第4話 新鮮な日常

 ハサミ女、羊のタトゥー。

 昨日は色々な異常が起きた。

 しかし、俺は通常の生活も送らなければならない。人生を父の失踪だけに人生を使うわけにもいかず、いつものように大学に向かって歩いていた。


 「大学ってどういうところなんですか?」


 今もいつもと違うことが一つある。

 それは、昨日から家に居候しているS4が、後ろを黙々とついてきた。


 「家で待っていてほしいのですが、なんでついて来てるのですか?そもそも、追われているといっていませんでしたっけ?」


 彼女は少し考えたような表情をした。


 「大学というものに興味があります。後、私も探さなければいけないものがあるので。」


 昨日、彼女の様子を観察していると、目に映るもの全てに初めて触れるような反応を見せていた。

 彼女は、どこかに監禁でもされていたのかもしれない。

 そんな彼女に大学の話をしたら興味を持たれてしまった。


 「おーす!!健太!」


 突然後ろから肩を組まれた。

 自分に肩を組んでくるやつは柏木修斗しかいない。


 「おはようございます。柏木君。」


 「おい!いつも思うけど他人行儀過ぎないか?修斗でいいって。」


 こいつはいつも馴れ馴れしい。

 俺は大学の中ではいつも一人でいる。そんなときにこいつはいつもやってくる。


 「おはようございます。初めまして。しーです。」


 彼女は自分のことをしーと呼んでいる。

 4という数字を無理やり名前にしているみたいだ。

 柏木はS4を見て目を丸くし、俺を二度見した。


 「えっ!!健太、もしかして彼女!!お前彼女できたのか!?」


 「違う!ただの知り合いだ。」


 暑苦しい柏木の腕を振りほどいた。

 こいつに勘違いされると面倒くさい。

 実際に俺はS4に対して異性としての意識が全くなかった。普通なら、一つ屋根の下で過ごせば何か変わるかもしれないが、俺にはその兆しすらなかった。そのため、今でも互いに敬語のままだった。


 「私は恋人ではないです!ただ、一緒に住んでいるだけです。」


 「おいおいおい、恋人通り越して同棲しとるやないかい。」


 関西出身でもないくせに、わざとらしい関西弁でツッコミを入れてきた。

 俺は訂正するのも面倒くさくただ舌打ちをした。

 そして、S4を睨んだ。柏木のちょっかいをかわしているうちに校門の前まで来ていた。

 校門の向こうには白衣を着た女性が歩いていた。その女性はこちらに気が付くと大きく手を振りながら近づいてきた。


 「おはよう!相変わらず二人は仲がいいね。」


 「おはようございます。仲良くないです。」


 俺が何度否定してもこの人は笑顔でうなずいている。


 「如月さん!聞いてください!こいつ彼女できたんですよ!」


 柏木が興奮しながら如月さんに話しかけた。


 「おはようございます。初めまして。しーです。」


 このタイミングで自己紹介したら本当に彼女と思われるだろう。

 如月さんは驚いた様子で目を大きく見開き、口元を押さえていた。


 「それはそれは、私嬉しすぎてもう頭が回らないよ。私、如月観愛奈です。健太君とは同じ研究室の先輩という関係です。健太君を大切にしてね。」


 如月さんの目にはうっすら涙が浮かんでいた。

 S4を家に閉じ込めておかなかったことを後悔した。

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