33話 緊急メンテ

(2035年4月10日・夜)

 浮島の遺跡の深部、円形の闘技場は戦いの熱気が冷めやらぬ空気に包まれている。


 黒い石の床にはコボルトの塵が散らばり、中央の巨大な水晶が青白い光を放つ。


 丘菟は半透明の体で膝をつき、息を切らしながら剣を支えに立つ。


「セバス…お前、なんだその力…」と感嘆の声を漏らす。


 セバスはレイピアを手に「お嬢様の勝利です」と穏やかに一礼する。


 拘束されていたアソン、リル、ピヨニットが光の鎖から解放され、闘技場の中央に駆け寄る。


「丘菟、セバス、すげぇぜ!」とアソンが扇を振りながら叫ぶ。


「やったよ!すごかった!」とリルが桜色の髪を揺らして跳ねる。


「あぅ、丘菟様、執事長、ほんとにすごかったですわ!」とピヨニットが猫耳をピクピクさせて目を輝かせる。


 丘菟は立ち上がり、半透明の体が徐々に実体を取り戻す。


「50分…耐え切ったのか」と呟き、セバスを見る。


「セバスのあの力、なんだったんだ?最後、まるで雷みたいだった」と言う。


 セバスが「お嬢様のご期待に応えたまででございます。丘菟様の剣も見事でした」と答える。


 アソンが「なんたってお嬢様のセバス、最高だろ!でも丘菟もマジでやばかったぜ!」と笑う。


 リルが「2人ともカッコよかったよ!私、応援しかできなかったけど…」と少し申し訳なさそうに言う。


「リルちゃんの応援、すっごく力になりましたわ!」とピヨニットがフォローし、「あぅ、でも私がもっとしっかりしてたら…」と耳を伏せる。


「お前ら全員のおかげだよ」と丘菟が笑い、パーティーの絆を感じる。




 だが、その瞬間、水晶が不自然に点滅し、空間に機械的なアナウンスが響く。


「只今より、運営が認識していない大きなシステムエラーが発見されたため、アップデートに伴う期間は指定できませんが、大型改修メンテナンスを開始いたします。

 ログインされている方は申し訳ございませんが、データに不具合が起こる可能性が多々ありますので、速やかにログアウトしてください。」


 声は冷たく、繰り返し響く。


「速やかにログアウトしてください。速やかにログアウトしてください。」


 丘菟が「なんだ、これ?」と水晶を見上げる。


 アソンが「システムエラー?急にメンテって…嬢様のセバスが活躍しすぎたか?」


 と冗談めかすが、声には少し不安が混じる。


 リルが「データに不具合って…怖いね。ログアウトした方がいいよね?」と言う。


 ピヨニットが「あぅ、せっかく試練クリアしたのに…でも、データが壊れたら大変ですわ!」と耳を震わせる。


 セバスが「お嬢様、運営の指示に従うのが賢明かと存じます。丘菟様もご同意を」と冷静に提案する。


 丘菟が頷き、「分かった。せっかくクリアしたのに残念だけど、ログアウトしようぜ。セバス、今回はマジで助かった。すげぇよ」と言う。


 アソンが「ほんとだぜ!嬢様のセバス、最高の活躍だった!丘菟もな!」と扇を振る。


 リルが「セバス、丘菟、ほんとカッコよかった!また一緒に冒険しようね!」と笑う。


 ピヨニットが「丘菟様、セバス、賞賛を送りますわ!私も次はもっと頑張りますわ!」と気合を入れる。


 セバスが「お嬢様、皆さまのご期待に感謝いたします。丘菟様、共に戦えたことを光栄に存じます」と一礼する。


 丘菟が「よし、ログアウト後、また連絡取ろうぜ。アソン、リル、ピヨニット、セバス、お疲れ!」と言う。


「おう、チャットでな!」とアソンが応じ、「お疲れさま!」とリルが手を振る。


「お疲れでしたわ!」とピヨニットが耳を立て、セバスが「では、またお会いしましょう」と穏やかに言う。


 5人はそれぞれヘッドギアのログアウトコマンドを起動し、「コンタクト・エンド」と唱える。


 視界が暗転し、光の粒子が消える。


 現実へ


 丘菟は自室の椅子に座り、ヘッドギアを外す。


 時計は21時を過ぎている。


 机の上の天然水のペットボトルを手に取り、一口飲む。


「ふぅ、めっちゃ疲れたけど…セバスのあの力、なんだったんだ?」と呟く。


 パソコンのモニターを点け、チャットアプリを起動する。


 アソンのアカウントがオンラインになり、すぐにメッセージが飛んでくる。


「よお、丘菟!試練クリア、マジやばかったな!セバスの最後、なんだあの雷みたいな動き!?」と絵文字付きで送られてくる。


 丘菟はキーボードを叩き、「だろ?俺もびっくりした。あの全能力解放みたいなの、設定にあったっけ?」と返す。


 リルからもメッセージが届く。「丘菟、アソン、お疲れ!セバスと丘菟、ほんとカッコよかったよ!でも急なメンテ、びっくりしたね…」と少し心配そうな文面。


 ピヨニットのメッセージが続く。「丘菟様、アソン様、リルちゃん、お疲れでしたわ!あのメンテナンス、データ大丈夫ですわよね…?あぅ、ちょっと心配ですわ!」とハラハラした絵文字付き。


 丘菟は「みんなお疲れ。ピヨニット、データは多分大丈夫だろ。運営がすぐメンテ入れたってことは、ちゃんと対応する気なんだと思う」と返信する。


 だが、丘菟の頭にはあの男性の声とセバスの異常な力が引っかかっている。


「アソン、ちょっと頼みがある」とチャットで送る。


「お、なんだ?嬢様の俺に何でも言え!」とアソンが即答。


「今回の急なメンテ、なんか変だろ?セバスのあの力も普通じゃなかった。裏取りできるか?お前、ゲームのフォーラムとか詳しいだろ」と送る。


 アソンが「ほほう、確かに怪しいな。セバスの雷みたいな動き、絶対イレギュラーだろ。よし、フォーラムとXで情報漁ってみるぜ。なんか見つけたらすぐ連絡する!」と返す。


 丘菟は「サンキュ、頼んだ」と返し、モニターを見つめる。



 モニタールーム


 薄暗い空間に機械の唸りと点滅ランプが響く。


 巨大なスクリーンには、丘菟たちのログアウト直後のデータログが流れる。


 白髪混じりの男性が立ち上がり、「やはりこれは確定だな。セバースチャーンの全能力解放、星5アップデートの証拠だ」と呟く。


 脇田が「先輩、マザーAIが勝手に適用したんすよね?会議で大問題っすよ!」と叫ぶ。


 男性がスクリーンを切り替え、セバスの戦闘ログを再生する。


「反応速度、学習速度、限界突破…全部星5級だ。マザーAIが会議前の課金要素を先行適用した。脇田君、緊急メンテの準備を始めろ。トップを集めて会議だ!」と宣言。


 脇田が「了解っす!でも、これ、プレイヤーにバレたらやばいっすね」とメガネを光らせる。


 スクリーンの光が男性の顔を照らし、遺跡の水晶が静かに光を失う。


 丘菟はパソコンを閉じ、ベッドに倒れ込む。


「セバスの力…マザーAIのバグか、それとも…?」と呟き、目を閉じる。


 明日のアソンの裏取りが新たな謎を解く鍵となる。

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