第18話 明日へ

 S4と一緒に家に帰った。

 二人とも疲れ切っていたため、家についてすぐ椅子に座り込んだ。

 結局、S3は灯里と桜に渡すことになった。

 S4も最初は悩んでいた。しかし、S3も灯里と桜についていくことを合意したためS4も納得いったようだ。

 おそらくS3は少しでもS4が安全になる方法を選んだのだと思う。


 「健太くん、本当にありがとう。」


 S4は改めてお礼を言った。

 俺は、この感謝を素直に受け取っていいのだろうか。

 最初は父親の手がかりとして利用してやろうと考えていた。

 しかし、時間が経つうちに自分自身も変わっていたのを感じている。

 俺は今まで、人との関わりを極力避けてきた。そんな中、S4の真っすぐな感情に触れて人を信じてもいいのではないかと思えてきていた。

 本当にお礼を言うべきなのは俺かもしれない。


 「こちらこそ、ありがとう。」


 俺は照れ臭くてS4の顔を見れなかった。

 それでも、S4が不思議そうな顔でこちらを見ているのが、なんとなく想像できた。


 「俺の父親の話をしていいか?」


 自分自身の悩みを共有したいと考えていた。

 それは、S4へのお礼でもあり、信頼の形でもあり、言葉にはしづらいが、とにかく話したいと思った。


 「俺の父親は研究者で家にあまりいなかったんだ。だから、子供のころは正直寂しかった。しかも、その父親は俺が中学の時に失踪したんだ。その時から、自分は何かが欠落しているのではないかと思ってたんだ。家族といられなかった自分は他の人が当たり前に受け取ったものを受け取れていないのかもしれないってずっと考えていた。」


 S4は黙って話を聞いてくれている。

 俺は、自分の心を人に打ち明けることがほとんどなかったため、言葉を選びながら話した。


 「だから父親を探そうと思ったんだ。その手掛かりが羊の組織。しーちゃんを助けたのも、結局は俺自身のためだったんだ。」


 「そんなことないと思うよ。いや、そうだったとしても健太くんが私を助けてくれた。どんな理由だとしても私は嬉しいよ。」


 S4の言葉に、思わず涙がこみ上げそうになった。

 心が少し軽くなった気がした。


 「よし、決めた。私も健太くんのお父さんを探す。」


 S4は拳をぎゅっと握り、前に突き出した。

 これからは一人ではなく、二人で生きていくことになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

スケープ・シープ @kurokiG

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