第17話 いつかは今
S4とS3が浜辺で話している。
ここからだと何を話しているか分からないが、二人とも幸せそうな顔をしている。
「ねえねえねえ、ありがとね!」
灯里が桜に肩を担がれながら近づいてきた。
桜の方が背が高いため、灯里はきつそうな体制になっている。
桜は灯里の身長に合わせる気が全くないようだった。
「お前と取引がしたい。」
何を言うつもりなのか。
念のため身構えた。桜はそれに気が付いているようだが気にすることなく話をした。
「お前が保護している女は見逃す。その代わり、もう一方は私たちによこせ。」
S4を見逃してくれるのはありがたい。
しかし、そもそも信用できるのか。また、S3を差し出すことにS4は納得するだろうか。
「こちらには、お前たちを信用する理由がない。」
「ええー信用してよ!」
灯里が茶々を入れてきた。
桜は灯里の頭をはたき話を続ける。
「お前は合理的な人間だな。こちらの状況を伝えておこう。私たちは組織から依頼されてお前らを追っていた。しかし、さっき見たように他の追手もいただろう。私たちは使い捨ての駒にされたんだ。」
桜は舌打ちをして、話を続けた。
「要件が済んだら、私たちも処分されるだろう。しかし、手ぶらで帰ると無能の烙印を押されて干される。だからこその半々だ。まず、一方の身柄を組織に差し出し、私たちは組織の信頼を得る。そして、お前らを追っているふりをして組織の弱みを探す。私たちを舐めたまま終わらせるわけにはいかねえ。」
桜は苛立ちを隠しきれない様子だった。
灯里は桜の肩を叩きながらなだめている。
確かに、桜の意見は筋が通っている。嘘をついている気配もない。
ただ、S4の大切な存在を組織に渡すことが引っかかってしまう。
「あなたたちの要件は分かった。合理的には賛成だ。ただ、S4の意見も聞いておきたい。」
「へぇー意外だな。」
桜は少し驚いた表情をした。
「桜さん、ドキッとしちゃった?恋じゃない!?」
桜は灯里の頭を強く叩いた。
「ねえねえねえ、でもあの子はお腹を撃たれてるよ。多分長くはないと思うんだ。」
確かに出血量が多かった。
病院に緊急搬送しなければ死んでしまう。ただ、病院には行けない。
「分かった。私もできる限り死なせない様に努力しよう。」
桜は真っすぐ俺を見ていた。とにかくS4に相談しなければ。
「健太くん!!」
S4が呼んでいる。
俺は、S4が座っている近くまで走っていった。
S3は意識を保つことで精一杯のようだ。
「健太くん、S4を守ってくれてありがとう。あなたのおかげでいつか見ようと言っていた海を一緒に見ることができた。これは、勝手な願いなんだけどこれからもS4を守ってほしい。」
「分かった。約束する。」
考える間もなく即答してしまった。
S4もS3の手を握りながらほほ笑んでいた。
「そうだ、篠原さんだけど、何か大切なものを息子に託したと言っていた。それが、息子にとって大切なことだからと言っていた。何のことかは分からないけど、あれが父親というものなんだなって感じたよ。」
託されたものとは何だろう。
気になるが、今はS3の今後について話をしなければ。
S3を抱きかかえ、桜と灯里のもとへ戻った。
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