転生したらじいちゃんだった。

mono-zo

第1話 ブラック企業からのおじいちゃん転生


今日も深夜まで仕事をしている。もう会社に泊まって何日目だ?


先の見えない会社生活。ブラックもブラックな会社。


新卒で入社し、こんなもんかと続けているが……正直やってられない。


でも転職する気力もない。転職、就職というものはこれまでの自分の生活ルーティンから外れたものであり、これをするだけでかなりの気力と体力を奪われる。


また昼前に来る部長に「身だしなみぐらいきっちりしろ」とか言われるんだろう。そして一日働いて、たまに部長の中身のないパワハラを受ける。


しかしもう限界かもしれない。たまに立ち上がろうとしてもふらつくことがある。エナドリでなんとかもたせてはいるが、このままだと体を壊すかもしれない。


『会社に住んでいる』とさえ言われる自分に転職をする体力はない。


自分を客観視すれば『転職なんてしてしまえばいい』というのもわかっている。


だが人というものは生き方を、日常のルーティンから外れたことをなかなかしない生き物だ。


もしも今仕事を辞めてしまってどうなる?仕事が見つからなかったら?少なくとも『無職』という社会的地位の低いレッテルを貼られてしまう。その道を「自分が選択」してしまうことになる。しかも仕事が見つかったとしても今以上に厳しかったとすれば?



「――――…………あー……頭まわんねぇ」



枯れた声、今日一日で誰かと会話しただろうか?ずっとオフィスにこもって仕事していたし……あれ?部長に謝る以外に誰かと話したのっていつだっけ?



今耐えられるんだから、まだ耐えられる。


こんな職場にいるんだから、辞めるやつは多くいる。仕事の意味でも、体の意味でも。


人さえいれば、仕事は少しはマシになるものだ。だから新人には優しく、できるだけサポートしていた。


それでも過酷すぎて辞めたり、病気になってしまった。


そこだけ見ればきっと辞めたほうが良いのだろう。


でも辞めた人のその後はどうだろうか?


正社員として就職できずにアルバイト生活になったり、派遣社員としてもっとブラックな企業に行ってしまったりする。更には職を失えば異性との付き合いだってうまくいかないこともある。


もちろんうまく良い会社に転職が成功するような運の良いやつもいる。だがごく僅かだ。むしろ悪くなるケースの方が多いように思う。


多大な労力を使って、今のままの生活を変えて……より悪くなる可能性があるのだ。


簡単に「転職したほうが良い」なんて人はもっと悪くなるかも知れない現状に目を向けるべきだ。生活保護があるじゃないか?もしももらえなかったら?そんな職場にいないほうが良い?良くなるかもしれないじゃないか。


今ではブラックな会社だが……この会社にはお世話になった恩義もある。この会社の近くに母さんの病院があって、通うのにちょうどよかった。あの頃にはまだこんなにもブラックじゃなかったし、先代の社長には目をかけてもらっていた。


今のバカ社長とバカ社長の息子である新卒クソゴミバカ部長さえ改心してくれれば、先代が療養から戻ってくれればもうちょっとは……。



軋む椅子で結構な時間考え込んでしまった。何日寝てないんだっけ?思考にどっぷり浸かったまま体は睡眠に入っていたような気がする。





次の仕事の資料を取りに立ち上がり……あれ?視界が黒く歪んで…………





あ……れ…………?





-----・・----------・・・・・・・・・・・・・・------・・-・・・・・・・・・・-------・・・・・・・・・・・・







死んだ!で、神様にあった気がする!何を話したかは覚えてないけど!!?



ズキズキと全身が痛む、特に腰、あと目も開けられないほどに頭が痛む!!!


ち、鎮痛剤くれ!!!??


もしかしてこれ異世界転生?赤ちゃんになった?


赤ん坊は生まれてすぐに出産で体を痛める。さらに感覚が鋭いとかって聞くし全身ミキサーにかけられでもしたような痛みがする。


全身を疼く激痛の中、わずかだが謎の言葉も聞こえるし下の世話や何かを食べさせてくれてるのもわかる。




――――それにしても腰が痛い。身を捩るだけでもこれ以上動いちゃいけないという、神経に針でも刺されたかのような痛みが腰を中心に走る。


頭も痛いし、全身くまなく走る激痛に意識が飛ぶ。熱もあるのかひどく熱い。


何日そんな状態が続いたが、はっと意識がクリアになった気がした。


見慣れない部屋に見慣れないベッド。見慣れない外国人の女性。



「すいません、ここはどこですか?」


「~~~~~~~~~~~~~」



なにか言われるがわからない。


何語だ?やべ、赤ちゃんが喋ったら驚くよな普通。


天上天下唯我独尊ぐらい叫んだほうがまだ良かったか?


よくわからないが慌てて出ていった彼女よりも大事なことがある。



――――……子供じゃなくね?



窓から差す光に自分の手をかざす。


動かすのもやっとだが、そんな事は言ってられない。



しわくちゃで、古傷が多く、手にタコもできている。



どう見ても老人の手だ。



左手も上げてみる。同じくしわくちゃ。



驚いていると歳上のおばちゃんやおっさん、小さな子供が入ってきた。


服は少し派手な西洋風、泣いて抱きついてくる子供たち。なにこれ?受け止めた衝撃で腰が激しく痛む。


なんか王冠被った人が来てみんなそっちを見て跪いた。



「~~~~~、~~~~~~~~~~」



王冠の人、見た目にもTHE・王様がなにか言ってきているが何語だろうこれ?



「えっと、何でしょうか?」


「~~~?~~~~~~、~~~~~~~~~」


「ちょっとよくわかんないです」


「~~~~~~~~~~~~~~」


「ジャパニーズオンリー、OK?」


「~~~~、~~~~~~!」



王冠の人が悲しい顔をして周りの人も色々話しかけてくるが全く何言ってるのかわからない。


騒いでる人たちだが何を言っても通じなかった。


ウンウンと頷かれて多分休むように言われてまた休む。


よくわからないが寝て起きる生活が始まった。


立ち上がれもせずに自分の顔を見たのは顔を洗うときだった。


総白髪でおじいちゃん………………おじいちゃん……………………オジィチャンッ!!!??






……異世界転生って言ったらさ!逆だろ!?若くなって成長して活躍するもんだろ!!!??



なんで、なんで老人に…………。夢だよね?



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る