第9話 怪しい二人

 「ねえねえねえ、君ってもしかして。」


 ハサミ女がこちらに迫ってくる。なるべく関わらない方が良いことは確かだろう。


 「私にお若く美しいって言ってくれた人だよね!!」


 正直、その時に何を言ったかは覚えていなかった。

 S4は目を見開き、口を開けながらこっちを見ている。

 俺がべたにこの女の人を口説いたと勘違いしているのか?


 「ねえねえねえ、桜さん!この人だよ!嘘じゃないよ!」


 桜さんと呼ばれた女性も振り向き、こちらに近づいてきた。


 「なんだよ、灯里の妄言じゃないのかよ。お前、名前はなんていうの。」


 桜は疑り深くこちらを睨んでいる。身長が大きいせいか、威圧感を感じる。


 「俺は、篠原健太です。用がなければこのまま通り過ぎたいのですが。」


 組織に繋がる道は目の前にあるが、この人達にばれない方が良い。

 この二人がどんな人物かは分からないが、立ち振る舞いや表情、何より冷たい眼が裏の組織の人間だと判断できる。早くここから立ち去らなければ。


 「篠原ね。まあ大した用はないけどさ、隣の子は誰だい?」


 桜は俺に向けて拳銃を突きつけた。

 なぜ、二日連続で銃口を向けられる羽目になったのか?ここは日本では無くなったのか。

 動揺を悟られないよう、桜の冷たい目を見据えて答えた。


 「妹です。ちょっと道に迷いまして・・・」


 話終える前に発砲音が響いた。弾丸は俺の頬をかすめた。


 「お前、裏の人間か?銃を突きつけられているには冷静すぎる。そんなに銃を見る機会もないだろう。」


 「健太くん、正直に話した方が良いよ!桜さんの引き金はすごく軽いんだ!」


 灯里はまるで舞台劇のように大げさなリアクションを取った。


 「彼女とは、最近知り合った。誰かに追われていると聞いていたから黙ってたんだ。あなたたちが追ってですか?」


 時間稼ぎと情報収集が必要だ。

 嘘をつかずになるべく情報を明かさないように注意した。


 「うーん。確かに私たちは彼女を追ってるよ。でも、私たちは初対面だ!私たち以外にも追手がいるんだね。君はなんで追われてるの?」


 気づいた時には灯里の手にはハサミが握られていた。

 S4は動揺を隠せていない。

 このままでは、情報を搾り取られた挙句、殺されてしまうだろう。

 逃げる方法を考えなければ。

 口元を抑えながら頭を回した。


 「相手は二人。一人は拳銃を所持。発砲済み。もう一人はハサミを所持。並外れた運動神経と反射神経を持つ。二人とも人を傷つけることにためらいはない。場所は路地裏。前にマンホール。後ろに丁字路。大通りに近いが、二人をまけるか。」


 「おい、何ぶつぶつ言ってる。」


 桜はもう一度こちらを撃とうとしている。今回も勝算は低いがやるしかない。


 「しー!マンホールごと吹き飛ばせ!」


 俺は大声を上げた。S4は二人に向かって手を伸ばした。

 その瞬間、灯里もハサミでS4を突き刺そうとするがこちらの方が早かった。

 灯里と桜の両方を吹き飛ばしたようだ。


 「前に走るぞ!!」

 

 俺はS4の手を引っ張り走り出した。

 ふくらはぎに激痛が走るが、気にしている暇はない。

 マンホールの直前で再び発砲音が鳴り響いた。

 幸い今回はどこにも当たらなかった。

 マンホールにS4を押し込み、自分もマンホールに入る。マンホールに体を滑り込ませ、後は顔を引っ込めるだけだった。

 その時、男の声が響き渡った。


 「何をしている!!警察だ!!」


 ここは、裏路地だが大通りからは近かった。

 桜はサイレンサーをつけていなかったため、誰かが通報したのだろう。

 警察が来ることは予想していたが、いつ来るかは予想できなかった。

 そのまま、マンホールを下りやっと一息付けた。

 S4を見ると、手から血が流れている。灯里は吹き飛ばされながらも、S4の手を切りつけたようだ。

 S4に声をかけ、急いで下水道の中を進んだ。

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