曇り空が横に流れてゆく。見回しているのだろう、ということがマイには分かった。
「わかりにくいよ。地面も一緒に映せない?」
「できるよ。えいっ」
画面のアケビがジャンプして着地をすると、アケビの着地の衝撃を受けて窓が動いたかのように、雲が上に流れてゆき、画面の下の方にフェアリーステップの街並みが見えた。EnScape側だから、街並みというよりも樹ばかりで森に見えるのだけど。
「すごい! これはどっち向きなの?」
「カメラの方向は、いまマイちゃんが向いてるのと同じ方向さ」
「えー、ぜんぜん違う」
言われてみれば、大きな建物の配置なんかは同じはずなのだけど、肉眼で見るフェアリーステップの街は白亜ののっぺりとした建物が並んでおり、生い茂る森のような窓の中の風景とはだいぶ違う。
条例もあるので街の中ではEnScapeを入れたまま暮らしているものの、なにかの拍子にゴーグルが外れたり、ふざけて切ってみたり、それなりにライフの街の姿を見たことはある。そうは言っても、今みたいに立入禁止の高い場所からライフだけで街を見たことはない。
初めて見る生まれ育った街の、ライフの姿での
「どうだい。ヤマタノオロチは出そうかな?」
「見えにくいし、これじゃわからないよ……。アケビはどう? 空になにかいつもと違うところはない?」
「空に!? ……そうだな」
画面の中のアケビが振り向いて、雲の映る空をしげしげと見る。
「ここには映ってないけど、空でいつもと違うところといえば、テロリストの飛行機が近づいているよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます