第13話 判断

 俺は、S4と海に向かっていた。

 柏木に頼んだ歌は、数日後にアップロードされていた。

 S3がこの動画をいつ見るかは分からないが、これから毎日夕方に海を見に来る予定でいた。道を歩いていくと目の前に海が広がった。


 「わ~~!!」


 S4は海を見て感動していた。

 まるで子供のように、はしゃいでいる。初めて見た海だから仕方もないか。

 俺が最初に海を見たのはいつだろう。全く記憶にない。

 父は海に連れて行くようなタイプではなかったため、初めて海を見たのは、小学校の遠足の時ではないかと思う。

 しばらく歩いていると砂浜が見えてきた。海水浴のシーズンではないので人はほとんどいなかった。


 「見て!誰かいるよ!S3かな。」


 S4が誰かを発見したようだ。確かに女性が一人砂浜を歩いている。

 S4は手を振ろうとしていた。

 俺は、目を凝らして砂浜の女性を確認した。

 その女性は背が高く、どこか見覚えがある。

 とっさにS4の口を押え手を下ろさせた。

 その女性はあの日俺を拳銃で撃った桜さんと呼ばれている人だ。


 「なんでここにいる。」


 ここが分かったということは、柏木の動画を見て暗号を解読したということだ。

 つまり、あの二人はドリーハウスの情報を知っているということか。

 さらに、俺の情報を調べ上げ、柏木と同級生であるというところから辿られたと考えるのが自然か。

 頭の中で反省しているうちに、砂浜の桜がこちらを見た。

 まだ気づかれていないようだが、気づかれると危険だ。

 さりげなく、S4を道の隅に追いやり電柱に隠れるように誘導した。


 「もしかして、追手?」


 S4も相手に気が付いたようだ。

 電柱の陰から桜を観察する。

 桜がこちらを見ているように感じたが、次の瞬間こちらへ歩き始めた。


 その時、


 「桜さん!!」


 かすかに声が聞こえた。

 その声に反応して桜は自分たちとは反対方向へ歩き始めた。

 ばれない距離を保ちながら桜の後を追うとその先に海の家があった。

 海の家に近づいた瞬間、ガラスが割れる音が聞こえた。


 「誰かが、海の家に逃げ込んだ。あの二人が誰かを海の家に追い込んだのか。」


 S4に話しながら、内心悩んでいた。逃げ込んだのはおそらくS3だろう。

 しかし、S3を助けるために危険を冒すメリットが少ないかもしれない。

 組織については、ある程度S4から聞けている。

 新しい情報もあるかもしれないが、大きく期待することはできない。

 むしろ、S4が殺され、こちらの切り札を失うことになるかもしれない。


 「誰かって誰?」


 S4はまだS3がいることに気が付いていない。

 ここは、ごまかしてここから退散することが最適解だろう。

 S3は死んでしまうかもしれないが、俺の目的には支障がない。

 理由を考えながらS4を見る。

 S4は真っすぐな目でこちらを見ている。


 「しーは自分が死ぬかもしれない状況で他人を助けたいか?」


 S4の真っすぐな目を見ていたら思わず聞いてしまった。

 俺はまだ迷っているのか。

 最適解は分かっているが、それは俺だけの最適解だ。

 S4としてはもちろんS3を助けたいだろう。

 その気持ちを裏切って自分の利益を優先することに迷いが出ている。


 「正直、他人だったら助けないと思う。だけど、S3や健太君だったら迷わず助けるよ。」


 俺は心が苦しくなった。

 S4からしたら、俺もS3と同様に大切な存在と認識してくれていた。

 俺は今まで、他人を思いやる気持ちを遠ざけてきた。それは、裏切られるのが怖かったからだ。

 信頼した人が、いなくなるのが怖かったんだ。家族を理由にして、周りを遠ざけて、自分が傷つかない方法を探していた。

 でも、自分には繋がりができてしまった。

 それがなくなるのがもう耐えられなくなっていた。


 「確証はないが、逃げているのはS3だ。しかも追っているのはあの二人だ。俺たちが向かっても何もできず、ただ殺されるかもしれない。それでも行くか?」


 「行く!」


 S4は即答した。

 もう考えるふりをして、言い訳をするのは辞めた。

 俺とS4は海の家の近くまで走った。

 建物内から何か話し声が聞こえたが、内容までは分からなかった。

 すると、海の家から一発の銃声が鳴り響いた。

 

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