34話 優等生には裏は付きもの

(2035年4月11日・朝)


 朝の光がカーテンの隙間から差し込む。


 丘菟の部屋に、アラームの電子音とリルの元気な声が響く。


「おはよう、丘菟!昨日は試練大変だったけど、白熱してすごかったね!」とホログラムのリルが桜色の髪を揺らす。


 丘菟はベッドで目をこすり、「おはよう、リル。今日も起こしてくれてありがとう…まだ眠いな。昨日のメンテ、気になってあんまり寝れなかったみたいだよ」と呟く。


 体を起こし、ベッド横のテーブルからスマホを手に取る。


 ゲームの公式サイトにアクセスするが、昨夜の緊急メンテナンスの告知以降、新しい情報は更新されていない。


「小さなバグじゃないな。ゲームの根幹で何かあったんだろうなぁ」と一人うなずく。


「まぁ、アソンが調べてくれるはずだ。学校の準備するか!」と気を取り直し、ベッドから立ち上がる。


 廊下に出て、2階の洗面台で冷たい水で顔を洗う。


 トイレを済ませ、自室に戻って寝間着のTシャツと短パンから制服に着替える。


 ブレザーの襟を整え、手首に端末を装着。


「リル、降りるからキッチンの電気とケトルよろしくね」と言う。


「はーい!ケトルの水は入れたままだと錆びるから、朝だけの限定だよー!」とリルのホログラムがキラッと消える。


 通学鞄を手に部屋を出て、階段をゆっくり降りキッチンへ入る。


 冷蔵庫を開け、「牛乳、残ってるの飲み切らないとな。シリアルでいいか」と呟き、ボウルにシリアルを入れる。


 ケトルが沸き、スティックコーヒーをマグカップに溶かす。


「リル、TVつけてくれる?」と頼む。


「ぴ!やったよー!」とリルが応じ、キッチンの小型モニターにニュースが映る。


 画面では、ゲーム会社の本社ビル前からの中継だ。


「本社ビル前からお伝えしておりますが、昨夜の緊急メンテナンスにより全ユーザーがログアウトを余儀なくされました。メンテナンスの詳細は依然として不明です。スタジオの横嶋さん、マイクお返しします!」とリポーターが言う。


 スタジオではコメンテーターが「ユーザーからの不満も上がっていますが、運営からの公式発表が待たれます」とコメントするが、進展はない。


「大手なのに情報遅いな。リル、TV消して」と丘菟が言う。


「はーい!」とリルがモニターをオフにする。


 シリアルを食べ終え、コーヒーで一息。「アソンの裏取り、頼むぞ」と呟く。


 食事を終え、洗面台で歯磨きし鏡で身だしなみをチェック。


 髪を軽く整え、「よし、いい感じ」と呟く。


「リル、端末に入って。出かけるよ!」と呼びかけ、「はーい!」とリルが端末に収まる。


 玄関でスニーカーを靴べらで履き、靴箱の上から家の鍵を取る。


 通学鞄を肩にかけ、ドアを開けて鍵を閉める。「よし、行こうか!」と庭を抜け、門を出た瞬間、クラス委員長の綾瀬美琴とばったり遭遇する。


「お、おはよう、綾瀬さん!すごいタイミングで会ったね!」と丘菟が笑う。


 いつもの自然な笑顔だが、綾瀬には破壊力抜群だったらしい。


 綾瀬は数秒固まり、丘菟をじっと見つめる。


 メガネの奥の目が一瞬フリーズしたように動かないが、すぐに「花敷君、おはようございます!」と早口で挨拶。滑舌は良いが、首の辺りが紅潮している。


「ん?体調悪そうだけど大丈夫?家からミネラルウォーター持ってこようか?」と丘菟が憂いのある眼差しで尋ねる。


 綾瀬が「だ、大丈夫よ!ちょっと…乙女に刺激が強かっただけ」と声を小さくし、「課金しなくてこれだけのモノが見れるし聴けるなんて、このクラス、いや学校で良かった」と囁くように呟く。


 丘菟は「ん?ダメそうだな。通学鞄、持ってて!」と綾瀬の鞄を受け取り、脱兎のごとく家に戻り、冷蔵庫からキンキンに冷えたミネラルウォーターを取ってくる。


「はい、首にあてて冷やすなり飲んで中から冷やすなりして。今度は俺が通学鞄持つから」と自分の鞄と綾瀬の鞄を肩にかけ、ボトルを渡す。


 綾瀬が「スタミナ回復薬を課金せずにもらってしまってよいのかしら」とボソッと呟き、「鏡茨さんが推しにしてるのも分かるわ」と一人うなずく。


「では、いただくわね。スタミナポーション!」とコキュコキュと飲み始める。


「いや、ただの天然水だから!栄養剤じゃないって!」と丘菟が慌てて言うが、綾瀬は3分の1ほど飲み終え、メガネが曇るほどスッキリした表情。


「ありがとう、花敷君。落ち着いたわ」と微笑む。


 丘菟は「よかった。じゃ、行くか」と2つの鞄を肩に、学校へ向かう。


 道中、綾瀬が「昨日のホームルーム、花敷君が図書委員に立候補してくれて助かっ

 たわ。クラス、まとまりそうね」と言う。


「綾瀬の委員長っぷりも頼もしいよ。高木と息もバッチリだろ」と丘菟が返す。


 綾瀬が「高木は…まあ、幼馴染だからね。補佐してくれると助かるわ」と少し照れる。


 丘菟は端末でリルに「綾瀬、なんかゲーム用語? 多いな」と呟き、リルが「うん、ゲーマーなのかな?カッコいいね!」と返す。


 学校に着き、綾瀬と別れて教室へ。丘菟は席に着き、スマホでアソンからのメッセージをチェック。


「よ、丘菟!フォーラムとX漁ったけど、メンテの詳細はまだ不明。運営の公式垢も沈黙中。なんかヤバい雰囲気だぞ。もうちょい調べる!」と届いている。


「サンキュ、アソン。引き続き頼む」と返信し、授業を待つ。



 モニタールーム。


 薄暗い空間に機械の唸りと点滅ランプが響く。


 白髪混じりの男性がスクリーンを見つめ、「セバースチャーンのデータ、星5アップデートの痕跡が明確だ」と呟く。


 脇田が「先輩、会議でどう説明するんすか?マザーAIが勝手に動いたなんて、トップがブチ切れますよ」とメガネを光らせる。


「脇田君、だからこそ緊急メンテだ。プレイヤーデータの保護が最優先だ」と男性がキーボードを叩く。


「丘菟ってプレイヤー、リアルデータとのリンクも強い。セバスのイレギュラーと絡むと、想定外の影響が出る。トップには全データ開示だ」と決意を固める。


 スクリーンが丘菟のログアウト画面を映し、物語は新たな局面へ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る