35話 思い立ったら、なんとやら

(2035年4月11日・放課後)


 昼休みの中庭でアソンと緊急メンテナンスについて話した丘菟は、午後の授業を終え、ショートホームルームの時間を迎える。


 教室では白米猛(ハクマイ タケル)先生が「明日の時間割、ちゃんと確認しとけよ。じゃ、解散!」とジャージのポケットに手を突っ込んで言う。


 生徒たちがガヤガヤと席を立ち、帰り支度を始める中、丘菟は端末を操作し、リルに「ゲームがメンテでできないし、なんか時間持て余すな」と呟く。


「そうだね!丘菟、いつもなら今頃ログインしてるよね。何か面白いこと探そうか?」とリルのホログラムがキラキラ光る。


 丘菟はふと思い出し、教室の後ろで鞄を整理する鏡茨飛鳥に目を向ける。


 先日、鏡茨が「うち、自宅に道場あるから、いつか遊びに来てよ!」と言っていたのを思い出したのだ。


「リル、鏡茨さんに話しかけてみるか」と呟き、席を立つ。


 鏡茨の近くに行き、「あの、鏡茨さん、ちょっと話いい?」と声をかけると、飛鳥がパッと振り返り、「お、丘菟ちゃん!なになに?何か面白いこと?」と目を輝かせる。


 隣で白縫栞里が「飛鳥、落ち着きなよ」と小さく突っ込むが、飛鳥のテンションは止まらない。


「急なお願いなんだけどさ、前に話してた自宅の道場に今日お邪魔できないかな?ゲームがメンテで時間空いちゃって」と丘菟が少し遠慮がちに言う。


 すると、飛鳥の反応は予想を遥かに超える。


「え、マジ!?丘菟ちゃんがうちに来たい!?今行こう、すぐ行こう!お泊まりもしていきなよ!」と両手を握り、飛び跳ねる勢い。


 教室の空気が一瞬止まり、クラスメイト数人が「飛鳥、声でかいよ」と笑う。


 白縫が「飛鳥、ちょっと落ち着いてって!花敷、びっくりしてるじゃん」と小さな体で飛鳥の腕を掴むが、飛鳥の勢いは収まらない。


「だって、丘菟ちゃんが道場に来るって!超レアじゃん!」とニコニコ。


 その様子を見ていた藤ヶ谷栞が「うーん、飛鳥がこの調子だと2人きりにするのはまずいかな」と呟き、立ち上がる。


「花敷君、悪いんだけど、私と栞里も一緒に行っていい?飛鳥、暴走しそうだし」と少し心配そうに言う。


 丘菟は「え、いいよ。むしろ賑やかで楽しそうだ」と笑う。


 飛鳥が「やった!栞里、シオリンも一緒なら最高じゃん!」と手を叩く。


 白縫が「はぁ、仕方ないか。私も行くよ」とため息をつきつつ、鞄を手に持つ。


 こうして、丘菟、鏡茨、白縫、藤ヶ谷の4人で鏡茨の自宅道場へ向かうことになった。


 学校の門を抜け、丘菟は3人の後ろを歩く。


 鏡茨の家は丘菟の帰り道とは逆方向で、普段通らないルートだ。


 夕陽がオレンジ色に街を染め、春の風が軽く頬を撫でる。


 飛鳥が「丘菟ちゃん、うちの道場はめっちゃカッコいいよ!お父さんが師範で、たまに子供たちに空手教えてるんだ!」と弾んだ声で言う。


 白縫が「飛鳥のお父さん、めっちゃ厳しいけど優しいんだよね。花敷、ビビらないでね」と笑う。


 藤ヶ谷が「でも、飛鳥がこんなテンションだと、お父さんもびっくりするかも」とクスクス笑う。


 丘菟は「へえ、楽しみだな。空手って生で見たことないや」と興味津々。


 リルが端末から「丘菟、道場ってどんな感じかな?ゲームの武闘場みたいかな?」と囁く。


「さあな、でもリアルな道場って初めてだからワクワクするな」と丘菟が返す。


 20分ほど歩くと、住宅街の奥にデカデカと「鏡茨流空手道場」と書かれた看板が門の左に掲げられた木造建築が見える。


