第5話 A6
大学の講義はいつも通りに終わり、静かな午後が訪れた。
3年生にもなると、講義は午前中で終わるようになっていた。
不安ではあるが、その間S4には大学を散策させていた。
講義が終わりS4との待ち合わせ場所の校門に向かおうと教室を出ると、扉の横で如月さんが待っていた。
「お疲れ様。さっきはいきなりでお祝いできなくてごめんね。」
如月さんは完全に彼女だと信じ込んでいるようだった。
「さっき説明しきれなかったですが、彼女じゃないです。訳あって家に泊めているだけです。」
俺がどれだけ説明しても、照れ隠しとしか思われていない様だ。
「まあ良かったよ。篠原君はいつも一人でいたから心配してたんだよ。あっ、そうだ。」
そういうと如月さんはポケットから黄色い紙を取り出した。
「駅前に新しくアイスクリーム屋さんができたんだよ。せっかくだからしーちゃんも連れて行ってあげな。ほら、キャンペーン中みたいだよ。」
半ば強引にクーポン券を俺の手に渡してきた。
如月さんは大きく手を振って去っていった。
校門前にS4が立っていた。
周囲の人の顔を覗き込んでは、人違いでしたと謝っていた。
「なにしているのですか?」
S4は慌ててこちらを向いた。
「いや、何でもないよ。大学は終わりましたか。」
やはり、まだ何か隠し事をしているようだ。
話してもらうには距離感を縮める必要がありそうだ。
「さっき、如月さんからクーポン券をもらったんですよ。食べにいきます?」
「行く!!行きたいです!!どっちですか?」
よっぽど行きたいのか、声が大きくなっていた。
まるで子供のように飛び跳ねながら軽やかに歩き出した。
大学からアイス屋に行くには、裏通りを通った方が近い。
そのため、人通りの少ない路地のようなところを歩いていた。
「東京にもいろんなところがあるんですね?」
東京に馴染みがないということは、東京育ちではないのか。
S4はどこから来たのだろうか?
「どこも同じようなものだよ。裏路地は人は滅多に来ないから、隠れるには最適かもね。」
意図的にタメ口をはさみながら距離感が縮まるように会話を続けた。
ふと目の前を見ると、男の人が道を塞いでいた。
全身真っ黒な軍服のようなものを着ている。小柄だが、腕の筋肉はとても太くまるでアメリカ人のようだ。
「A6!」
名前から、S4と同じ組織の人間だろう。
ただ、S4の強張った表情を見るに仲間ではなさそうだ。
S4の腕をつかんで横の道にそれようとした瞬間、右頬に熱いものを感じた。
頬を触ると血が出ている。
A6と呼ばれている少年に目を向けるとこちらに銃口を向けていた。音があまりしなかったためサイレンサーを使っている可能性が高い。
「目的はその女だけだ。お前はここから去れ。」
S4は自分の後ろに隠れていた。俺を巻き込まないようにS4は前に出ようとする。
俺は体を入れ込み、S4を隠した。
「そんな物騒なものを向けている人に渡せるわけないじゃないですか。あなたは何者なんですか?」
恐怖はもちろんある。しかし、折角の情報を得られるチャンスだった。
自分の焦りを見透かされないように冷静を装った。
「お前に話すことなどない。」
男は拳銃に弾丸を詰めながら、冷たい視線をこちらに向けていた。
おそらく、この状況に遭遇した時点で俺も殺すことは決定していたのだろう。
この男から情報を引き出すことよりも、S4を逃がすことが情報を得る最善策だろう。逃げるための戦略を立てるために脳を回転させる。
「相手は筋肉質、銃の腕前が高い、サイレンサーを使用。場所は路地裏、下にマンホール、右に水のたまったバケツ、左に飲食店の裏口、上に電線。こちらは二人、自分は体力に自信がない、S4は不明、超能力が使える。」
俺は口元を抑えながら早口で状況を確認した。
昔から、考え事をするときは癖で口を押えてしまう。
「走って逃げるは無理。殴りかかるは無理。超能力で飛ばしても稼げるのは数秒。」
逃げ切れる可能性は低いが、一つだけ策が思いついた。
男を見ながら、S4に急いで作戦を伝える。
「こそこそ、何を企んでいる。」
弾丸を詰め終えた男が俺の心臓に向かって発砲した。
その瞬間S4は超能力で弾丸を跳ねのけた。
俺はそのすきに右においてあるバケツの中の水を男にぶちまけた。
男は一瞬怯んだが、すかさず俺に発砲した。
幸い、弾丸は急所を外れ、俺の左ふくらはぎの筋肉をかすめた。
「はあああーーー」
S4は大きな声を上げて上に向けて超能力を使った。
上の電線が切れ、濡れた男に電線が直撃し、閃光とともに電流が体を駆け巡った。
そのまま男はぴくりとも動かなくなった。
そのすきをついて俺はS4に肩を担がれながらその場を後にした。
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