第3話 榮念会(灯里目線)

 ハサミにこびりついた血を拭き取る。

 さっき刺した高校生にはイライラさせられたが今はむしろすっきりしている。

 何なら鼻歌でも歌ってしまおうか。


 「灯里!何歌ってんだ。気持ち悪い。そもそも歩きながらハサミを出すな。」


 桜さんがイライラしている。今日はとても気が立っているようだ。


 「ねえねえねえ桜さん。私、さっきお若くて美しいって言われちゃった。」


 「そんなの社交辞令だろ。真に受けんな!」


 桜さんが私を軽く叩いた。でも私はイライラなんてしない。

 桜さんはいわゆるツンデレというやつなのだ。


 「おじいさんたちなんの用かな?」


 「どうせろくでもないことだろ。」


 ふすまを開けると、60歳ぐらいのおじいちゃんと40歳ぐらいのおじさんが座っていた。

 絶対にあったことがあるが、興味がないから名前は忘れてしまった。

 桜さんはおじさんを見つけると小さく舌打ちをした。よっぽど嫌いなんだろう。


 「会長。なぜ、井原がいるんですか?」


 おじいちゃんはため息をついて桜さんとおじさんを交互に見た。


 「別件で話があってな。もう話は終わったんだが、飯豊の仕事が見たい等と言っておる。」


 「ああ。お前みたいな若い女に仕事ができるか心配でな。この榮念会の看板に泥を塗りかねないからな。」


 桜さんはポケットに手を突っ込んだ。

 桜さんはいつもポケットに拳銃を入れている。

 あまり挑発をするとおじさんを打ちかねない。とりあえずまだ抑えているようだ。


 「井原。悪口が言いたいだけだったら今すぐ帰れ。」


 おじいちゃんは鋭い眼光でおじさんを睨みつけた。

 おじさんは気まずそうにしている。


 「じゃあ仕事の話をするぞ。」


 おじいちゃんは机の上に二枚の写真を出した。

 写真には、黒髪ショートカットの小柄な女性と黒髪ゆるふわパーマの小柄な女性が写っていた。


 「この二人を連れてこい。生死は問わない」


 桜さんは机の上の写真を手に取った。

 桜さんは手足がすごく長い。物をとるときにいつも感じる。

 やっぱり身長が高いからだろうか。そんなことを考えていたら桜さんに睨まれた。

 関係ないことを考えていたのがばれたかもしれない。


 「この写真以外の情報はありませんか?」


 「ない。一切の情報も探るなということのようだ。」


 桜さんは写真をじっと見つめている。するとおじさんが口をはさんできた。


 「やっぱり、この女には難しいですよ。ここは私に仕事を任せてくださいませんか?」


 私は机を飛び越えておじさんを掴みそのまま後ろに回った。

 ポケットからハサミを出しおじさんの口元にあてた。


 「ねえねえねえ、おじさんのその口、いらないことと臭い息しか出してないよね。そんな口いるかな?いらないよね?私が切り取ってあげようか?」


 おじさんは明らかに動揺していた。反応が遅すぎないか?


 「おい!飯豊!これを今すぐ辞めさせろ!全く部下の教育もできないのか!」


 桜さんは舌打ちをしてポケットから拳銃を取り出し、おじさんに向けた。


 「さっきから聞いてたらよ!!てめぇ舐めてんじゃねえよ!!私が部下の教育ができていないだと!何言ってんだ上出来じゃねえか!てめぇみたいなゴミくずは口でも裂かれて死んじまえ!」


 桜さんがめちゃくちゃ切れている。

 ただでさえおじさんのことが嫌いなのに、女扱い、勝手に指示される、私を侮辱する、という3つの地雷を踏んでしまったからこうなるのはしょうがない。


 「てめぇらいい加減にしろ!!嬢ちゃん井原を離してやってくれ。そして井原!!いらねえことばっか言ってる暇があればさっさと帰って仕事しろ!!」


 私がハサミを下ろすと先輩も銃口を下げた。

 おじさんは悪態をつきながらそそくさと帰っていった。


 「分かりました。この二人を見つけ来ます。」


 桜さんは何事もなかったかのように話し始めた。

 桜さんのそういうところ私は大好き。


 「じゃあ頼んだぞ。」


 おじいちゃんはそう言い残すと部屋を出て行った。さあ仕事がんばりますか。

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