第14話 才能(灯里目線)

 山陽橋近くの海岸に到着した。

 時刻はまだ夕方ではないが早めに待ち伏せることにした。

 桜さんが言うには、ターゲットは追われているため余裕がなくなっているから早く安心するために早めに来るだろうとの予想だった。


 「桜さん、海が綺麗だね。」


 「そうでもないだろ。さっさと探せ。」


 桜さんには自然を愛でる余裕がないのか。

 そんなことを考えてもどうしようもないので、命令通り探すことにした。

 海辺は砂浜になっており誰一人いない静かな風景だ。


 「探せって言ってもいないですよ!もっと奥に行く?」


 「奥に行ったら橋が見えなくなるだろうが。集合場所はここで間違えない。ただ、探すのは砂浜じゃなくて砂浜が見える所を探せ。追われているのだから、砂浜に突っ立てる訳にはいかないだろう。」


 なるほど。

 つまり、隠れながらこちらを監視できる場所ということか。

 あたりを見渡すと海の家があった。

 海水浴のシーズンではないので開店はしていない。ただ、妙に気になるので走って突撃してみた。

 桜さんはこちらをチラ見するが来るつもりはない様だ。

 海の家は建物とテラスがくっついたような形をしている。

 建物はもちろん施錠されていた。テラスには入口に柵があるものの、簡単に飛び越えられそうだった。

 躊躇なくテラスに侵入し当たりを見渡す。テラスはテーブルとイスが4セット設置されており、その他には木箱が置いてあった。


 「ねえねえねえ、中に誰かいますか?」


 聞いてみても返事はない。

 しばらく見つめるがびくともしない。

 とりあえず開けてみよう。

 私は思いっきり蓋を開けた。

 すると中に女性が一人座っていた。


 「いるじゃん。返事してよ!」


 女性は手のひらを私の胸に当ててきた。

 顔を見ると写真に写っているターゲットの顔だ。

 もう一人のターゲットは超能力を使っていた。

 ということはこれって攻撃?

 慌てて後ろに飛んだ。

 すると体に強い衝撃が走った。この衝撃は電気か。

 後ろに飛んだことで電気の威力は下がり、軽いスタンガン程の威力になっていた。


 「桜さん!!」


 私は砂浜を歩いている桜さんを呼んだ。

 その声を聴いたターゲットは建物の窓を割って中に侵入した。

 駆け付けた桜さんは飛ばされている私と割れた窓を見てなんとなくの状況を察したようだった。


 「相手は超能力者か?」


 「そう!電気がびりびり来た!直接触れられるとやばいかもね。」


 話ながら私は立ち上がり、窓から中身を見た。

 桜さんは施錠された扉を拳銃で撃ち抜き、中に侵入した。

 今回はサイレンサーを付けているので大きな音は出なかった。

 私も遅れて、建物に入った。


 「おい!出てこい!」


 桜さんは声を荒げている。私はその声を遮って提案をすることに決めた。


 「ねえねえねえ、君も仲間にならないか!?」


 「はあ!?」


 桜さんは怒りの声を上げた。そして、なぜか私に銃口を向ける。


 「桜さん、冷静になって考えてみて?超能力を使える人を殺しちゃうのはもったいないって。絶対、仲間にした方がお得でしょう。」


 「得がどうとかじゃないだろう。依頼なんだから殺すか捕まえるのは決定だろう。じゃないと報酬がもらえなくなるぞ。それ以上に、組織から報復を受ける羽目になるぞ。」


 桜さんは銃口をこちらに向けながらも、建物内の動きを警戒していた。

 ターゲットの動きを警戒しつつ、私と話しているようだ。

 ということは案外冷静かもしれない。


 「そこがちょっと、不信だったんだ。報復とか関係なしに私たちは消される予定なんじゃないかな。そもそも、組織は一切の情報を私たちに伝えてなかったでしょ。でも、私たちは組織の名前、超能力の存在とか色々知っているわけだ。じゃあ、もう消すしかなくない?」


 桜さんは銃を下ろした。


 「確かにな。私たちに必要なものは、交渉のカードということだな。私も、下に見られるのはしゃくだ。ターゲットを追うふりをしながら、組織の情報を探り弱みを握った方が得策だな。」


 桜さんは銃を懐に収めた。


 「そういうわけだ。悪いようにはしないから出てこい。」


 厨房の奥から女性が姿を現した。


 「名前は何だ。お前をなんと呼んだらいい。」


 「私はS3。」


 その瞬間、銃声が響いた。

 その音からして、桜さんの銃ではないようだった。

 女性は腹から出血をしていた。

 扉の方向を見ると、銃を構えた男がいた。

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