第7話 電脳の子(灯里目線)

 閑静な住宅街を桜さんと一緒に歩いている。

 桜さんはコートのポケットに常に手を入れている。


 「本当に情報を得られるのか?」


 おじいちゃんからの依頼は、写真に写る人物を連れてくることだった。

 だけど、写真の人物、依頼者の名前を何も教えてくれない。

 桜さんは明らかにイライラしていた。そこで、私から情報を探せそうな人を紹介してあげることにした。


 「桜さん、ここです!」


 目の前にはきれいな一軒家がある。

 庭には家庭菜園もあり、そこそこお金持ちの実家のような雰囲気だ。

 門の隣のインターホンを押す。すると、奥から若々しい女性の声が聞こえる。


 「はーい。」


 「木村です!!ねおちゃんいますか?」


 「あらー灯里ちゃん。久しぶり、ちょっと待ってね。」


 インターホンの向こうでは、女性が遠くにいる子供に呼びかけるように名前を呼んでいる。


 「お前の友達か?そんな奴で大丈夫か?」


 桜さんは怪訝な態度をとっている。


 「はい!ねおちゃんっていうんですけど、絶賛引きこもり中です。ネットに詳しくて、いろんな所にハッキングをしているので何か分かるのかなと思います。」


 目の前の扉が半開きになり、中から緑色のジャージを着たねおちゃんがいた。

 ねおちゃんは前髪を上にあげて銀縁の眼鏡をしていた。見た感じ寝起きみたいだ。


 「なに!?」


 ねおちゃんはイライラしていた。私の周りには、イライラしている人がやけに多い。私は半開きのドアをこじ開けた。 


 「遊びに来たよ!入れて!」


 嫌がるねおちゃんを尻目に強引に家の中に入った。

 ねおちゃんはしぶしぶ私たちを自分の部屋に案内した。

 部屋はカーテンが閉め切られており、壁沿いに複数台のモニターが光っていた。


 「あなたがハッカー?設備はしっかりしてそうね。」


 桜さんは、勝手に部屋を物色している。

 ねおちゃんは嫌がりながら文句は言えずにいた。

 私は二人の手を取り、向かい合わせた。


 「ねえねえねえ、まずは自己紹介でしょ。こっちが私の上司に当たる飯豊桜さん。モデル体型の怒りん坊!こっちが島田ねおちゃん。中学の同級生で引きこもりPCオタク!」


 「おい!紹介文が雑過ぎるだろう。」


 「というか、そもそも自己紹介じゃなくて他己紹介じゃない。」


 二人して私を責め立てる。責められるのは嫌なので、さっそく本題に入ろう。

 桜さんのポケットから勝手に写真を取り出した。


 「この人たちを探してるんだけど、見つける方法はない?」


 ねおちゃんは写真を凝視した。桜さんもため息を深くついた後、会話に入ってきた。


 「写真以外に手がかりはない。お前のハッキングで何か分かるか?」


 ねおちゃんはにやりと笑い眼鏡をくいっと上げた。


 「まずは、写真から分かる情報です。こっちの子の肩が破れていますね。そして、よく見ると入れ墨があるのが分かりますか?」


 写真を至近距離で凝視してみた。確かにあるようなないような。


 「このマークに見覚えがあります。」


 そういうとねおちゃんはパソコンをいじり始めた。


 「ダークウェブって知っていますか?通通常のPCでは入れないウェブツールなんですが、色々な映像、薬物、情報などが裏取引されています。まあ過半数がダミーだったり、ウイルスが仕掛けられているものですが。」


 ねおちゃんはオタク特有の早口で色々話始めた。桜さんは顔をしかめている。多分何も分かってないな。


 「まあ、要するに信用が大切なんですね。シルクロード然り安心できるウェブマーケットが必要なんですよ。その中の臓器売買のサイトのマークですね。」


 モニターには、羊のマークと様々な臓物、ドリーハウスという名前が写っていた。

 普通なら女子が3人集まれば、ここで悲鳴の一つや二つは上がるだろうが、私たちは全く動じずモニターを見つめていた。


 「ねえねえねえ、新サービスとか書いてあるよ。これ何?」


 PC上でカーソルが動き、新しいページが開いた。そのページにはヒューマンリソースと書いてあり、何人かの顔写真が載っている。


 「臓器じゃなく人間自身を売ってるのか。奴隷契約みたいなものか?さっきのやつらもこのサイトに載っていればいいが。」


 サイトを隈なく調べたが、写真の人物は載っていなかった。


 「ここに載っていないということは、非売品ですかね?」


 「いや、VIP専用の商品なんじゃないか?とりあえず、対象の所属は分かった。後はどう探すかだが・・・」


 桜さんはうつむきながら考えている。私も何か意見を出さなければ。


 「ねえねえねえ、ねおちゃん。写真の人がどこかの防犯カメラに写ってたりしないかな。それをなんかこう上手い感じに検索できない?」


 「4、5時間はかかるよ。」


 「できるのか。お前すごいな!」


 どうやら、ねおちゃんは桜さんからの信頼を勝ち取ったようだ。

 ねおちゃんも、にやりと笑いながらくいっと眼鏡を上げていた。

 

 

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る