Violator
「あがっ! ひいっ!」
「これで全部……だな」
僕はペンチで引き抜いた歯の本数を数えた。全部抜けたはずだ。まあ、こいつには実体などないし、言ってしまえば変幻自在だから歯なんかいくらでも生やせるのだが、こちらの気分の問題である。
「ではもう一度咥えろ」
「は……はい……」
実はゆうべ恋人にプロポーズしたのだが、難しい顔をして、考えさせてほしいと言われた。何故だ。僕は彼女をこんなにも愛していて、いつだって彼女に優しくしているのに。
「一滴残さず吸え。すべて飲み込め」
「も、もご」
「返事」
「ひゃ、ひゃい……い、いわれたとおり……いわれたとおりにします……なんでも……だからもうぶたないで……」
「……」
彼女は僕の何が不満だと言うのだろう。まったく分からない。嫌がるようなことをさせたりしたり、絶対神に誓って一切やっていないと言うのに。
「ねえ、話があるんだけど」
と言って、研究室に入ってきたのは僕の恋人だった。
「……どうやってここに?」
「……その女は何」
「これは僕の造った実験ど――」
「その女は何!!」
彼女の言葉は質問ではなかったらしい。それから、ヒステリックに喚き続ける彼女をどうやって宥めたものかと考えている間に、いつの間にか僕の恋人は踵を返して部屋から出ていってしまった。なんか目の前に転がっているなと思ったら、彼女に渡してあった僕の自宅の合鍵だった。それから幾度パーソナル映話をコールしても彼女は出なかった。それから二度と。
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