第16話 終焉

 「あらら、やっちゃたよ~」

 

 灯里は撃たれた足を抑えている。

 へらへらしたままゆっくり立ち上がり、ハサミをまっすぐA6に向けた。


 「なぜ、立つことができる。」


 A6は困惑している。

 その隙を狙って、桜が発砲するが寸でのところで躱した。

 均衡が崩れ、A6が有利になっている。

 あの二人がやられてしまうと次は俺たちに向かってくるだろう。


 「少し、準備をしたい。しーちゃん、時間稼ぎできるか?」


 もう二回も襲撃されているため、撃退の策は考えていた。

 しかし、準備の間に灯里がやられてしまえば間に合わなくなってしまう。


 「うん、分かった!」


 S4は真っすぐ自分を見ている。

 ふと、下に視線を下ろすと手が震えていた。

 こんな状況で緊張しないわけがない。俺はS4の手を握った。


 「大丈夫、遠くから遠距離で二人をサポートしてくれればいいから。」

 

 S4の手から震えが止まった。

 S4は立ち上がり、建物の入り口に向かった。

 A6が灯里に銃口を向けている。A6は灯里の頭に向かって発砲をした。

 その銃弾に向かって念能力を使った。

 銃弾は灯里に到達する前に地面にたたき落ちた。


 「超能力ちゃん!!やる~!」


 灯里の陽気な声が辺りに響いた。

 S4は少し嬉しい気持ちになったが、気を引き締めた。

 念能力は体力を使うため、すべての銃弾をはたき落とすことはできない。

 防戦一方だと、先にS4の体力が尽きてしまう。


 「超能力ちゃん!!」


 灯里が叫んだ。


 「私を前方に吹き飛ばして!!」


 灯里の指示が理解しきれなかったが、迷っている時間はなかった。

 S4は灯里に向かって最大限の念能力を使った。

 すると、灯里は宙を舞い、A6に向かって吹き飛んでいった。

 A6は宙に浮いた灯里に銃口を向ける。

 その時、桜が放った銃弾がA6の拳銃にあたり、弾き飛ばした。

 灯里はまるで猫のように体をしなやかに捻らせ、A6の右手首にハサミを突き刺した。


 「ぐっ!!」


 A6は痛がりながら、弾き飛ばされた拳銃の方向に転がり込んだ。

 落ちている拳銃を拾い、左手で銃を構えた。


 「こいつ両利きかよ。」


 桜は愚痴をこぼした。

 その時、海にサイレンが響き渡った。

 その音を聞き、A6の動きが止まった。

 A6は灯里を睨みつけ、撤退していった。


 「良くやった。」


 俺はS4に声をかけた。

 S4は体中の力が抜け、その場に倒れこんだ。

 俺は手元のスマホを操作し、スピーカーから流れるサイレン音を止めた。

 組織の人間は一般人が近づくのを極端に嫌う。

 そのため、リアルなサイレンの音を準備していた。

 他にも、手段を用意していたが、一番リスクの少ない方法で解決できた。


 「やっぱ、偽物か。」


 桜が建物の入り口からこっちを見て言った。

 この二人は、本物の警察が来ても逃げない。

 今度、この二人と対決することになったら他の手段を使わなければならない。


 「S3。もう大丈夫だよ!」


 S4はよれよれになりながら、S3に向かって行った。


 「頼もしくなっちゃって。私は嬉しいよ。」


 S3は喜んでいるようだが、表情に覇気がない。

 体力の限界が近づいているようだ。


 「健太…だよね?お願いがあるんだけど、私を砂浜まで運んでくれないかな?」


 俺はS3をお姫様抱っこの形で抱えた。S3は俺の顔をじろじろ見ている。


 「もしかして、篠原先生の親戚?」


 S3の発言に俺は鼓動が早くなるのを感じた。


 「その人は、俺の父だ。今、どこにいるか知らないか?」


 「ごめん。今どこにいるのかは知らない。そうか、篠原先生の息子か。」


 「父さんはどんな人だった?」


 自分で聞きつつ、変な質問だと思った。

 自分の父親がどんな人間かは自分が一番知っておくべきなのに。


 「とても優しい人だったよ。組織の中で数少ない、私たちを人間として扱ってくれた。」


 話をしながら砂浜の真ん中まで歩いてきた。


 「ありがとう。S4と二人きりにさせて。」


 俺はS3を砂浜にそっと置き、遠くに移動した。

 

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