第2話 腰痛とコルセット


夢じゃなかった。



医者みたいな人に診てもらったり、杖を持ったファンタジーな魔法使いも来た。


どう見ても地球じゃない。耳が長かったり、明らかに猫みたいな肌や顔の人もいる。


精密検査とかレントゲンもない。文明レベルは低そうだ。



「~~~~、~~~?」


「ありがとう。水、もらえる?」


「~~?」


「水、ウォーター、いやオーター?」



英語も通じないっぽい。発音良くしようとしても無理だった。


何かを飲む仕草をすれば耳の長い金髪の男の子は木のジョッキで別室から持ってきた。


軽く笑顔で渡されたが……これ、お酒か。水が良いんだけど、悪気もなさそうだし……いや、明らかに病人の儂に渡してきたんだから薬かもしれない。



「うまっ?!けほっ!?ゴホッホ!!?」



思っても見ないほどに強い味に咳き込んでしまった。


軽く背中を擦ってくれる男の子。咳をするだけなのに、あまりにも全身に痛みが響く。咳き込みすぎるとやばいと体が悲鳴を上げている。


咳き込みが落ち着き、改めて飲む。スパイシーなカシス濃いめの強いお酒。ただ、濃いはずなのにジュースのようにすっと喉に入った。接待で高いお酒を飲んだこともあったけどそんなお酒を軽々と超えてくる美味しいお酒だった。



「~~!~~~~~」



味が美味しいのは良いが、気管に入るのは別の問題だ。


まだ気管に残ってるのか軽く咳き込む儂に軽く笑う男の子。儂が落ち着くと男の子も同じ酒を飲み始めて……お互い何を言ってるかはわからないが一緒に飲むこととなった。


笑ってる男の子を見るにきっとこのお酒は悪いものじゃないんだろう。それにしてもこのお酒、本当に美味しいな。少し薬みたいな味もするがスルスルと飲める。心地よく酔ってきたところ、医者か魔法使い的な……主治医?の人が来た。


よくわからないが予備のジョッキにお酒を注いで渡そうとしたら取り上げられてしまった。



「どうぞどうぞ」


「?……~~!~~~~!~~!」


「~~~!~~~、~~~、~~~~~~!!」


「~~~?」


「なんでしょう?」


「~~~?…………~~~~~~~~!!!!!」



あれ?まずかったかな?お酒の匂いを嗅いだ主治医っぽい人が男の子と何か話してからこっちになにか問いかけてきたが当然何言ってるかわからない。


気がつけば男の子がいなくなっていて、主治医さんは怒りの形相で追いかけていった。


あれ?飲んじゃダメな奴だったか?




◇◇◇◇‡‡‡‡◇◇◇◇




なんとか耳が少しとがった世話係の男の子とボディランゲージを重ねてどうにか成功してきた。



「ロルマー、~~~ロルマー、~~~~オーフェ~~~」


「ロルマー、君がロルマーね」


「~~~ロルマー~~!」



ロルマーくんは身振り手振りであるが耳を見せてきた。少し長くて……多分異種族だろう。見た目は若いがエルフっぽい。お酒飲める年齢だよね?


そんなのいるはず無いと思うのだが、しれっとめっちゃ体が猫の人が暖炉の横に木を置いていった。


二人共コスプレじゃ……無いよなぁ。


身振り手振りや彼の言葉はほとんど通じず、一生懸命な彼には申し訳なく思ってしまう。



「オーフェル、~~~~~~~オーフェル」



多分オーフェルが自分の名前。いや、この体の持ち主だったおじいちゃんの名前だ。王様っぽいのとか家族っぽいのが来たときにもそう呼ばれたような気がする。今気づいた。



伝わらない自分に対して何やら絵を描いてくれるロルマー……上手いな。


どうやら儂は誰かの魔法を王様たちの代わりに受けて、高さからして数階建ての建物の手すりに腰から激突して、頭から落ちてほぼ死亡。死んだのか儂。そこからなんか呪術とか呪いとかよくわからない儀式的なもので今の状態まで回復?え?自分、なんか吊るされてるんだけど?絵が物騒なんだが?なにそれ?怪我してる部分とかかなりグロいんだが?――――で、今の状況と…………さっぱりわからんのだが?



…………とにかく自分は「オーフェル」というおじいちゃんで、世話してもらえることはわかった。



どうせまだ体も痛くてずっと寝ているだけ、ロルマーに絵を見せられてそれについての言葉を教わっていく。


何日もかけてちょっとずつだが言葉を覚えて会話に成功した。



「ロルマー。体、痛い。ここ、痛い。コルセット、欲しい」


「~~~??ハハハハ!!~~~!!~~~!!」


「腰、痛い。動かさない。外、歩きたい」


「……~~?オーフェル、~~~?~~~~~~~~~、~~~~?~~~~~」



絵による女性がコルセットのようなものをつけてドレスを着ているのを指さし、自分でも下手な絵で自分の腰にもつけたいと伝えた。


爆笑されたが真顔でこちらを見てきて思案顔になったロルマー。主治医みたいな人が来たりして、何やら話し合っている。


主治医の女性がめちゃくちゃ気持ち悪いものを見るような目でこちらを見てきた。いや、女性が使っている使用済みのコルセットを求めているわけじゃなく、医療用のものを求めているんだけど……?言い訳もできないが、青虫を噛み締めたと言うか、変態を見るような視線を向けてくる。


しかし、なにやらロルマーは弁が立つようでなにか説得して……なんとかコルセットをつけてもらえた、ここには男性用の医療コルセットもないのか、くびれがほんのりあるタイプで装着する途中これはこれで痛むが……これで腰の動きは制限されるだろうし不意に悪化する危険性は減るだろう。腰痛い。



「ロルマー『ありがとう』」



心から出る日本語が通じずに申し訳ない。



「??」


「ロルマー、感謝」



こちらの言葉で、胸に手を当てて頭を下げた。


まだコルセットに慣れてもないし、片手は体を支えるために壁に手を当てたままだが……礼を言いたかった。少しずつこちらの言葉を覚えていっているがまだまだ流暢には話せない。


元のオーフェルとロルマーの関係は知らない。だからほんの少し罪悪感もある。


献身的に介護してくれる彼に対して心からの礼が伝えたかったのだ。



「~~~~、~~~~~~!」



やめてくれよと言わんばかりに焦っている彼だが……まぁちゃんと人に言葉を伝えるのは大事なことだ。


感謝や謝罪をどうしても言葉にできない大人も多くいる。……うん、うちの上司からねぎらってもらった覚えは一度たりともないな。自分のミスは「お前のせいだからな!」なんて言ってくるし……あぁはなりたくないとあれを反面教師にし、誰かに感謝を伝えられる時にはすぐに伝えるよう努力している。言うタイミングを逃したり、お店で伝えると変な目で見られることもあるが。


とにかく少しは行動できるようになったので壁に沿って歩いてみる。幸いなことにまだ足は衰えてないようだ。老人は怪我をして寝込むと足腰が悪くなると聞く。まだまだ50年は先だと思っていたのに……。


腰は動かしにくいし多分しゃがむことも出来ないが……歩ける歩ける。

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