 古風な瓦屋根に、磨かれた木の柱が堂々とした雰囲気。


 飛鳥が「ここが私の家だよ!表は道場になってるから、ぐるっと回って裏の自宅に行こうか!」と指差す。


 4人は建物を回り、裏口の玄関へ向かう。木の引き戸には小さな表札に「鏡茨」と書かれている。


 飛鳥が「ただいまー!」と元気に戸を開け、靴を脱ぐ。


「お父さん、今いないっぽいね。道場で指導してるかな」と言いながら、丘菟たちをリビングに案内する。


 畳敷きの部屋に木製のテーブル、壁には空手の賞状や写真が飾られている。


「すげえ、めっちゃ本格的だな」と丘菟が感心する。


 白縫が「飛鳥、大会にはもう出なくなったけど、いつもここで練習してるんだよね。たまに私も手伝わされるけど」と笑う。


 藤ヶ谷が「お茶でも出す?飛鳥ん家、抹茶あるよね」とキッチンに立つ。


 飛鳥が「丘菟ちゃん、座って座って!何か飲む?お菓子もあるよ!」とソファーを指差す。


 丘菟は鞄を置き、「いや、ほんと急に来て悪いな。なんか面白そうなとこ」と笑う。


 リルが「丘菟、道場見学できるかな?道着とかどんなのだろうね!」とテンション高く言う。


 飛鳥が「道場、絶対見せるよ!お父さんが戻ったらお願いして一緒に練習しよう!」と拳を握る。


 白縫が「飛鳥、花敷をいきなり巻き込むのやめなよ」と突っ込むが、藤ヶ谷が「お父さん、優しいから大丈夫だよ。花敷君も楽しめると思う」とフォロー。


 丘菟は「空手、ちょっとやってみたいかも」と興味を示す。


 その時、丘菟の端末にアソンからメッセージが届く。


「よ、丘菟!メンテの情報、まだ公式はダンマリ。Xで噂が飛び交ってるけど、俺が投稿した動画でセバスの異常な強さに関係あるって話が増えてきた。もうちょい掘るぞ!」と書かれている。


 丘菟は「サンキュ、引き続き頼む」と返信し、「やっぱセバスのあの力、なんかあるよな」と呟く。


 飛鳥が「ん?丘菟ちゃん、ゲームの話?何か面白いこと?」と首を傾げる。


「ああ、昨日やったVRゲームが緊急メンテでさ。なんか変なことになってるんだ」と軽く説明する。


 飛鳥が「へえ!VRゲーム、めっちゃ楽しそうだね!うちには無いから今度教えてよ!」と目を輝かせる。



 モニタールーム。


 夜になり、薄暗い空間に機械の唸りと点滅ランプが響く。


 巨大なスクリーンには丘菟たちのログデータが映る。


 白髪混じりのチーフ(40代後半の男性)がゲーマー御用達のチェアーに座り、脇田が隣に立つ。


 脇田が「やっと夜になって、運営や企業のトップに連絡取れましたね。明日の午後に一同揃えての話し合い、設けられました」と報告。


 チーフがスクリーンを切り替え、「映像データも集まった。あとは資料だな。今夜は徹夜になるぞ」とキーボードを叩く。


 脇田が「先輩、セバースチャーンの星5アップデート、会議でどう説明するんすか?マザーAIの暴走、トップがブチ切れますよ」とメガネを光らせる。


「脇田君、だからこそ全データを準備する。プレイヤーデータの保護が最優先だ。丘菟のリアルリンクデータも影響受ける可能性がある」とチーフが目を細める。


 スクリーンがセバスの戦闘ログを映し、物語は緊迫感を増す。


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成長は自分の速度でもっと自由に気ままでいいんだよ 坂倉蘭 @kagurazaka-rin

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