マイちゃんは今日も冒険している(1)

 親には怒られるが、マイちゃんは相変わらず帰り道に寄り道をしている。

 例のほころびをアケビに開けてもらってEnScapeの裏側に入り込んだり、その状態でDoLRのクエストに参加したりしている。


「アケビ、今日はうちの樹の上に行こう」

「樹の上に行ってもいいけど、別に何もないところだから、つまらないんじゃないかな」

 マイの家族が住んでいる巨木型の集合住宅の上は、基本的に立入禁止だ。

 以前ならば、アケビはこういうときは真っ先に注意をしてきたと思う。

 それに、つまらない、なんてことも言ったことはない。

 修理して以来、マイのペットボットのアケビは賢くなったような気がする。

 マイはその変化を、パジャッソに機能を追加してもらったり修理をしたから性能が良くなったんだなと、なんとなく受け入れていた。

「上から、ヤマタノオロチが出ないかどうか見張りたいんだ」

「DoLRのレイドボスのこと? 出るかどうかなら、ゲーム公式のアラートがあるよ」

「あれは出てからじゃないと来ないもん。ヤマタノオロチが出るかどうか、雲を見てるとわかるんだよ」

「ふーん、そっか。じゃあ行こうか、マイちゃん」

「うん」


 自宅付近に新しく見つけたほころびからアケビに頼んでEnScapeの隠蔽を抜け、アケビに頼んで屋上の鍵を開けてもらう。

 巨木型の集合住宅とはいえEnScapeが投影されていないライフの側では実際に葉っぱがしげっているわけではない。EnScapeの装飾をしやすいように円柱形になっており、上部は普通の平面である。

 屋上には柵も付いている。

 EnScape上は葉っぱに埋まっていることになるのでマイが居る裏側から見ても視界は悪い。しかしその葉っぱもEnScapeの投影ではあるので、設定のオブジェクト透明度を下げるだけで向こうが透けて見える。

「マイちゃん、EnScapeが推奨の透明度より低くなっているよ。それはエチケット違反じゃないかな」

「ここには他の人が居ないから大丈夫なの」

「それもそうか」

 アケビの回答が柔軟だ。

 以前はアケビの警告をマイが無視する形だったのだが、最近のアケビは見逃してくれる。

 話がわかるようになって、付き合いやすくなった。

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