第6話 ドリーハウス

 S4に担がれながら、無事に家に帰ることができた。

 撃たれた直後はアドレナリンのせいか痛みを感じなかったが、今になって激痛が襲ってきた。

 本来であれば病院に行くべきだが、拳銃に撃たれたことを正直に話すと警察を呼ばれてしまうかもしれない。最悪の場合S4は警察に保護され、自分は組織の情報源を手放してしまうかもしれない。

 家にある救急箱を使い、なんとか応急処置を施した。

 S4も相当疲れ切っている様子だった。自分を担いでいたこともあるが、超能力は体力の消費が激しい様だ。


 「さっきはありがとう。助けてくれて。」


 S4は申し訳なさそうに口を開いた。今であれば、色々聞き出せるかもしれない。


 「さっきの男は何者?」


 「私を追ってきた組織のメンバー。名前はA6。」


 「A6って名前?S4もそうだけど名前というより記号みたい。」


 「記号・・・。そうだね。」


 S4は小さく笑った。自分を嘲笑しているようだった。


 「私たちの名前は、識別番号なんだよ。組織が売ってる商品の番号。」


 「商品って?」


 「これ以上話すと、健太君の命も狙われてしまうかもしれない。」


 S4は俺の傷口を見ながらつぶやいた。

 確かに、自分の人生で拳銃で撃たれることなど予想できなかった。だけど、引き返すつもりはない。ここで引き返すと自分は大切なことを一生見過ごすことになる。


 「大丈夫。俺も何が起きているか知っておきたい。」


 「ありがとう。」


 S4の頬から涙が流れていた。その涙を手で拭いゆっくりと話し出した。


 「まず、組織の名前はドリーハウスっていうの。元々は臓器売買を生業としていたんだけど、近年は人身売買に手を出してるの。私たちは、人身売買の商品なんだ。」


 ドリーハウス。この名前が追うべき組織の名前か。

 S4はたどたどしく続きを話した。


 「人身売買だけど、普通の人身売買じゃないんだ。組織は人間を人工的に生み出しているの。つまり、私たちはクローン人間なんだ。」


 今までの行動が腑に落ちた。

 クローン人間を育てていることは、世間に知られるわけにはいかない。そのため、どこかに軟禁され、世間との接触を避けながら育てられてきたのだろう。

 S4がいろいろなものに初体験のような表情をしていたのは、本当に初めてだったのであろう。ただ腑に落ちないこともある。


 「話してくれたことは理解できている。ただ、それは商売として成り立つとは思えない。戸籍のない人間は裏社会には重宝されるだろう。しかし、その年齢になるまで育成するには膨大なコストがかかるはずだ。結果、損益の方が大きいだろう。」


 「私たちがただのクローンだったらそうだろうね。ただ、私たちは特殊な才能を芽生えさせる遺伝子を持ってるんだ。」


 おそらく、後天的に遺伝子をいじっているのだろう。

 昔、中国でデザイナーズベイビーというものが物議をかもした。受精卵の段階で優秀な外見、体力を兼ね備えられるように遺伝子を編集する技術だ。


 「倫理的な問題はあるが、技術的には可能だな。裏組織としては、優秀なのが確定した人材を得られるというわけか。やろうと思えば、スティーブジョブズの発想力を持つ人間や、ミルコクロコップの戦闘力を持ったボディガードを雇える。」


 「そういった、遺伝子の優秀さで識別番号が変わるんだ。今はDからAに向かって優秀ということになってたはず。」


 さっきまで俺たちを追っていたA6は、相当優秀な遺伝子を持ってるということか。


 「組織の危険性は分かった?今や裏社会の全てに影響力がある。私、ここから出ていくね。これ以上一緒にいると、迷惑をかけてしまう。」


 S4は立ち上がろうとした。

 自分は無意識にS4の腕をつかんだ。体が動いた理由は分からない。

 組織を追うためでもあるが、それ以外の感情が隠れている。ただ、今の自分にはその感情が分からなかった。


 「危険は分かっている。だけど、このまま放っておくわけにはいかない。自分をこのまま関わらせてくれ。」


 S4は泣き崩れた。今まで弱いところを見せないように我慢していたのだろう。

 俺は泣きつかれるまで彼女の手を握っていた。

 しばらくすると、彼女は泣き止んだ。真っ赤に充血した目で俺をまっすぐ見ながら話し始めた。


 「ありがとう。本当にありがとう。実はもう一つ言ってないことがあるんだ。私は一人で脱走したんじゃないんだ。その一緒に脱走した子を助けたい。」


 これ以上人が増えると見つかる危険も増えるだろう。しかし、彼女目を見ると断ることができそうにない。


 「分かった。その子の名前は何?」


 「S3。私のお姉ちゃん。」

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