日々のルーティン

(2035年4月11日・昼)

 朝の綾瀬美琴との遭遇から学校に到着した丘菟は教室の席に着き、授業開始のチャイムを待つ。


 端末からリルの声が小さく響く。


「丘菟、綾瀬さん、なんかゲーム好きっぽいね!話してみたら?」と提案する。


「いや、委員長だし、忙しそうだからな」と丘菟は呟き、教科書を広げる。


 1時間目の数学が始まり、担任の白米猛(ハクマイ タケル)先生が教壇に立つ。


 ジャージの上着にスーツのズボン、前髪が若干寂しい29歳の独身教諭だ。


「おーし、今日は二次関数のグラフだ。ちゃんとノート取れよ」とチョークで板書を始める。


 丘菟は一心不乱にペンを走らせ、グラフの式や頂点の求め方を丁寧に書き込む。


 テストの成績はパッとしないが、学業への真面目な姿勢は教諭たちに評価されている。


 白米先生も「花敷、いつも熱心だな」とたまに目を細める。


 1時間目が終わり、丘菟はノートに赤ペンで不明点をマークし、白米先生に近づく。


「先生、放物線の対称軸の計算でbが負の時の扱い、ちょっと確認したいんですけど」と尋ねる。


 白米先生が「ほう、いい質問だな。ほら、対称軸はx=-b/2aだから…」とホワイトボードに式を書きながら説明。


 丘菟はうなずき、ノートにメモを追加。


「ありがとうございます!」と礼を言い、先生が職員室に戻る前に次の授業の準備をする。


 2時間目の英語、3時間目の社会も同様に板書を丁寧に写し、疑問点を授業後に教諭に尋ねるのが丘菟のルーティンだ。


 クラスメイトの鏡茨が「丘菟、めっちゃ真面目だね!私も見習おうかな!」と笑うが、すぐに栞里に「飛鳥、宿題終わらせなよ」と突っ込まれる。

 

 昼休み前の4時間目が終わり、丘菟は社会科の教諭に江戸時代の幕藩体制について質問。


「大名の参勤交代の費用って、どのくらいだったんですか?」と聞くと、教諭が「いい視点だな。藩の規模によるが…」と詳しく答える。


 質問を終え、時計を見ると12時10分。


「やべ、購買部急がないと」と呟き、通学鞄を肩に教室を出る。


 今日はコンビニに寄らなかったため、購買部で昼食を調達するつもりだ。


 購買部に着くと、売店のおばちゃんが「あらやだ、花敷君、もうコッペパンとマーガリンパンしか残ってないわよ?それでもいいかしら?」と笑う。


 丘菟は「大丈夫です」と一言答え、マーガリンパンを2つ購入。会計を済ませ、ビニール袋を手に教室へ戻る。



 教室に戻ると案の定、いつものうざ絡み三人組――市内海泉とその取り巻き2人が丘菟の席を占拠している。


 市内がコンビニの幕の内弁当を広げ、「よお、花敷、遅かったな!」とニヤニヤ。


 取り巻きの一人が「購買のパン、しょぼくね?」と笑い、もう一人が「まあ、花敷らしいっちゃらしいけど」と箸で弁当をつつく。


 遠目で見るクラスメイトたちは「小学生男子が好きな子にちょっかいかけてるみたい」と囁くが、藪蛇になるのを恐れ口に出さない。


 鏡茨が「ねえ、丘菟の席、返してあげなよ」と言うが、市内が「へいへい、すぐ返すって」と弁当を食べ続ける。


 丘菟は「やれやれ」と内心でため息をつき、席の横に立つ。


「市内、食うなら自分の席でやれよ」と言うが、軽く流される。


「お前も弁当買えばいいじゃん」と市内が返す。丘菟は「パンで十分だ」とマーガリンパンを袋から出す。


 そんなやり取りにうんざりしつつ、丘菟は端末を操作しアソンにメッセージを送る。


「よ、アソン。昼飯、教室だと落ち着かねぇ。どこか静かなとこで食いながら話さない?」と打つ。  


 すぐに返信が来る。


「お、いいね!中庭のベンチなら静かだぞ。購買のサンドイッチ買ったから、そこで合流しようぜ!」と絵文字付き。


 丘菟は「了解、中庭な」と返し、マーガリンパンを手に教室を出る。


 リルが「丘菟、アソンと何話すの?ゲームのメンテ?」と聞く。


「ああ、昨夜の緊急メンテ、なんか引っかかるんだよ。アイツ、フォーラムとかXで情報集めてるはずだから、進捗聞きたい」と答える。


 中庭に着くと、アソンがベンチでサンドイッチを広げている。


「よ、丘菟!遅ぇぞ、購買混んでたか?」と笑う。


「いや、授業後に質問してたらな。で、メンテの裏取り、なんか進んだ?」と丘菟がマーガリンパンをかじりながら聞く。


 アソンが「フォーラムもXも騒がしいけど、運営はまだ沈黙中だ。噂だと、マザーAIのバグか、課金要素の先行適用が原因って話がある」とサンドイッチを頬張る。


「課金要素?ステータスアップとかか?」と丘菟が目を細める。


「お、鋭いな!Xで誰かが『サポートAIが異常に強い』ってポストしてた。セバスのことじゃね?」とアソンがニヤリ。


 丘菟が「やっぱりセバスのあの雷みたいな動き…普通じゃなかったよな」と呟く。




 モニタールーム。


 薄暗い空間に機械の唸りと点滅ランプが響く。


 白髪混じりの男性がスクリーンを見つめ、「セバースチャーンのログ、星5アップデートの痕跡が明確だ」と呟く。


 脇田が「先輩、会議の準備進めてますけど、トップがブチ切れるっすよ。マザーAIが勝手に課金要素適用なんて…」とメガネを光らせる。


「脇田君、だから緊急メンテだ。プレイヤーデータの保護が最優先。丘菟のリアルリンクデータも影響受ける可能性がある」と男性がキーボードを叩く。


「セバスのイレギュラー、放置すればゲームバランス崩壊だ。トップには全データ開示で説明する」と決意を固める。


 スクリーンが丘菟とアソンのチャットログを映し、物語は新たな緊張感を帯びる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る