第15話 対決

 割れた窓から中を確認すると、灯里と桜が立っていた。

 その奥には女性が一人座り込んでいる。


 「S3だ。」


 S4が呟いた。

 S3は腹部から血が流れている。

 灯里と桜を見ると二人はS3と反対方向を見ていた。

 音を立てないように移動して中身を確認すると、男がS3に銃口を向けて立っていることが確認できた。

 男をよく確認する。あの男は最初に路地で俺たちを襲ってきたA6だ。


 「状況が理解できない。こいつらは両方とも敵のはずではないのか?」


 S4は一刻も早くS3のもとに駆け付けようとしているが、それを抑え込んだ。

 今の状況で飛び出すのは得策ではない。

 桜はゆっくりとA6に向けて銃口を構えた。灯里もハサミを手に取っている。


 「おい、何のつもりだ。俺は組織の刺客だ。S3を差し出せ。」


 男の低い声が響いた。


 「ねえねえねえ、組織ってなぁに?私たちはおじいちゃんにお願いされたターゲットを連行するところだよ。あなたのことは知らないけど、私たちの邪魔をするつもり?」


 灯里は、A6が向けている銃口の先に立った。


 「お前が、味方という証拠もない。早く出て行かないと撃つぞ。」


 A6は上着のポケットから何かを取り出そうとした。

 その瞬間、桜が銃を撃った。

 A6は瞬時に反応し、体を右にずらした。

 その結果、弾丸は左肩をかすり致命傷は免れた。


 「桜さん、やっちゃっていいよね!」


 灯里は桜の返答を待つことなく、A6に飛び掛かった。

 A6は灯里に向けて銃を撃つが、桜は手元のハサミで銃弾をはじいた。

 そのまま、A6にドロップキックをし、A6と灯里は海の家の外に放り出された。


 「スペア持ってて良かった。」


 先ほど壊れたハサミを捨て、新しいハサミを取り出した。

 再び、灯里はハサミをA6に向けて突き刺した。

 A6も最小限の動きでハサミを躱し、銃で反撃をするが灯里も反射神経ですべて躱している。

 桜も建物から飛び出し、もみ合いとなっている二人に躊躇なく銃弾を撃ち込んだ。


 「桜さん、私に当たっちゃうよ!」


 「知るか!避けろ!」


 桜は躊躇なく銃を撃ち続けている。

 灯里はすべて躱しながら接近戦でハサミを突き立て続けている。

 しかし、A6はすべての攻撃を完璧に対処していた。

 かすることもあるが、致命傷はすべて避けていた。


 「建物に入るぞ。」


 俺が声かけると、S4は真っ先にS3のもとに向かった。


 「S3大丈夫?」


 S4はS3を抱き起こし声をかけた。

 S3は疲労しきっていた。


 「これは夢か。」


 S3は消えそうな声でつぶやいた。


 「そうだよ!ちょっと待ってて。今手当をするから。」


 S4は声をかけるが、正直、今できる処置は限られている。

 使えそうなものはないかと周囲を見渡し、なるべく清潔そうなテーブルクロスを持ってきてS3の傷口に巻き付けた。


 「とりあえず、止血だけしとけ。傷口を抑えて出血量を減らせ。」


 S3は初対面の俺に警戒をしていた。

 S4はそれを察知したのかS3の手を握って声をかけた。


 「この人は大丈夫だよ。今まで私をずっと助けてくれてる。」


 S3はS4を見てほほ笑んだ。

 警戒心が解けたというよりか、S4に信頼できる人ができたことを喜んでいるようだった。


 「とりあえず、ここから出ないと。あの二人とは何を話した?」


 「良く分からないけど。殺すつもりはないみたい。私を使って組織を出し抜こうとしていた。」


 あの二人を味方と見るのは不安ではある。

 しかし、事態を複雑にすれば、対処はさらに難しくなる。

 まずは、A6を倒してここから脱出することが先決だ。


 「痛い!!」


 外から灯里の声が聞こえた。

 戦況は均衡していたが、灯里の足に被弾してしまったようだ。

 このままではあの二人が負けてしまう。

 

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